第30話 レトさん、マジ凄いっす!
だりぃ、まだ起きたくねぇ。
昨晩頭を使いすぎたせいだろうか、いつの間にか眠ってしまったようだ。
俺の感覚だと朝のトレーニングの時間までまだあるはずだ。
もうひと眠りしたい。
でもなんだろう。
何かが近づいてる気がする。
でかい虫でも飛んできたのか。
鼻のあたりを手で掴んだ。
「ふぎゃ! 何すんのよ、馬鹿ケンセー!」
「レトの方こそ人の鼻に何しようってんだ」
「ただの朝の日課よ。いいから、は~な~せ~」
つまんでいた指を離してレトを解放する。
それにしても、今の感覚はなんだったんだろう。
目を瞑っていたのに、近づいてくるのが分かったぞ。
「毎朝、イタズラしてたのかよ」
「ケンセーだってわかってるんでしょ、これが私の愛情表現だって!」
「いや、そういうのいらないんで。それより今までのことは許してやるから、ちょっと協力してくれ」
という訳で、レトの協力を得て、実験することにした。
目を瞑ってレトに近くを飛び回ってもらう。
んで、レトがいる方を指さす。
目を開くと、指の先にはレトの姿があった。
もう一度、またもう一度と繰り返す。
その悉くでレトの場所が分かった。
「どうだ、目で見てなくてもレトの場所が分かったぞ」
「どうだって、そんなの普通わかるよね? どうしたの? 熱でも出てるの?」
普通じゃねーだろ。
普通は分からないだろ……って言いたいところだけど、イオリや副長の例もあるしなぁ。
「いやいや俺は凡人なんで。やっぱレトさんが特別なんすよ。どういうことか、ちょっと教えてくれません?」
「もう、しょ~がないな~」
レトさん、マジちょろいっす。
「え~っとね。頭の中は真っ黒なんだけど、誰かに近づくとピカピカ光るの」
「うん」
俺も大体そんな感じだった。
「ピカピカには色とか大きさがあって、それで、あっ、これはケンセーだな~とか分かるのよ。ちょっと外に出てみよ。二人組が近づいてきてるよ」
外にはレトの言う通りに、男女が早朝から肩を寄せ合って歩いていた。
「(男の人は嬉しそうで、女の人は怒ってる感じかな)」
「(俺にはレト以外に全く反応がないんだけど?)」
「(才能の差かな~)」
何で俺はレトだけは分かるんだ?
それも、今朝になっていきなりだ。
能力自体はあったけど、俺がそれに気づいていなかったって線もある。
副長に話を聞いて寝ている間に頭が整理されたのかもしれない。
そういえば副長は昨晩、レトの存在に気づいていなかった。
後ろから近づく何かを感知できるならレトの事も分かってもいいんじゃないか。
レトの存在に気づいたのはアルフィナ一人だけだ。
心の中で話せるのもそうだ。
レトも知らなかったし、俺とレトの間に何があるって言うんだ。
そもそも、レトって何者だよ。
本人に聞いても、分からないだろうけど。
異世界ってことで納得しちゃってたけど、こんな生物、他にいないじゃねーか。
そういえば話せるって教えてくれたのは誰だったっけ。
聞けば何かが分かるかもしれない。
そうだ、これもアルフィナだ。
あかん、この忙しい時期に絶対話なんて聞けるわけない。
気づくの遅すぎだろ、俺は。
「(それにしても、感情まで分かっちゃうのかよ、すげーな)」
「(なんとなくだけどね)」
「(ちなみにラヴェルサの反応も分かるの?)」
「(う~ん、怒ってるのと寂しい感じ?)」
「(……おーまいごっど)」
ラヴェルサの位置が分かるなら、戦闘が楽になるかな、くらいの気持ちで聞いたのに、まさかの返答だよ。怒ってるのは分かるけど、寂しいってなんだよ。意味わかんねえよ。
それから出撃までの間、実験を繰り返したけど、俺はレト以外を感知する事ができなかった。正直ラヴェルサに感情があるって聞いてから、集中していなかったと思う。だから皆にも話さない方がいいだろう。
「おっ、あいつら丁度揃ってるな」
格納庫前に集合している若手三人組に駆け寄った。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、戦ってる時に後ろからの攻撃に気づいたりする?」
「そんなことできたらエースだよ、ソイツは」
「僕らにできるのは声を掛け合って後ろを取られないようにすることくらいですね」
「決戦が近いんだから、もっと現実見た方がいいんじゃない?」
やっぱ、そうだよなぁ。
装甲機人のハッチを開けて中に入る。
当然レトも一緒だ。
戦闘中、レトは俺の髪で遊びながら宙に浮いている。
その時、たまに敵の位置を知らせてくれてたんだけど、良く見えてるなって感心してたんだ。でも実際は見てるんじゃなくて感じてたってことだよな? レトは
装甲機人を走らせながら、レトを呼ぶ。
「(ちょっとお願いがあるんだけど)」
「(嫌!)」
「(俺が危なそうな時には、声掛けてくれるじゃん? 今回それを続けてくれないかな~って)」
「(三つ編みにするので忙しいの。それにそんなことしてたらケンセーが強くならないでしょ、だから嫌)」
正論過ぎて反論できねぇ。
それにいつもよく黙ってくれてるなって思ってたんだけど、そんな暇つぶししてたのかよ。まあいいさ、でも引き下がるわけにはいかないんだよ。
「(レト……今回の作戦はすげー大事なんだ。生き残るだけじゃなくて絶対勝たなきゃ駄目なんだ。頼むよ)」
「(でも、ずっと話すのって疲れるんだよ? 面倒くさいんだよ?)」
「(どの口が言ってんだよ!)」
「(しょ~がないな~。話すのは面倒だから、ちょっと待ってて。う~ん、こんな感じかな?)」
「うおっ! なんだこりゃ!」
「剣星、どうした?」
いかんいかん。驚きで声を出してしまった。
「いえ、すんません。問題ありません」
「了解、しっかりしなよ」
何が驚いたかって、急に頭の中に光の点が映しだされたんだ。
俺の近くを五つの点が移動している。
まるでレーダーみたいだ。
「(レトはこんな風に感じていたのか)」
「(まあっね~)」
これはレトレーダーと名付けよう。
レトレーダーと現実の配置を確認する。
点の大きさは副長が少し大きいくらいで、他の皆は同じくらいかな。
遠くの点はラヴェルサだろうか。
かなり大きいぞ。
この世界にやって来て、一年弱、俺にも漸くチートがキタ!
でも、イオリとか副長は、恐らく、これを自分の力で感じてるんだよな。
それを俺はレトを通して、ずるして見てるだけ。
まさしくチートだよ。
俺とレトは相棒みたいなものだ、たぶん。
だから複座型に乗って、協力してるようなものだと思っておこう。
それにしても何故、俺とレトはこんなことができるんだろう。
俺とレトの間には、アルフィナが言っていた見えない道があって、言葉だけじゃなく、映像のやりとりもできるってことか?
ともかく今日の戦闘で試してみよう。
俺達は今、地下プラントに向けて進んでいる。
最後の作戦発動はまだだけど、広義では既に開始されているといっていいだろう。
本番と同じように味方が作ってくれた道を走り、どんどん奥に進んでいく。そこでラヴェルサを倒しまくって、間引いておく必要があるんだ。
全軍を見れば、強さに差があり、それによって担当エリアを決められているけど、だからといって、完全に信用できるものではない。
特に帝都に近いエリアは、普段は城壁付近を防衛している神聖レグナリア帝国軍を中心に配備されているから、戦力としては心もとない。
その他、同盟している教会勢力の国家も援軍を送ってくれてるけど、強さとしては、それほどではないらしい。
何故なら、同盟国に強い操者がいたとしても、ラヴェルサの来なくなった自国に留まるより、教会本部のある国で傭兵として活動した方が懐が温まるからだ。
それが聖女と教会本部が作る人の流れでもあるってこと。
そのため、帝都近辺は比較的ラヴェルサの攻勢が弱いエリアにも関わらず、戦力的には一番不安を抱えるという事態となってしまう。これを容易に是正する方法は存在せず、結局はラヴェルサの数を減らして、負担を軽減する事でしか解決しないんだ。
その間にも地下プラントは新たなラヴェルサの機人が生みだされている。
それは後々、より奥地に配備された部隊の負担になることは間違いないんだけど、帝都付近での戦闘は帝国民の感情的に許されることではないだろう。
そしてそれは教会も同様のはずだ。
信頼を、延いては信仰を失う事に繋がるのだから。
今日の戦闘予定地である第五エリアに到着した俺たちは、左翼に展開して戦っていた。いつもより霧が濃い状況なのに、俺はレトレーダーの力を借りて、効率的に移動することで多くのラヴェルサを倒すことに成功していた。
「剣星、いったいどうしたんだい。絶好調じゃないか」
「昨晩、副長から助言を貰ったんで」
「え~、私にも教えて下さいよ~」
「たいしたことは言っていない」
声に抑揚はないけど、どことなく照れているようにも感じる。
視野をもっと広くしろという副長の助言は、本当なら神経を集中させて、音とか、細かな変化を注意深く観察しろってことだと思う。
俺はそんなことは全くせずに、レトの力を借りているだけに過ぎない。
いずれは自分でもとは思うけど、贅沢いえる状況じゃないだろう。
副長に言われたのはもう一つ、自分を客観視しろという事。
熱くならずに自分のできることを冷静に見極めるって感じだと思う。
どうやったらできるのか。
まだ分からないけど、できたら何か変わるんだろうか。
「でも、ホント変わりましたよ。ちょっと前と比べても別人みたいです」
フォルカの言葉に、つい頬が緩んでしまう。
いかんいかん。
まだ戦闘は継続中、敵増援もあるみたいだし、油断は禁物だ。
でもこの調子なら本番までに、俺はもっともっと強くなれる。
そんな気がするんだ。
戦闘を開始してから五時間後、俺達は帝都に戻った。
普段よりもかなり長めの戦闘時間で、体も頭も疲れているはずなのに、精神的には充実している。今までも自分が成長している実感はあったけど、同時にこのままで大丈夫なんだろうかという不安があった。
今日、俺は殻を破れたような気がするんだ。このまま成長できればアルフィナを救えるんじゃないか、自然とそう思えてくる。
「なんかケンセー、ニヤニヤしてて気持ち悪い」
「いや、ホント助かったよ。レトのおかげだ。レトは疲れてない?」
「全然!」
思わず拳に力が入る。レトは戦闘中ずっと俺にレトレーダーの映像を送り続けていた。どれほどの疲れがあるのかと心配したけど杞憂だったようだ。
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