ありえない職業「ライバー《配信者》」の異世界最強ライフ~追放された妹と生きるためライブ配信したらバズった。フォロワーは神様達のようです
沙坐麻騎
第00話 プロローグ
「やばい、やばい、やばい――!」
僕はペットである黒い毛並みの子猫『ネム』を抱きかかえ、暗闇の中を走っていた。
捕まったら、きっと
(嫌だぁ、食われたくない! まだ死にたくない!)
その一心で無我夢中で逃げ惑う。
息切れするのも忘れ、どこに向かっているのかわからない。
暗闇に目が慣れてきたのもあり、ここが魔窟ことダンジョンの中であることだけは理解していた。
僕は巨大な空洞を延々と走っているが、前方の方で枝分かれしている箇所がある。
小さな洞穴のように見えた。
僕は迷わず洞穴に入り身を隠した。
座り込み乱れた呼吸を整えていると、遠くから異様な地鳴りが聞こえてくる。
次第にそれは近づいてきた。
「……
僕はネムを包むように抱きしめ、ひたすら身を震わせる。
子猫は「ミャー」と可愛らしい声を上げ、僕の頬をペロペロと舐めていた。
癒される家族のような存在、ネムがいなければ僕はとっくの前に正気を失い狂っているだろう。
そして息を潜め、じっと動かないよう意識する。
絶対に見つかってはいけない。
ズドォォォン!
激しい衝撃による地響きで、僕の体はびくっと跳ね上がる。
もう、すぐ近くまで迫っているのか。
(見つかったらアウトだ……なんとかやり過ごしてくれ! 頼む!)
僕は目を瞑って身を屈めて必死にそう念じる。
規則正しい鳴動が何度か伝わるも、不意にぴたりと止む。
一瞬、「やり過ごせたのか?」とハッピーな思考が過り目を開けた。
けどそんな筈はなかった。
『おニィちゃ~~~ん、ミィつけたぁぁぁぁぁ!』
下腹部に響く図太い唸り声。
直後、洞穴の岩壁が砕かれ大きく削られた。
易々と岩は抉られ、次第に姿を見えてくる漆黒の巨大な指先と強靭な爪。
僕は血の気が引き、ただ呆然とその光景を見入ってしまう。
「……る、
削られた岩の隙間から、赤く光る縦割れの大きな眼光がこちらを捉えている。
『おニィちゃ~~~ん、タべてもい~~~い?』
「うわぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!」
僕は悲鳴を上げ後退る。
けど後ろは行き止まりで逃げ場はない。
恐怖でパニックを起こし、一心不乱に腕を掲げて掌を翳した。
「――《配信》!」
僕は覚醒した固有スキルを発動する。
すると翳した掌から、半透明の四角い板が出現した。
まるでゲームのステータス・ウィンドウのようだ。
けど、何か違うぞ……。
:ついにキタコレ
:おっ、始まったか?
:ばんわー
:ここどこ?
:うp主、説明求む
ウィンドウから様々なコメント列を成し書き込まれている。
「な、何これ?」
あまりにもシュールな能力に、窮地であることを忘れてしまうほど唖然とした。
《配信》スキルってそういうこと?
いや、でもここって異世界だよね?
てか誰なの、この人達?
突拍子のない固有スキルに思考が冷静になったのか、今までの経緯が走馬灯のように蘇っていた。
そう、あれは僕達が異世界に転移される前から遡る。
◇◇◇
僕の名は、
親戚の支援を受け、今は妹の
ああ忘れていた、三ヵ月前に妹が拾った子猫のネムも一緒だ。
僕の両親は幼い頃に事故で他界しており、それまで祖父母が保護者として面倒を見てくれていた。
幸い両親は財産を残してくれたので、僕が高校に進学したことをきっかけに部屋を借りて妹と暮らしていくことにしたんだ。
その際の保証人も祖父が快く引き受けてくれ、今はコンビニでアルバイトしながら切り詰めた生活を送っている。
せめて妹が20歳になるまで、兄として僕が頑張らなきゃと思いながら――。
「お兄ちゃん、お帰り~」
アルバイトから帰宅すると、妹の
今年で14歳、中学二年生だ。
小柄で華奢な体つき、ミディアムヘアーがよく似合う色白の女の子。
くりっとした大きな二重の瞳、小さな鼻梁に柔らかそうな薄いピンク色の唇。
可愛らしい小動物のようで、性格も優しく兄思いの僕にとって自慢の妹とも言える。
「ただいま、月渚。ネムもちゃんと留守番していたか?」
僕は妹の胸に抱きかかえている黒猫の頭を優しく撫でる。
ネムは僕に懐いており、「ミャァ」と可愛らしく鳴いていた。
三ヵ月前に月渚が拾った子猫であり、家賃から6千円上乗せすることでペットとして飼うことになった経緯がある(その分、アルバイトのシフトを増やす羽目になったのだけど仕方ない)。
「お兄ちゃん。今週の土曜日、授業参観に行ってもいい?」
晩御飯を食べ終え、唯一息抜きであるスマホでWeb小説を読んでいると、不意に妹が言ってきた。
「授業参観って……月渚がか? いや普通、出席するのって親とかだろ? 妹が出るなんて聞いたことないぞ」
「けど、プリントとかには『妹は駄目』とか書いてないし、あたしもお兄ちゃんの学校とか見に行きたいなって思って……駄目?」
う~ん、駄目と言うか……普通に恥ずかしんだけど。
それに学校にいる時の姿を慕ってくれる妹に見せたくないというか。
正直、いい環境とは言い難いし純粋な月渚に悪影響を及ぼさないか心配だ。
僕は横目で、月渚の顔を見つめる。
大きな瞳を潤ませ上目遣いで懇願していた。
そんな顔をされたら駄目とは言えない。
「わかったよ……先生に相談してみるよ。けどあまり期待するなよ」
「うん、お兄ちゃんありがと!」
満面の笑みを浮かべる月渚。
自分の妹ながら本当に可愛い。
なんだかんだ僕も月渚を溺愛している。
◇◇◇
「――相変わらず黒咲は妹思いだな。いいんじゃないか?」
「え? 本当ですか、白石先生?」
翌日の職員室にて、僕は担任の教論に相談した。
教師となって五年も満たない若手だけど、いつも毅然としており綺麗な顔立ちから男女共に人気が高い。
理科を担当しているからか、いつも白衣を着ている。
「ああ、どうせ保護者が来ても一人か二人程度だ。その後の懇談会は流石にアレだが授業を見る分には問題ないだろう」
「ありがとうございます。きっと妹も喜ぶと思います」
「……まぁ私も一度、黒咲の妹に会ってみたいと思っていたしな」
「先生がですか?」
「いや忘れてくれ。ほら、もうじき授業が始まるぞ」
白石先生に促され、僕は職員室を後にした。
人当たりはいい先生だけど、時折意味深なことを言ってくる。
今思えば、このことが僕と月渚にとって運命の分岐点だったのかもしれない。
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