第17話離脱

 ひんひんっ……。童貞を卒業してはいても実質、初体験のクソ雑魚ナメクジは百戦錬磨の女傑には勝てへんのやっ!! 朝日が昇るまでバッチバチのバトルは舌なめずりしながら女傑が圧倒的戦力でマウント(意味深)を取ってきました。俺に勝てる要素といえば無尽蔵な体力だけです……。近接戦闘プログラム(笑)はクソの役にも立たんのです。エクシアさんは頑なにプログラムの更新を拒んできました……味方はいなかったようです。


 絞って絞って絞り取られてカラカラのミイラになっても火の付いた猛獣は止まりません。口にウイスキーの瓶を咥えるとがぶ飲みし、俺の口内に口移しで無理やり注ぎ込んでくるのです。水分補給?(理解不能) 逆に脱水症状になるのではないでしょうか? 女傑の行動は理解できません。


 どったんばったん。ずっこんばっこんは高速グラインドでフィニッシュです。そしてようやく朝日が昇り切って試合終了。俺には朝日が救いの女神に見えました。


 満足しきったのか女傑みつこはぐっすりスヨスヨと寝息を立てています。顔を近付けてキスをすると強烈なアルコール臭がしますが……。ソファーには様々な液体(アルコール含む)でぐちゃぐちゃです……。汚れの成分を分解し綺麗にしておきましょう。それと、今は超賢者タイムいですので語彙が丁寧になっている気がします……。


 転がっている酒瓶やテーブルのゴミを片付けてと……。そしてみつこの欠損している左腕をゆっくりと撫でます。くすぐったいのか、いやんいやんと身体を捩っています。取り出したるは人工筋繊維と疑似神経回路を組み込んだ義手です。


 みつこの手首に麻酔を打ち込むと傷口を切開。血液が溢れ出てきますが素早く処置をしましょう。記憶霊子を誤魔化す必要はないのですが繊細に手術を行って行きます。基本的には切り開いた神経、骨、筋肉を接合し元の感覚で扱えるようにするだけなので≪万能の鍵≫で生体生成するような精神に影響する事は無いでしょう。


 バンドで強く止血しながらミクロン単位で接合していきます。結構集中力を消費するので飲み物を口に含みながら同じ工程を処理していきます。――よし。


 筋繊維がむき出しでグロテスクな義手なので肌色を合わせて作った人工皮膚を被せていきます。熱い冷たいなどの感触はありませんが日常生活では困ることはないでしょう。むしろ、パワーが上がっているので握撃で敵の肉片を毟り取れそうです。指弾なども実現可能でしょう。これで霊長類最強の女傑が生まれた瞬間でした。


 彼女の身体も綺麗にし終わるとテーブルの上に彼女の遺伝子登録したH.P.M.Sとヒートブレイドを置いておきましょう。これで彼女固有装備になったので誰にも使う事はできないでしょう。


 昨夜訪れたように窓へ移動しようとすると――服の裾を掴まれました。


「――――まったく。余計なお世話をしやがって……ありがとな。それとまた孕ませに来いよ? そして、ガキができてたら夫がいなきゃ困る。だから――死ぬなよ」


 軽く頷くと窓から飛び出して帰還します。背後に遠ざかる窓に少し寂しさを覚えます。それにしても……豪快でしたが――いい女ですね。彼女は。



 窓から飛び出しどこかに行った私の情夫。新しく生えた左腕。軽く動かしたりスチール缶を握りしめたんだが――ぐちゃぐちゃに潰れてしまった。これはいいおもちゃをくれたもんだな。自然と口角が上がっているのがわかる。触感が無いのがマイナスだが十分武器として使えそうだ。指弾でも訓練してみるか?


 それと簡素に説明書きが置かれている。ふむ。H.P.M.S.(ハイパワーマッスルスーツ)か。ネーミングセンスが無いな。それとヒートブレイド。うん。私好みの武器だな。早速着用してみるが……なんだぁこりゃ。私に痴女になれと? 今度会ったら顔面に一発パンチな? 肌に吸い付くような感触と尻の割れ目、腹筋の筋までくっきりと見えやがる。上に戦闘服を着れば問題ないか。

 

 戦闘服を着ると付属品であるガントレットとグリーブを装着する。そして大きすぎないヘルメットを被るとシャコンと音を立てて前面にバイザーで覆われて来る。UIなのか? よくわかんねぇ数値が上下している。


 ふむ。ヒートクロー展開。


 ガントレットの指先が伸びると赤熱する。これはヒートブレードの短刀のような物か。いいぞ。他にもイオンスラスターにローラーダッシュ、背部パッケージの詳細が次々に表示される。――あいつはどれだけの技術を持ってやがんだ?


 ゆっくりとお腹を撫でる。暖かい感触がまだ残っている。――ふふふ。まぁ、ガキこさえても意外と甲斐性のあるあいつに預けりゃ問題ねぇだろ。


 窓に足を掛けると跳躍。駐屯地内の演習場に着地する。


「ははははははははッ!! すっげぇなこれ!!」


 イオンスラスターを感覚的に噴射し縮地を再現。ヒートブレード展開。仮想敵を想像し――叩き切る。建物の側面をローラーダッシュを利用して壁走りを再現。回転しながら空中機動を取る。ははははっ、楽しいッ! 楽しいぞッ!!


 どこぞの偉人か知らないがクソの役にも立たない石像にヒートブレードで袈裟切りにする。ズンバラリと叩き切られ煙が燻る。敷地内の標識のポールを両断し切り返すと二回、三回、輪切りにした。


 一人で慣熟訓練を行なっていると山岸が山田を伴ってやって来る。ん、どうしたんだ? なぜ銃を構えている。ふふふ、そうかそうか。撃ってきたまえ。


 何かを命令しているのか聞こえない。威嚇射撃で銃口から銃弾が放たれるが――切るッ! 感覚的にできると確信していたのか思考速度に体が着いて来ている。


 弾丸切りを成した私に唖然とした顔の山岸や同僚を見ると腹を抱えて笑いそうになる。いや、実際に笑っていたのだろう。バイザーをヘルメットの後部に収納してからもゲラゲラと笑っていた気がする。


「葉隠……一尉……それは……」


「ひひひひッ――はぁ……はぁっ。ああ、これか? これは私の情夫に貰ったのさ。最高でイカしたプレゼントだ。洒落た嫁入り道具だろう?」


 そう言うとヒートブレードを一振りし納刀する。


「まぁ、テメェらには複雑な感情もあるだろ? 私もそうだった。だが、貰えるもん貰っといてグチグチ言ってる場合か? それにこいつは私のもんだ。クソったれな上層部に渡す気はないし。次、気に喰わない命令をしてきたら――――ぶっ殺してやる」


「…………ああ、わかった。報告はしない。だから早まって殺すのだけはよしてくれ。上層部に憤っているのは君だけじゃないんだ」


「わかっているならいい。それにこんな世の中だ――一人ぐらいいつの間にか死んでいても……不思議ではないだろう?」


「――! ……ああ、残念なことに自衛隊内部に死傷者は絶えないな」


「のぼ――山岸指揮官ッ!? それは……」


 ギリギリと拳を強く握りしめる山岸。こいつが理不尽な命令を受け苦渋の決断を行った。お前は被害者であり加害者なんだよ。たっぷりと苦しめ。


「次の空輸に人員の移動があるだろう? ちょっと、意見交換にでもいきたいんだがぁ……。まぁ、タイミングが合えばでいい。しばらくは大人しくしといてやる」


 ちっと汗を掻いちまったからな。風呂に入りてえ。あと、多分近寄ったら精臭がすげぇだろうからな。


 部屋に戻る途中、山田と山口に睨まれたがあんなカマトト女の事などどうでもいい。理不尽な命令に押さえつけられてきたんだ。報復として理不尽な力に押さえつけられるのは――道理だよなぁ? 首を洗って待ってろよウジ虫共。



 撤収するついでに通信の中継アンテナを地中に埋めておく。癖付けしている資源回収もだ。それにしても索敵センサーで把握していたのだが山岸と山田君ちゃんがしっぽり楽しんでいたとはな。駐屯地内の索敵は怠っていなかったから把握できた事実だ。危機的状況になるとそういう関係に陥りやすいとは聞いていたが駐屯地内の隊員や避難民までもがお盛んのようだからな。


 各地の自衛隊駐屯地にいた人間は避難民などを山間部へ護送し、畑作りや住宅の建築や防衛拠点の設営に駆り出されているようだ。救荒植物のイモ類が大量に植えられている様子は戦時のようだ。


 ゾンビ:パンデミックから一月も過ぎると生き残ることに全力であったが、これからはどう生き延びていくか? に、感情がシフトしていくだろう。現在、警察組織も機能不全を起こしており避難民の犯罪も横行する可能性が高い。警察組織は自衛隊組織に半ば吸収されるような形となっており専門性は違うが戦力として数えられている様だ。


 帰還中に上空に戦闘機は数機通過する。おかしい――。


 すぐさま防衛施設を管理しているAI、ネメシスと通信を試みる。戦闘機が秘匿している拠点に真っすぐ向かって来ているだと……クソッ。半月以上も良く持ったと言えばいいのか日米合同軍の意地とでも言えばいいのか……。情報を解析していく。すでに地下のドックに完成している大気圏突入仕様に換装してある航宇宙艦エインヘリアルはいつでも起動できるようにしている。


 ヴァルキュリアス隊にパイロットスーツ着用の上に乗艦するように指示を出している。もう、バレているなら機体を出してしまっても問題ないよな。


 A.A.Sと取り出すとコクピットに入り込み起動させる。背後に円環型の光輪が出現するとイデアフィールドスラスターを全開にする。反発力が生み出す推力が機体を加速させ拠点へ全力で向かっていく。


 途中で、米軍の戦闘機と接敵するもオプティマスライフルで撃墜していく。ビームが戦闘機の中心を貫くと融解し爆発四散していく。ロックオンアラートッ――それに歩兵部隊が隠されている拠点へ急襲している。迎撃装置であるミサイルランチャーから地対地ミサイルが次々に発射されている。


 拠点の当たりを付けての人海戦術か……気付かなかった俺も俺だが大した隠密能力だな。そんなに戦力が残っているならゾンビを殲滅しろよ老害共が。仕方ない――か。


『エクシア――すぐにエインヘリアルを発進させてくれ。この機体に搭乗したまま追従する。戦闘機やミサイル迎撃能力が間に合わなかったときが危ない。こちらから確認できるが歩兵部隊がかなりの人数向かって行っている』


『了解――色ボケしている間に付けられましたね。恐らく街中に隠されていましたよ追跡装置が』


『ああ、反省は後でいくらでもしてやる。それと――発艦次第、自爆装置を起動させろ。塵ひとつ技術は渡さない』


『全て…………ですか?』


『ああ、“全て”だ』


 周辺の山の中には自爆装置が埋められている。あらゆる戦闘を考慮した結果用意しておいたものだ。こちらの技術を強奪しにくる盗賊には一切の容赦をしない。埋め立てておいた爆弾は周囲六ヵ所。並列起動すれば半径二十キロは吹き飛ぶだろう。鉱物資源をごっそり回収しきっているので自爆した後、山があった位置が“谷”へと変貌するだろうな。


 山の頂上付近から航宙艦エインヘリアルが飛び出してくると艦の周りにイデアフィールドが形成される。先端から何枚もの円環の光輪が後方に広がっていくと急加速を始めた。――あれ、スーツを着ていないと艦内で死者が出かねない加速力なんだよな……。マズイ……置いて行かれる。後輪の角度を調整して加速させる。身体の前面にのしかかる様なGを感じるが頑丈な肉体なので問題は無い。


 ――自爆装置起動します。


 ボフン。音にすると間抜けに聞こえるが離れていく地上部を確認すると展開された歩兵部隊はもちろん付近を巡航していた戦闘機が爆風に巻き込まれ墜落する。


 ボボボボッ、と面白いように地盤沈下をし、爆風で岩石や粉塵が舞う。連鎖的に周囲の山々の崩落が始まり土砂崩れや爆風の余波で数十キロ圏内の窓ガラスが割れる。東京都、埼玉、山梨へと甚大な被害が広がっていく。恐らく二次被害で何万人もの人間が死ぬかもしれないが軍人を怨みな。核のように放射線による被害は無いだけ“マシ”な兵器だろう。


 視線を宇宙へ向けるとエインヘリアルは大気圏外へとすでに離脱している。


 道中ミサイルをバンバン撃たれていたが問題なかったようだな。


 急いで追いつかないとかなり距離が離れてう。この機体はまもなく大気圏へと突入する、実験すらしていない初めての試みだが――割とドキドキしているな。ははっ。A.A.Sによる単機での大気圏突破……そして無限の宇宙へ、か。


 疑似臓器による生命活動を行わなくても生存はできるが身をもって証明しないとな。機密性を確保し空気を発生させるエアジェネレーターも問題ない。エインヘリアルへの座標を入力して自動運転に切り替える。


「あとは……祈り信じ――待つだけだ」


 押さえつけるようなGの感覚がなくなるとすぐにふわりと腹の底から内臓が持ち上がる様な感覚が始まった。


 地上の様子をモニターに投影するとそこには……そこには、青くとても壮大で……美しい地球の存在があった。


「……綺麗だねぇ……」


 なぜか涙が出てしまう。でもきっとこれは悪い物じゃないと思う。

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