君とおやすみ! いい夢見てよね!



「……じゃ、電気消すよー……?」


────カチッ、カチッ


「……」


「……。じゃあ、お、お邪魔しまーす……」


────モゾモゾ


「あっ、大丈夫……! ちゃんと距離感保ってるからっ!!……ってか、くっついてたらさすがに私も眠れないし……」


「……」


「ひゃー……なんか、緊張しちゃうとつい大声でたくさん喋りたくなっちゃうけど……我慢してコソコソ声にしとくから、ちゃんと寝るんだよ」


「……」


────ゴソッ


「あ……そういえば明日、長時間配信の日じゃん……」


「……目瞑りながらで良いから、ちょっとだけ聞いてくれる?」


「……」


────モゾッ


「あのね、明日の配信なんだけど……大物Vの人達がたくさん居てね……コラボ配信って言うのかな、呼んで貰えたんだぁ……」


「んー……それでねー?……ほら、私ってそんなに長い事やってる訳じゃないじゃん? でも、なんか……ようやく認められて来た感じしてね……」


「だってね、私よりずっとずっと昔から配信してる人とか、すっごく雲の上って感じの人とか、V始める前から知ってる人とかね、すごい人がたっくさんいて、その中に私が入れるのかーって思うと……それこそ君の言う、『すっごく凄い』だよねーって。……ふふっ」


「……。ふー……」


「あー……でも、なんか……ね。ちょっとだけ怖いなーって、たまに……思っちゃうんだ」


「えへへ……ダメだよね、こんなに見て貰ってるのにさ。……そう思ってるし、ちゃんと感謝してるし、楽しいのはほんとなんだ」


「だからこそってのもあるのかな。どうしても着いて回る強い言葉が怖いってのも勿論あるんだけど、それよりももっと……人気になればなるほど、学校に行ったり君と面と向かって話したりしてる『私』が、だんだん私の中で薄れてく気がしちゃって……それがどうしても怖くて」


「……ま、たまーになんだけどね」


「『わたし様』だって、有難いことにほぼ素でやってるから、苦痛になる事は勿論無いんだよ?……だけどさ、ネットの人達とかオタク君達にとっての私は、Vのあの二次元の姿だしさ」


「……この前、ちょっとネットで見ちゃったんだよね。『Vに中身は要らない』って。……確かに、みんなに楽しさを届ける存在に、見たくもない裏側とか暗い気持ちの所とかは、見せない方がいいと思うし、見せたくないなって思ってる。……アイドルとかだってそうだよね」


「でもね。ちょっとだけ、わがまま……君にだけは、ちゃんと『私』もいるって。それだけでいいから、君には分かったままで居て欲しいんだ」


「……ごめんね。私はどうしても……君を画面の向こうから見てる、オタク君達の一人にしてあげられないんだ。……だって、君は元の『私』を知ってて、この世界に私の腕を引いてきたんだから」


「……ね」


「君が『私』を覚えていてくれるなら、『わたし様』はいくらでもネットのみんなの心を掴んで離さない様に、一生懸命キラキラを振り撒くから」


「その間は弱い所も暗い所も届けちゃわないように、楽しい『わたし様』との時間を、オタク君達……君も含めてね、みんなに届けるから……」


「だから……わがまま、聞いてくれる?」


「……」


「……あーもう、寝てるんじゃ分かんないよ、このー!……ふふっ」


「明日になったらもうちょっと寝かせて〜なんて言わないでちゃーんと起きて、身支度して……あ、私の分のご飯もよろしくね?……その代わり、食器の用意と後片付けは私がやるからさ」


「それで……二人で楽しい朝を迎えるの」


「……ふふっ。君、もう寝ちゃったみたいだから言うけど……何か、新婚さんみたいだね、こーゆーの」


「……」


「……あー良かったぁ、寝てる寝てる。いやー、これで起きてたら黒歴史どころの話じゃないよー?? もう様なモンだもんねぇー。セーフセーフ」


「……。いやー……それにしても、今日は黒歴史もそうなんだけど……楽しい事とかほっとした事とか、たくさんあったなぁー……」


「……今日程色んな事があった日なんて、久しぶりなんじゃない? ま……オタク君達に今日配信した事は勿論内緒なんだから、Vの私的にじゃなくて……リアルの私的に……に、なるのかな」


「……来年の今日も、こんな風さ……二人でお祝い出来たら嬉しいなって思うよ」


「君は……どうかな?」


「……」


「ふぁ……さすがにもう眠くなってきちゃった……」


「じゃ……そろそろこのうるさい口を閉じるとするかなぁー……」


「……んふふっ、今日は楽しかったなぁ」


「……」



「よし……っと。……じゃ、おやすみ。……私が一緒に寝てるんだから、ちゃーんといい夢見てよね」



「……じゃ、また明日」

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