第46話 双星機、調整中!
何度かの遠征を経て、手ごたえを感じていた。
ロジスタルスのメンバーもきっと同じだし、住民たちから感謝の言葉を貰うのは励みになる。リンダとルシオも合流した。作戦は順調に進行中だ。
やはり両勢力、というか特に教会勢力は辺境には目を向けていない。
今までも教会の方針に反してでも辺境に住み、ラヴェルサの襲撃から自衛してきた人たちだ。今更故郷を離れるなんてできないんだと思う。
彼らを助け続ければそれなりに支持を集めることができるだろう。
でも彼らはメインストリームじゃない。
大きなうねりを作るには、やはりもっと大きな街を効果的に救出する必要がある。
例えば帝都のような……。
それはつまり住民たちが生命の危機にさらされるってことだ。
世界を救うために人々を窮地に陥らせるなんて、正義の味方のやることじゃないけど、俺達に手段を選ぶ余裕はない。状況は最大限に利用させてもらう。
―――――――――――――――
「ケンセー、アレ見てよ!」
「ああ、そうみたいだな!」
遠征から森の拠点に戻った俺は、巨大な機人に出迎えられることになった。
今までどこに仕舞っていたのか、その機人は埃を被っているけど、自らが持つ大きな力は隠しきれていない。
「これが双星機……」
四肢の揃った完全な人型の機人。
リグド・テランからパーツが運び込まれたのだろう。
この蒼い機人が俺たちの希望なんだ。
「おう、剣星。戻ったか」
双子のメカニック、おやっさんズが寄ってきた。
顔も体形もそっくりなので見分けがつかない。
「キルレイドの奴が呼んでたぞ。戻ったらすぐに来てくれってな」
「分かりました」
「それとコイツの調整は任せてくれ。きっちり仕上げといてやるぜ」
俺の操縦を知り尽くしてる二人なら最高に状態にしてくれるだろう。
「お願いします。ちょっと相談があるんですけど……」
二人にお願いして、キルレイドさんの元に向かう。
「ケンセー、なにを頼んでたの?」
「ん~、まあ、ちょっと考えてることがあってさ。レトには後で話すよ」
「おっ、ちゃんと報告する気あるんだ。感心感心」
なんだか子ども扱いされてるな。
まあ、自分でも分かるけど。
今までの俺は子どもだった。
でもこれからも同じってわけじゃない。
一歩づつでも成長していくんだ。
「失礼します」
「おう、入れ。剣星、格納庫の機人は見たな?」
「はい。あれが双星機ですよね?」
「そうだ。お前らがしばらく外に出ている間にセイレーンから届いた。それと無線もな。ラヴェルサがセイレーンの故郷に向かっているそうだが、彼女はアスラレイドである故に持ち場を離れることができない。だから助けてくれってお前をご指名だ。どうせ双星機の整備には数日かかる。行ってきてくれないか?」
「俺を指名ですか? 分かりました。それで戦況はどうなってます?」
「大きくは動いていないが、リグド・テランが優勢と見ていいだろう。奴らはラヴェルサを巧みに誘導して教会勢力側に向かわせ、自分たちは戦力を温存させている。流石にそのあたりの事は奴らの十八番だ。教会も今は耐えているが決戦の後だからな。いつまで踏ん張れるか分からない。リグド・テランは機を見て攻勢を強める予定だろう」
つまり時間はそれほどないってことだ。
リグド・テランの大攻勢が始まってしまったら、俺の作戦は失敗になる。
例え教会勢力の窮地を救ったとしても、被害が大きければ復讐心に燃えるから。
それでもラヴェルサの地下プラントを破壊でれば、長い年月を経て平和に向かって行くと思う。
でも、それだと俺の望みは叶わない。
だから、それまでに絶対アルフィナを救い出す。
ついでに地下プラントもできるだけ浄化して被害の拡大を抑える。
ラヴェルサは暴走するだろうけど、相当な数がいそうだ。
互いに争っている場合じゃなくなるからな。
上層部が戦争継続を望んでいたとしても、民衆からの突き上げがあれば防げるかもしれない。
てか、セイレーンの方はそうしてもらうように伝えてある。
「戻ってきたばかりで悪いが、何人か連れてすぐに向かってくれ」
「了解です」
これまでは国境付近に隠れていつでも救助に向かえるようにスタンバイしてたんだけど、ようやく今日この基地に戻ってきた。
それが再び出発だ。
でも、双星機をこの目で見たおかげだろうか、気力は充実してる。
「剣星、話は聞いてるな? 私も一緒に行く事になった」
格納庫に戻ってすぐにイオリから話しかけられた。
キルレイドさんが俺に気を使ったのだろうか。
……いや、そうじゃないよな。
セイレーンは代々聖女をお世話する一族だって話だ。
普通に考えれば、これから向かう先にはアルフィナの世話をしている関係者がいるんだから、イオリが話を聞きに行きたいと望むのは自然なことだ。例え、何も情報を持っていない可能性があるとしても。
ロジスタルスの二機を加え、俺達四機は一路、針路を北にとる。
リグド・テラン内部に侵入するには心もとないけど、小隊の方が小回りが利く。
リグド・テランも戦力を東に集中させているから大丈夫なのかもしれない。
俺は詳しい状況を知らないけど、イオリは今までこっちで活動してたので、そこは信頼するしかない。走行中は私語は無し。流石に敵国だから警戒を最優先だ。
「でも、ロジスタルスの人はリグド・テランを助けるのは嫌じゃないのかな?」
レトが疑問を口にした。
もっともだけど、問題ないからこうして一緒に戦ってくれるのだろう。
「リグド・テランでクーデターを起こさせようってことだからな。民間人を助けて、自国の利益になるならいいんじゃないか?」
「ふ~ん、そんなものなのかな」
人を殺すよりはよっぽどいい。
特に実戦経験の少ない若者たちにとってはそうだろう。
もちろん俺も同様だ。
「情報通りだと、まもなくのはずだが……」
イオリから無線が飛んでくる。
「ここまでは敵に見つからずに来れたな」
「だが、ラヴェルサもいない。もしやセイレーンに騙されたのではあるまいな」
可能性が完全にないと言えるほど、セイレーンのことを知っているわけじゃない。
だけど、彼女を良く知るキルレイドさんの言葉は信じたい。
というか、事態は俺達二人だけで解決できる問題じゃないから。
二人で逃避行でもするならともかく、アルフィナを助けて世界に平和をもたらすためには、仲間のことを信じる以外の選択肢はない。
ほどなくして小さな集落が見えてきた。
まるで俺達を待っていたかのように一人の老婆がこちらに頭を下げている。
「どういうことなんだろうな……」
ラヴェルサとの戦闘があった形跡はないし、そもそも機人の姿がない。
セイレーンが得た情報が間違っていたのか。
それとも襲撃はこれからなのか。
「セイレーン様から聞いております。どうぞこちらへ」
どうやら、なにかの思惑があって、俺達をここに呼んだらしい。
俺達をロジスタルスから引き離すのが目的か?
戦力を分散させようとするなら、そもそも双星機のパーツを送って来ないだろう。
俺達は案内に従って機人を移動させた。
村の女性が数人現れて、機人を隠すようにシートで覆っていく。
ここでどんな話を聞かされるのか、緊張感が高まっていった。
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