第20話おひさし~っす

 かつての自爆した拠点の位置に次元跳躍する事に成功する。周囲は荒れ果て土砂が流れ込んだり木々は折れ曲がっているままだ。破壊の後は容易に消えず爆発の威力を物語っていた。


 イデアフィールド推進は光輪が目立つので停止させ、反重力推進でゆっくりと都市部へ向かう。ふむ、最初の拠点付近に集落のような物が出来ているな。複雑な気分だがあの拠点付近は防壁を築いていたからな。――ん? これは……。


 付近の森の中でA.A.Sを降りると足元に黒い空間が広がりズブズブと機体が収納されていく。この半年で次元保管庫の直径を拡大する事に成功している。


 覚えのある反応の地点へ向かう。それはかつて葉隠みつこに渡して置いたH.P.M.SのAIの反応だ。木を切り倒して作られたような荒い作りのログハウス。中には生体反応が二つある。恐らくみつこと――これは小さい子供?


 侵入していつかのような格闘戦を行いたくないので素直に玄関をノックする。みつこらしき反応がやって来ると……勢いよくドアが開けられH.P.M.Sの機動による強撃――中段蹴りが叩き込まれる。もちろん、右手の腹で受け止め衝撃を後方に受け流し後方へ跳躍。しかし、次の瞬間には目の前にやって来ていたみつこの踵落としが炸裂する。だが、そのまま受けてやるほど俺は大人しくないんでな。右手で払うと軽く足を払った。くるりと回転するみつこの顔は獣のような獰猛な笑みをしながら回転しつつ空中で姿勢制御――回し蹴り――防御――貫き手を俺の顔面に突き出してくる。


 仰け反るように回避すると首周りに腕を回して抱き着いて来る。これは攻撃の意を感じなかったのでされるがままになる。すると、熱烈なディープキスをかましてくると口内を蹂躙して来る。五分程かき回されると太ももに彼女の股を擦りつけて来ていた。


「――ぷはっ。あんっ……あ、いっけねぇ……。興奮しちまったわ。ごめんね?(テヘペロ)――ま、ウチに入んな」

 

 興奮とは戦闘行為なのか何なのかわからないですね。テヘペロってあんた歳を……。ふべッ。顔面パンチが見事命中。油断した。


「かかかかっ。やっと一発いれれたぜ嫁をほったらかしにした罰だ。大人しく受け取け――私達の可愛いベイビーがお待ちのようだ」


 へ……? よくわからないままログハウスの中に入っていく。テーブルの上には離乳食と子供用のおもちゃが散乱していた。室内の雰囲気は優しいカラーでまとめられておりみつこのイメージとはかけ離れている。酒瓶は愚かタバコや葉巻も見かけない。部屋数は二つあり寝室へいったみつこは腕の中に一歳過ぎた頃の大きな子供を連れてきた。おめめはクリクリしてとっても可愛い。どことなくみつこに似ているのは彼女の子供なのだろうか? それにしても彼女のデータに子供の記録はなかったハズ……もしかして……。


「なに目ん玉開いて驚いてんだよ? ちっとも娘の顔も見に来やしないダメ夫と私の子だよ? あんた以外の誰にも身体を許しちゃいねぇし、あれから自衛隊を辞めちまったからな。ほれ、抱っこしてやんな――ちっと、出産に成長速度に早い気がするが可愛いもんだぜ? おかげさまで母性に目覚めちまったよ」


 何か共鳴する感覚があった。優しく抱き上げると嬉しそうに笑い物凄く喜んでいる。ぺしぺしぺしと両腕の≪万能の鍵≫を叩いたり舐めたりしている。俺の因子が妊娠期間を縮め、成長を促しているのか? 赤子の体内をスキャンし軽く調査すると……間違いなくみつこと俺の子だ。共鳴……俺の中から何かが流れて行っているきがするな。だが――全く分からん。ヘルプ。エクシアさん。


『おお、おお……機巧の神の祝福ですね。拠点にいる受精卵のように育てば、この子のように祝福を受け使命――とまでは行きませんがあなたの助けとなるでしょう。祝福といっても成長速度や才能、身体能力、知能、がぐ~んと上がるくらいです』


 くらいって……結構なことじゃねえか……。


『死なないようにあなたの子は全て強化措置をしたかったんですけど……まぁ、後からでも可能なので話をみつこといつかするしかないですね――手強わそうですが』


 それにしても……パパかぁ……。第一子なのだが。超かわいい。ほっぺがプニプニしている。コレが娘を持ったパパの気持ちか。絶対嫁にはやらんッ!!


「なに百面相してんだ? でも喜んでくれて嬉しいぞ。まぁ、ゆっくり話でもしようじゃないか……馬鹿が馬鹿みたいに爆破したって聞いたぞ? それとあれからご無沙汰なんだ……二人目仕込んでもらわなきゃぁな?」


 みつこの瞳がすぅっと細くなり捕食者の目になった。現状の報告……みつこならいいか。話をしながら食材や飲み物を大量に放出した。防衛装置の設置と避難場所も地下に増設する。


「夫の責務を果たしたか~? 嫁と子は大事に守んねぇとな? ――それと凛子も寝かしつけたし……今からは私をちやほやしてくんないとな? 可愛い子を産んでやったんだ、あんたの人生掛けて私をもてなしな……」


 朝日が見えるまでみつこの捕食行動は止まらなかった。経験を積んでもなお彼女に勝てる気がしない。子供を妊娠した影響なのか彼女にも機巧の神の祝福が宿っているとの事……。そら、今まででも敵わなかったのに強化されていたら……死んでしまう……。



「んで? 月に来いって? ――私というものがありながら小娘共を手籠めにするたぁどういう了見だい? ま、アンタがその子らとずっと行動していたのは知っているし、私はアンタの初めての子供を産んだんだ――正妻はもちろん私だよなぁ……?」


 朝日に照らされながら俺とみつこの間には凛子がスヨスヨと眠っている。朝方にぐずり始めて一緒に寝ることになったのだ。凛子のおかげで腹上死を回避することができた……。

 

 月への移住を提案したのだがすぐさま了承を得た。楽しそうなことしてんなぁ? とすぐにでも連れて行けと言われてしまう。……防衛装置を設置しているので仮拠点として機能するだろう。


 だが、拠点内は問題ないとはいえ身体強化は受けてもらわなければいけない。


「あん? 小娘共も同じことしてんだろ、ならっさっさと身体強化とやらをしな。それとなんかすげーもん開発してんだろ? しちめんどくせー事が終わったら……一緒に陸自の上層部ぶっ殺しにいかね?」


 殺意在り過ぎである。だが、その意見には賛成なのでぜひご一緒しよう。彼女との初デートが殺害計画とは物騒だが。


 調査に時間がかかると思ったらすぐさまとんぼ返りで子供と正妻希望の嫁を連れて帰るなど……怖い……。怖いよぉ……エクシアさん……タス……ケテ……。



 再び地球の地を踏むことができた。半月、半月だ。みつこの身体強化と専用機の支給。そして強制的に――うっ。記憶が……。


「ほら、さっさと行くぞ。私の夫ならシャキッとしな。じゃなきゃ獲物を全部喰っちまうぞ?」


 身体強化を施したみつこは往来の戦闘センスを遺憾なく発揮している。戦闘シミュレーションで散々訓練したのだがゾンビをぶっ殺さないと感覚を養えないそうで自衛隊の駐屯地に向かう道中サクサクと首が舞って行っている。


 俺とみつこで戦闘シミュレーションで模擬戦を行ったのだが全敗中である……アメリアと気が合ったのか近接戦闘の師弟の仲になっていたりする。対人戦で言えばヴァルキュリアスで最強なのではないだろうか? 


「――シィッ!」


 俺も負けていられない。ゾンビを左袈裟切り、左足を踏み込みながら右回転、後方からやって来るゾンビの頭部を側頭部から切り込み輪切りにする。ジュッ――体液がヒートブレードの熱で蒸発し不快感を覚える臭気が漂う。


 苛立ち紛れに頭頂から真っ二つにぶった斬り蹴りをかまして汚物を遠ざける。


「戦闘の良し悪しじゃねえよ。いかに早くぶっ殺せるかそうじゃないかの二択だ。私は別に武を極めたくて強くなったんじゃないぶっ殺す為に勝手に強くなったんだよ」


 血飛沫が舞う中一切の血肉を浴びずに舞うように殺戮していく。まさに、鬼神の様な表情で武神のような武を見せつけて来る。


「頼もしい嫁さんで心強いよ」


「スネんなって。だいちゅき、ちゅきちゅき旦那様はアンタしかいないんだからよ? 私の夫になれたんだ。世界中の男に自慢していいぜ? 俺の嫁さんは世界最強だって」


「霊長類最強だから嘘に聞こえないよな」


「へへっ、だろぉ?」


 みつこの身体がブレた次の瞬間には凶悪なグリーブの先でゾンビの頭が消し飛んでいた。ハイパースロー状態でようやく捉え切れる蹴り足の軌道に本気でビビる。とんでもない超人を覚醒させてしまったのかもしれない。俺の嫁だけど。


「にしてもゴキゲンな身体強化だな。私の思考に気持ちがいいぐらい身体が付いてきやがる。これが元々の自分だって言われてもしっくりくるね」


「本当に才能があったんだろう。生まれる時代か、文明を間違えたかもな」


「だな。――うし。古巣に行ってクソ共の現在地を聞きにいこーぜ」


 H.P.M.Sを下に着こみ野暮ったいパーカーのフードを被り歩いて行く。短パンから伸びるパツパツのタイツのようなスーツがエロい。だが、袖から見えるガンメタリックカラーのガントレットとグリーブが凶悪だな。


 今の季節は夏なのでスーツを覆うパーカーが暑そうに見えるが、スーツの体温調節機能が付いているので見かけに反して涼しいだろう。 


 かつて半壊した自衛隊駐屯地が見える外壁の増設が行われたのかかつて見た時よりも厳重な警戒が成されている。


「どうする?」


 真正面から行くのかステルス化してこっそり行くかを問うたつもりなのだが。


「あ? 私がいきゃあ顔パスよ。隊の席は抜いてるけど傭兵みたいなもんだからな。子供がいたから自由業に転向したんだよ」


 そのような理由だったのか。ちなみに我が子の凛子ちゃんは月の拠点でみんなと楽しそうに遊んでいる。違和感なく女性陣の中に溶け込みすっごく仲良くなっていた。


 俺の顔を出して揉めないようにサングラスを掛てツバ付き帽子を被っておく。傭兵仲間っぽくプロテクターや防弾チョッキをこれ見よがしに着せて見せている。ただのアクセサリーぐらいの効果しかないけどな。それと、背中にアサルトライフルを担いでいれば完璧だろう。


 厳重な扉の前に立つと豪快にガンガンと扉を叩く。


「お~い。山岸いるかぁ~? 返事がねぇなら勝手に入るぞ~?」


 ホントに豪快で自由気ままだな。シビれるねぇ。


 監視用の塔から自衛隊員が声を荒げて返事をしてくる。


「ちょちょちょちょっ! 葉隠さん! 今開けますんで! 侵入するのを辞めて下さいッ!! 前回それで警報が鳴ったんですからね!! ――あれ? 連れの方がいるんですか? それなら武装解除してもらわないと……」


「あ゛? ならさっさと開けろよ。武装解除? ああ、持ってけ持ってけ私らに銃なんてそこまで必要ねーしな。気休めになるなら好きにしろ~」


 素直に肩からアサルトライフルを外すとマガジンを抜き、銃口を向けないように受付のテーブルに置いた。ついでに装備しているナイフも外しておく。みつこの装備であるヒートブレイドは次元保管庫に収納している。ガントレットとグリーブを回収しないのはいいのか? ああ、いいんだ。みつこのトレードマークになっているのか?


「ご協力ありがとうございます」


 簡単な身体検査を行うと鉄門がギシギシと軋みを上げながら開かれた。歩を進め建物の中へ入っていく。後方から先程の隊員が付いて来る。自分の家の中のようにヅカヅカと進んで行き階を上がっていく。


「葉隠さんってお連れさんいたんですね。今まで一度も連れてこなかったからびっくりしちゃいました」


 女性隊員がそう声を掛けて来る。そういえばどこかで見たことあると思えばパンツをくれた子だ。もちろん……キスも。ああ、なんか罪悪感を感じるわ。


「あ? 夫だよ夫。今朝も子作りに励んでいたんだよ。だ~いちゅきちゅき旦那様。ウチの凛子もパパって呼んでるんだぞ?」


 ピシリ。歩を止め固まる女性隊員。


「ま。まままま、まぁじですかぁっ! あのっ、男日照りのッ! 万年、独身、お局様の葉隠みつこ一尉がぁぁぁぁああぁぁぁぁぁッ!! わ、私、結婚してないのにぃ……」


 その時強烈なデコピンが放たれ女性隊員が額に命中。グリッと仰け反り頭を押さえる。


「あ゛? 誰が独身だって? だが――残念だったな。けけけっ。子供も産まれて毎日ズッコンバッコンセックスして豪邸に住む、お金持ちの甲斐性のある旦那様だぞぉ~早く二人目を産みたいなぁ~。家に帰るとパパぁ抱っこしてぇって子供が待っていて……毎日幸せだなぁ……。ちゅきちゅき、だぁ~りん」


 そう言うと腕に抱き着いて来る。そして、頬に手を添えると優しくキスをしてくる。


「きぃぃぃいぃぃいぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁあぁぁッ!!」


 頭を手で押さえながら地団太を踏み始めた女性隊員。なかなか愉快な奴だな。みつこが女性隊員の耳元に近づくと。


「(たまに旦那を貸してやろうか? 体力がすげぇのなんの。もし、デキちまっても甲斐性あるからちゃんとちゃんと子育てに責任持ってくれるぜ? この際デキコンしちまって自衛隊辞めるのもありだぜぇ?)」


「(え、マジですか? でも、でもぉ……)」


「(ま、お前とは長い付き合いだからな。ただしチャンスはそう訪れねぇぞ? 考えとけよ~?)」


 聞こえてはいけない会話が聞こえた気がする。指揮官室に辿りつくと女性隊員が顔を赤くしながら目が合った。


「(あれ? どこかで見た事ある気が……まぁ、年齢は行っているけど雰囲気は良さそうだし……悪くないかも?)」


 心の中で考えるのは良いのだがモロ聞こえている俺はなんて答えたらいいのか?


「あいさつ程度のお手付きでキスの一発でもしておきな?」


 女性隊員の顔を鷲掴みにして俺の顔に押し付けてきた。動くなよ? と、視線で釘を刺されてしまったのでじっと待つ。唇同士が触れると数秒ほど固まる。


「なにカマトトぶってんだてめぇは? 私からチ〇ポ奪い取る勢いで吸い付きやがれッ!」


 舌を口の中に割り込んでくると背中に手を回してくる。気分が乗ったのか数分程楽しんでいる。そして俺の背中に悪戯顔のみつこが胸を押し付けて来ると首筋を噛む。


「ジンちゃぁ~ん。浮気しょ~だねぇ~? 後でこいつ連れ込んで三人で楽しも~ぜ? 子宝繁栄? 人類皆姉妹っつの?」


 子孫繁栄だよ。もう、こいつホントに、ホントだよ。傍若無人、悪逆非道の権化だな。つか、指揮官室開けられて山田君ちゃんがクッソ睨んできてるぞ?


「きゃっ! し、失礼しました~」


 女性隊員が走り去っていった。


「っち、後でな~。――よっ、ジジセンカマトト女」


「……あなたは……本当に……自衛隊を抜けて傍若無人さに磨きがかかったようですね! 山岸指揮官が中で待っています」


「う~い」


 開けられたドアをくぐる。本当に久しぶりだな。山岸に山田。

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