第10話 聖王機エスタシュリオ!!

 

「よーし、いいぞ。そのまま、まっすぐ進め」



 イオリの指示に従い、聖王機は元の戦場に戻るべく、大地を疾走していた。


 初めは威風堂々とした聖王機を操っていることに興奮していた。

 けれど、それも既に収まっている。

 わずかな時間で何度もこけてしまえば、自分のセンスを疑ってしまうものだ。


 俺にだって、短い時間だけど操縦経験はあるんだ。

 だから大丈夫だろうと、それなりに自信を持っていた。


 ところが、聖王機は想像以上のじゃじゃ馬だった。


 これまでの機人と比べてパワーが段違いなんだ。

 それにレスポンスが良すぎるし、むしろ搭乗経験が邪魔をしていると感じる。


 問題はそれだけじゃない。


 ようやく少し慣れてきたけど、今度はスピードに振り回された。

 聖王機のパワーは圧倒的な加速度を引きだしている。


 今までの機人よりも速いのは想像していたさ。

 そうはいっても、すぐに対応できるわけじゃないってことだ。


 今まで自家用車で一般道をノロノロ走っていたと思ったら、急にレーシングカーに乗せられてコースをぶっ放してる感じだろうか。


 転ばないように走るだけでも大変なのに、地形を把握する必要もある。


 運転慣れしてた奴なら問題ないのかもしれないけど、ペーパードライバーの俺には結構きつい。


 ここら一帯は起伏があるから、気を抜くと上りがすぐに下りになってたりするし。


 それに加えて聖王機のサイズに慣れる必要もある。

 この機人は他と違い、15mくらいはありそうだった。

 一歩一歩が大きいから違和感が半端ない。

 慣れるのには時間がかかりそう。



 でも、ここは既に戦場で、そんな時間すらないのが現状なわけで……



「右から来てるぞ!」

「うおっ」


 いつの間にか敵が目前に迫っていたようだ。

 声に反応して、適当に剣を横に薙ぐ。

 ヘロヘロの一撃が敵機の脇腹を抉るように刺さった。


「次が来るぞ、すぐに離れろ」


 剣を引き、逃げるように距離を取る。


「すげぇ、本当に俺がやったのかよ」


 聖王機の能力は凄まじい。

 素人まるだしの俺の剣でも強引に敵の機人を引き裂いてしまう。


 敵機は他の機人同様に人型だけど、脚部を強化してるように見える。

 それでも重装甲の聖王機のスピードに全然ついて来れていない。


 けど、まだまだ油断はできない。

 イオリによると、敵勢力は無人だけど、まだまだいるらしいからな。


 でも、これだけの能力があって、どうしてやられたのか疑問が沸いてくる。


 素人の俺でも倒せるんだから、イオリならもっと戦えるんじゃないか。

 一瞬そんな思考がよぎったけど、すぐに思い出した。

 イオリ一人じゃ駄目だから、俺が乗ることになったということを。


 それでもイオリは、頑丈な聖王機で囮になるべく出撃していたんだろう。


 何故そうまでするのかは分からない。

 俺にはきつく当たってきたけど、悪い奴じゃないのかもしれない。


 眼前に二十機以上の敵機が見えてきた。

 アルフィナの想像通りにかなり増えている。

 振動が離れていても伝わってくる。


「いち、に、さん、し。全員無事だな。よっしゃあ、今助けてやるぜ」


 四機のラグナリィシールドには細かい傷が見える。

 だけど、互いの死角を補うように連携して決定打を許していない。


 操縦技能だけじゃなく、経験値によるものなのは明らか。

 理解できたとしても俺が一朝一夕に実践できるようなものじゃないだろう。


 一方、意気込んだのも束の間。


 助けにきたはずの聖王機は、逆に腕にガトリングガンを仕込んだ連中に取り囲まれて集中砲火を浴びていた。


 機人の性能が良くても、操者の技術が上がるわけじゃない。


「や、やばいって」

「落ち着け! 聖王機にとってこんな攻撃問題ない。敵の本命を見極めろ」


 んなこと言われたって。

 俺は必死になって背中から盾を取りだし、ガードする。

 必要ないと言われても、怖いもんは仕方ない。


「後ろから来てるぞ!」

「ええい、くそっ」


 聖王機をみっともなく転がしてゴロゴロと回避。


 元々装甲機人にはセンサー類は何もない。前面装甲からの映像が脳に送られてくるけど、どこから敵の攻撃が来るかなんてのは、人の身同様、機人を動かして周囲を見渡すくらいしか確認方法がなく、すぐにカバーできる範囲なんて限られてる。


「ちゃんと敵機の位置を確認しておけ」

「後ろなんて見れるはずないだろ!」

「見るんじゃない、感じるんだ!」

「無茶いうな!!」


 聖王機は他の機人よりも視野が広いけど、流石に後ろまではカバーできてない。

 だから後ろからの攻撃なんて見えるはずがないんだ。


 そんな超能力みたいなのがあったら、とっくにやってるわ!


 回避に専念している間にも、僚機が次々と敵を撃破してくれている。

 俺が必死で逃げてるのも、もしかしたら攪乱になってるのかもしれない。


 というか、そうじゃないと、みっともなさすぎる。


 それでも目立つ聖王機が見逃されるはずがない。

 先程の機人が再び距離を詰めてきていた。


 この機人は他とは違い、馬力を感じさせる巨体だ。


 ごつごつした装甲付きの逞しい両腕を持つ。

 間違いなく接近戦を得意としているはず。


「剣星、私はアイツに投げ飛ばされたんだ。捕まらないように気を付けろよ」

「おう」


 体格は互角でも機動力はこっちが上。

 とりあえず、すれ違いざまに前転して最初の突撃を回避する。

 敵機が小回りして反転する間に、こちらも盾から剣に持ちなおした。


「来い!!」


 敵機がどんどん近づいてくる。

 俺は立ち止まって剣を上段に構えた。


「馬鹿、止まるな! それにそれじゃ振りが大きすぎるぞ!」

「ちょっと静かにしてくれ!」


 どうせ細かな動きをしようと思っても、イメージが伝えられないだろう。

 それなら攻撃はできるだけシンプルに。それが俺の作戦だった。


「喰らえっ! 聖王重震剣っ!!」

「奇妙な技をつくるなっ!!」


 イオリの制止を振り切って、聖王機の性能だよりの一撃を繰り出した。


 想定よりも聖王機のスピードが勝っていたのか、敵機は回避せずに防御を選択。

 頭上で両腕を交差してガードしている。


 ところが、俺が繰り出した攻撃は剣の腹が下側になっていた。

 これじゃ切断できるはずない。


 まあ、剣なんて持ったことがないからな。


 敵機の切断はできなかったけど、お構いなしに剣を強引に押し込んでいく。

 すると、敵機は重さに耐えられず、どんどん地中に徐々に埋まっていった。


 俺はそのタイミングで剣を再び構えて振り下ろした。

 敵機の両腕を切断し、そのまま頭部も真っ二つに。


「よっしゃぁぁ!!」


 俺は動かなくなった敵機を見ながら、自分のやったことに満足感を覚えていた。



 

 ――――――――――――――――




 振り向くとイオリが首を左右に振って、周囲を確認していた。

 必要ない動作だけど、やっぱりそうなるよなと笑ってしまう。


 どうやら残りの敵も味方が討伐したようだ。

 それまでの張り詰めた声が一変し、イオリは満面の笑みを寄越してきた。


「剣星! よくやったな。お前のおかげで勝てたぞ」

「い、いや俺は夢中にやってただけだから。イオリがいてくれて心強かったし」

「謙遜するな。お前のおかげで仲間たちも、そう、仲間たちも」


 イオリの表情は見る見るうちに青ざめていく。

 いったい何があるのだろうか心配になる。

 何か俺が失敗してしまったのだろうか。


「いや、剣星。お前の責任じゃない」


 イオリは俺の不安が分かったのか、そう告げた。


「お前はアルフィナさまの願いを聞いて聖王機に乗ってくれたに過ぎない。責任が及ぶことはないだろう」

「そ、そうか」


「だが私は……、剣星は先程施設の入口を見たので言うが、実はこの辺りの地下には我々の施設が広がっているんだ。さっき敵を潰したあたりは丁度資源の一時保管庫の真上で、恐らく振動で滅茶苦茶になってしまっただろう」


 やばい、なんだか俺も嫌な予感がしてきた。


「これはきっと始末書だけ済む話じゃない。敵機を破壊する場所は当然注意しなければならないことだからな。なに、お前が気に病む必要はない。嫌味をねちねち言われたり、私の懐が寂しくなるだけのことなのだから」



 すまない、イオリ。どうやら今度は助ける事はできそうにない。

 なにしろここは異世界だからな。

 俺にできるのは、イオリのために幸運を祈ることくらいだ。

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