第5話 固有スキルの覚醒

 異世界に召喚されてから一週間後。

 予定通り恩寵ギフトの覚醒儀式が行われることになった。


 玉座の間に集められた僕達は、また一列に並ばされる。

 魔力が回復したアナハールが「よぉし、絶好調じゃ!」とやたらテンションを上げ、ぶんぶんと両腕を振り回していた。


「皆様方は既に学ばれていると思いますが、神々から与えし恩寵ギフトをわたくし達は『固有スキル』と申しております。能力は職業によって千差万別ですが、必ず皆様のお役に立てる偉大なるご加護となり得るでしょう」


 ミザリーが丁寧な口調で説明してくる。

 固有スキルか……僕だけに備わったチート能力という解釈でいいのかな?

 もし強力なスキルだったら、この惨めな状況を打破できるかもしれない。

 いや待てよ。

 逆に謎のハズレ職業だけに、それすら与えられてない可能性も……。


 不安を過らせる中、次々と生徒達の固有スキルを覚醒していく。

 その度に術を施しているアナハールと国王を含む全員から、「おお~っ!」と驚きと喜びの声が上がった。

 どうやら、みんな職業にマッチした強力っぽいスキルが得られていたようだ。


 そして僕の番になると。


「――ん? 《配信》スキルじゃと? これまたなんとも……う~む」


 再び難色の言葉を浴びせられてしまう。


「またわからないんですか?」


「……すまん。ワシでも、さっぱりわからん。賢者なのにすまんのぅ、思わず自信をなくしてしまうわい」


 アナハールはテンションを下げて謝ってきた。

 いや、別にこの爺さんが頭をさげる話じゃないけどね。

 なんでも施された儀式は、秘められた固有スキルを引き出すだけで能力の詳細まではわからないらしい。


「いえ、僕の方こそなんかごめんなさい……」


 なんで僕が謝らなければならないんだろう?

 固有スキルが備わっていたという点だけは良かったというべきか。


「流石、クロ助だな。ここまで無能だと天才としか言えないわ~、ひゃはははは!」


「まったくツッコミどころが多いっつーか、もうギャグだな」


「マジきめぇ。唯一の取り柄は可愛い妹ちゃんだけじゃん」


「豚だって人間に食われるって価値があるってのに、こいつはそれ以下の雑魚だわ、ぎゃははは!」


 三井達の陰口。わざわざ僕に聞こえるように言ってくる。

 聞こえない振りをするも、やっぱり心にぐさりと刺さるものがあった。


 わけのわからない職業と固有スキル。

 魔力値:0のステータス。

 唯一の取り柄は体力値のみ。


 ……悲しくなってきた。


 それから最後、月渚の番になる。


 すると。


「――なんじゃと!? 《捕食》スキルじゃと!!!?」


 アナハールは驚愕した。

 だが何か様子が可笑しい。やたらと老体を小刻みに震わせている。

 なんだ?

 今までと明らかに雰囲気が違うぞ?


 アナハールだけじゃない、ミザリーも国王もシンシアも全員が目を見開き硬直していた。


「あ、あのぅ……妹の固有スキルで何か問題でも?」


「……いや、なんでもない」


 月渚から離れたアナハールはやたら距離を取り始める。

 ミザリーもささっと後退し、バルハルドと含む騎士達が物々しい雰囲気で僕達の周りを囲み始めた。


「これはどういうことですか?」


 白石先生が毅然として問う。


「やめろ、皆の者! 客人に対して無礼だぞ! すまん、其方らよ。配下達の無礼を赦してほしい」


 リヒド国王が謝罪すると、騎士達は下がり元の位置に収まった。

 なんなんだ、いったい?


「どういうことかと聞いているのですが?」


「……う、うむ。そのぅ、そのままなのだ。文献が正しければ、魔王が所持する固有スキルに……月渚殿が覚醒した《捕食》スキルがな」


「「え!?」」


 リヒド国王の説明に、僕と月渚は声を荒げ驚く。


「つまりよぉ、クロ助の妹が魔王ってことじゃね? もうラスボス、そこにいるってことじゃん! ウケるわ~~~、ギャハハハハ――ぶほぉっ!」


 三井は嫌味ったらしく大きな声で嘲笑おうとした瞬間、何者かが猛スピードで奴の顔面を殴った。

 久賀くんではない。

 なんと滝上だった。

 彼は拳闘士ピュージリストという職業に覚醒し、ボクシング部で培った技術もあり相当レベルを上げていると聞く。


 魔法戦士マジックファイターの三井とて、滝上の拳を容易く躱せるわけがない。

 吹き飛ばされ、三回くらい宙を回転し石床に叩きつけられた。

 完全に意識を失いノックアウトされている。頬を晴らし、歯が数本折られている。


「可愛らしい、月渚ちゃんに限ってんなわけあるか、このドクズが! 義理兄にいさん、俺が代わりに畜生を成敗してやりましたよ!」


 滝上は僕に向けて親指を立てて見せる。

 僕はキミの義理兄にいさんじゃないんだけど……てかやり過ぎだと思う。

 おかげで三井の仲間達は怯えてしまい、鉄拳制裁を受けないよう身を縮めている。


「滝上殿の言葉にも一理ある。まだそう決まったわけではない。それに一週間の様子からしても、その傾向は見られなかった。そうだな、シンシア?」


「はいお父様。月渚はわたくしにとって大切なお友達には変わりありません」


「しかし陛下に王女、固有スキルを覚醒させた以上、今後何が起こるかわからない可能性も否定できませんのじゃ。これは私情ではなく宮廷魔法師の責務としての進言ですぞ」


 アナハールの冷たい口調で言ってきた。

 それが自分の役割だと言わんばかりに。

 

「ですがアナハール様。月渚様は間違いなく女神ミサエラが導いた異界の民。それは紛れもない事実です。わざわざ魔王たる者を召喚させますでしょうか?」


 ミザリーは女神ミサエラに仕える聖職者として見解を述べる。


「だが魔王軍では魔王枠が空いているという噂もある……召喚の際、別の作用が働いたのか。案外この者が自力で……」


「そんなわけないじゃないですか! 元いた世界じゃ、月渚は僕と普通に暮らしていたんですよ! そっちが勝手に呼び寄せておいて何を言っているんだ!」


 立場だから言っているかもしれないけど、あまりにも突拍子のない憶測に僕も黙っていられない。

 理不尽で間違っているところは断固として否定する。

 その姿勢のおかげで僕はぼっちなんだけど。


「黒咲の言うとおりだ。妹に危害を加えるつもりならよぉ、俺も黙っちゃいねーぜ!」


「わたしもです! どう考えても黒咲くんが正しいです! どうしても暴挙に出るというのなら考えがあります!」


 久賀くんと一ノ瀬さんが、僕の意見に賛同し味方になってくれる。

 この場面での援護は本当にありがたい。

 カースト上位を誇る二人からの加勢もあり、他の生徒達も「流石に横暴じゃね?」と意見を述べている。


 向こう側クラスメイトから一目置かれる勇者の速水は「みんな、まずは落ち着こうよ」と宥め、どっちつかずの姿勢だ。


「――国王、私から提案があります。妹さんの件に関して、兄である黒咲君が24時間監視し定期に報告するというのは如何でしょう?」


 生徒会長の芝宮さんが、リヒド国王に対して進言してきた。

 彼女は聖騎士パラディンに覚醒している。


「うむ、それでいいだろう。それで良いか、ユヅキ殿?」


「はい、ありがとうございます。久賀くんも一ノ瀬さんもありがと。そして芝宮さんも……」


「礼なら不要です。私は効率の悪い問答を延々とされることが無駄でしかないと思っていますから」


 相変わらず芝宮さんはクールビューティーだ。

 速水以上に頭が良い女子だけど周囲から「氷帝麗女ひょうていれいじょ」と呼ばれるだけあり、塩対応で冷静すぎるというか感情を持たないというか。

 だからあんまり声を掛けにくいんだけど……。


 こうして月渚は僕が見守ることになった。


 だけど、その日の夜。

 僕と月渚は奴ら・・によって魔境と呼ばれるダンジョンへと追放されてしまうのだ。

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