第3話 汚部屋にて
「ただいま……」
ああ、今一番この言葉を言いたくないのだけれど、お金のない学生に行く場所もなく、結局家に帰ってきた。
「……」
お父さんがリビングでお酒を飲んでいる、私が帰っても振り返りもしない。
部屋は汚いし、台所には使い終わった食器が山のようになっていた。
料理もしないからコンビニのゴミがたまっていく。朝、調子が悪くて起きられないことが多くて賞味期限切れの食べ物、腐ったものが捨てられない。
お父さんがいるけれどもこの家で片づける人は私しかいないのだ。
その現実を直視するのが嫌で、また帰るのが嫌だった。
おおよそ2か月前、お母さんはこの家を出て行った。
お父さんいわく、隣の家の旦那さんと浮気していたというのだ。
お母さんは全く持ってそんなことをするようなタイプの人間ではないし、
お酒の飲みすぎで幻覚でもみたんじゃないの?
と私が言ってしまったせいで、お父さんとはそれ以来溝ができてしまった。
仕事には行っているようだけれども、家では常に酔っぱらっている。
家族はこんな調子なので、私は自分の悩みを誰にも伝えることができずにいた。
この家はどうにも空気が悪い。そう、邪のものが入ってきやすい雰囲気になっている。いままではお父さんやお母さんの生命力があったし、私自身も付け込まれるようなスキを持たないようにしてきていた。けれども、それも全部崩れて入りたい放題だ。
外でないので、気を抜いている瞬間というものが多いのが家の中というものだろう。その瞬間に、不意打ちで私と話そうとしたり、取り入って殺そうとしたりするものがいる。
ふと、真夜中にクローゼットの隙間が気になる瞬間があるだろう。
たいていの人は思い過ごしなのだけれども、たまに本物がいることがある。けれども、普通は見ることはでいないし、見えやすい体質の人でも元気な時であればなんら問題がない。
けれども寝入る瞬間であったり、陰の気が満ちているような真夜中や雨の日はごくまれに、ダメな時がある。ああ……今はダメな時だ。目が三つ、空中に並んでこちらを見ている。
「あーねむい……ねよう」
わざとらしく大声をあげてベッドに横になる。胸に昔、おばあちゃんと一緒にいった旅行で買ったお守りを抱く。お守りって一年しか効果がないって聞くけれども本当だろうか。
幽霊が家に出るようになってから、ずっと体が緊張しっぱなしだ。
リラックスするために深呼吸をして、目をつぶって……
なんだかいやなにおいがする気がする。リビングは荒れているけれど、
わたしの部屋は別にきれいだし、きっと気のせいなんだと思うけれど。生肉が腐ったようなにおいがする……いや、気のせい、気のせい。
匂いをごまかすためにラベンダーのお香を炊いて、ようやくずっとかみしめていた奥歯を離すことができた。家の中がゴミだらけですえた臭いがする。けれど部屋をかたずける気力もない。お父さんが食べ散らかしたコンビニの弁当ゴミ、食べ残しのゴミが積みあがっている。もうそんなのどうでもいいくらい、最近じゃ疲れて仕方がない。
ああ……意識が遠くなっていく……
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