第11話M.A.Sプレゼント

 視線の先ではコンテナに満載された食料品、医薬品、衣料品、嗜好品が満載されたジンベエSHOPと書かれた看板の商店が開かれていた。最初は握手やハグ程度でポイントを稼いで商品を確認していたが購買意欲が湧いたのかいそいそと更衣室でおパンツを進呈して来る女性自衛隊員がわんさか押し寄せてきた。


 よほどカツカツの状況にストレスが溜まっていたのだろう。嗜好品や化粧品が良く売れている。もちろんそれを男性隊員が嫉妬の眼差しで見て……いない。協力的な幹部級の美女がおパンツを豪快に目の前で俺の顔面に叩き付けサックリとM.A.Sを五機も持って行きやがった……。


 まぁ、ラインナップの一つとして展示していたのでよほどインパクトがあったのだろう。個人認証無しでも誰でも操作できるようにマスターキーがあれば制御できるようにしている。操縦方法も手足にベルトを巻きつけて感覚的に操作できるよう簡略化してあるので男性自衛官達がキャッキャウフフと少年のように操縦していた。


「M.A.Sの具合は……と聞かなくても反応は良いようですね。まさか三十機も毟り取られるとられるとは予想外でしたが……ついでに燃料のガソリンはサービスでオマケしておきますね」


「まさか本当にこんなに用意してくれるとは思わなかったよ……葉隠一尉がすまなかった……彼女は結構豪快な女傑で知られていてね……。まさか同僚の前で脱ぎだすとは……」


「いえ、女傑でも美女の大人パンツ……いえ、パンティーを頂けたので嬉しい限りですよ。ですが、変態ジンベエなどあだ名は付けて欲しくなかったのですが」


「諦めたまえ。衆人環視の中で美女にパンツを脱がせハグにキスを要求しているのだからね……」


「なんとも返事に困りますね……事実なので」


 葉隠一尉。みつこちゃんはこちらの視線に気が付くと投げキッスを飛ばしてくる。よほど機嫌がいいのかとってもいい笑顔だ。最初取引の際に熱烈なディープな口付けをされてしまった。その代わり交渉で高いポイントを支払う羽目になったのは自業自得か?

 

 アタッチメントの交換や機械整備の説明書を熟読している整備班らしき人物もいた。パイロットは特殊免許を持っている人間が搭乗者になっている様なのだが操作性を考えると感覚人間の方がうまくいきそうなんだよな。


 戦闘訓練するのは良いがオマケで付けたアタッチメントの長方形の鉄板を数枚張り合わせ端をカッティングで鋭くして作成した……え~と、適当に作ったし鉄板刀でいいや。種別は両刃なので剣だろうけど日本だし刀でいいや。


 ギャリィ。と鉄板刀同士が火花を散らし激しい戦いに……おいおいおい。壊すなよ? しかも、パイロットがみつこちゃんと山岸……え~と、のぼるくんだ。


 まぁ、気晴らしにもなるだろうしいいか。整備班に交換用のパーツをコンテナごと支給する。うんうん、部下さん達は働き者だね。


「あのぉ……」


「ん? どうしたんだい?」


 声を掛けてきたのはポニーテールがチャームポイントな……ポイントな……。良妻賢母そうなおっとりした女性だ。ちょっと眠たそうなたぬきっぽい人だな。


「山口ともみ三尉です……。避難民の方たちに食料品や衣料品、衣料品を多めに頂くことはできませんか? え、っと……何をしたら……ポイント頂けますか? 皆さんには……内緒で……」


 ゲスい要求はまぁ、最初悪乗りで決めた事だけど避難民の人間の為に身体を張って来るのは心が痛くなる。


「そうだね……ともみちゃんが身体を売る必要はないよ。責任もって……と、いうよりお年寄り人とか女性や子供を優先して支給できる? 俺の基本方針として女性と取引しているのは男は自分で何とかしろって考え方なんだけど……不平等でも納得するならコンテナ二つ分渡すけれど?」


「!! いいんですか……? その……こっそりしてあげるくらいなら……いいんですよ?」


 攻撃力が高い。耳元で囁いている為に耳に吐息が掛かる……。しかも何かいい匂いがする……。誘惑を振り切って紳士ぶらなければ。


 肩が触れる距離で上目ずかいをしてくる……ん? 口角が少し上がっている……こいつぁ罠だな。


 素知らぬ振りをしながらコンテナを用意して施錠のキーを渡して置く。悪女に騙される童貞ではないのだッ!!


「ほら、好きなタイミングで持って行っていいから。ただあまり誘惑しないでくれ。俺には良く効くんだ」


「ふふふ。ありがとうございます。でも――嘘でもないですよ? また今度タイミングが合いましたら……」


 肉食系が多いのか? ディープなキスも随分ねちっこい人間が多かったし……。いや、要求してないよ? ほっぺにチュウでいいんだよ? その分大量にポイントを毟り取られただけで……。建前でもあるけどそれを理由にポイントを毟られるまでが様式美になりつつあるな。金銭を要求してもこの世の中では意味無いしね。支払えるものが基本後払いか人手ぐらいしか要求できないからな。まぁ、そこんとこちゃんとわかってくれているようだから俺の思惑に乗ってくれているのは本当に助かる。


 早速、M.A.S.を操縦して配給用のコンテナを器用に運んでいくともみちゃん。そのM.A.Sは展示用なんだけどちゃっかり乗っていってしまった。一先ず取引には満足してくれたようなので良しとしよう。



 作戦会議室には主だった幹部が勢ぞろいしていた。シルクスクリーンに投影されているのは東京都内にある自衛隊駐屯地の現在の様子だ。監視システムから入った情報によると一部の自衛隊員が少数で防衛拠点を気付いて立て籠もっている状況だ。


 空港施設は空路による武器弾薬などの物資が逐次補給されている為、防衛に成功しているが都心に近い自衛隊駐屯地程壊滅状態だ。軍事ヘリなどによる高層ビルの屋上に避難した民間人の救助には成功しているが駐屯地にいる同僚を救出しなければ人員が擦り減ったままであったのだが……。


「そこで装甲車両とM.A.S随行による救出作戦を行いたいと思う。当初M.A.Sの存在を空港にいるゾンビ:パンデミック対策本部に報告した所正気を疑われてしまったよ」


 ハハハッと、今までは笑顔すら湧かなかった隊員達に元気が戻っているようだ……。対策本部に正気を疑われたのは私なのだが……笑う元気があるということは死ぬ気で働いてもらおうかね……。


「ルート上人口密集地帯を通過せねばならないのだが……そのために前段階として青梅市近郊まで防衛線の拡大を計画している。その間にある施設を陸軍自衛隊が徴発する事になった。もちろん、内閣府からの正式に戦時特例の徴発命令が出ている。……このような特殊な……強制的に徴発することは戦後初めてだろう……しかし、日本国の存亡がかかっている緊急事態だ。これから様々な命令、理不尽な事が多々あるだろう……その中でも我々陸上自衛官が日本国を……国民を守るために協力して欲しい……頼む」


 各々の瞳には強い意志が宿っているようだ。皆一様に強く頷いている。頼もしい限りだ。


「作戦開始時刻は明朝〇六〇〇。M.A.S含む車両群は部隊を展開していってくれ。決められた防衛線に辿り着き次第ゾンビの掃討作戦を決行。M.A.S部隊は陣地構築作業に入ってくれ以上!」


 各自装備の点検とM.A.Sの慣熟訓練へと入っていた。青海市に入るまでのルートは山間部で人口も少なくゾンビの侵入も少ない。発電施設に加え防衛のしやすい避難場所として最適だ。すでに東京23区の状況報告が入っているがすでに地獄絵図と化している。生存者は……絶望的かもしれないな。






 

 自衛隊の輸送トラックに隊員を満載してズラリと並んで移動していく。M.A.Sの四脚には車輪装甲に切り替えるシステムがあるので並走しながら輸送トラックを護衛している。


『MAS01AからMAS全機へ。作戦開始地点へ到達した。――掃討作戦を開始する。死ぬなよ。どうぞ』

『MAS02A了解』『MAS03A了解』『MAS04A了解』


 陣地作成するポイントへ三部隊にわかれ作戦行動を取る。ゾンビの侵入予測ポイントは国道二か所と橋となっていた。国道付近にいるゾンビ殲滅部隊はピリピリと空気が張り詰めている。


『MAS02AからMAS02戦闘部隊へ。ただいまより作戦開始。――たっぷりとぶっ殺してやれッ!!』


 ギュルギュルギュルッ! とM.A.Sの四脚の車輪が高速回転を始めると機体が急加速する。腕部に装備しているのは【鉄板刀】と言う大分ふざけた名前だが破壊力はお墨付きの一品だ。もう片方の腕にも【鉄板】という急ごしらえの攻撃と防御を兼ね備えたただの――鈍器だ。


 ゾンビの集団が作戦行動を始めた自衛隊の部隊に気付き群始めている。眼球は黒く染まり色々部分は膨れ上がったり黒い血液を垂れ流していた。


『薙ぎ払えッ!!』


 ゾンビの群れを引き殺しつつ【鉄板刀】を横薙ぎに振るう。一、二、三、十。大質量の質量武器がいともたやすくゾンビをぐちゃぐちゃに引き潰し。胴体が千切れ飛んで行った。ジンベエが開発、製造した機体は通常の重機のパワーとは段違いの威力を誇る。


『――すげぇ……すげぇよ……』


 パパパッパパパッ。ゾンビを数体程M.A.S.が取りこぼしたゾンビを装甲車の上から狙い定め確りと射殺していく。アサルトライフルからマズルフラッシュが炸裂する。


『――ボサッっとするなッ!! 取りこぼせば後方の部隊に被害が出るんだぞッ!!』


 ゾンビを取りこぼしそうになる度に【鉄板】弾き飛ばし。【鉄板刀】を振り下ろすと縦に寸断する。“切る”と言うよりも“叩き潰す”が正しいようだが。後方部隊にもM.A.Sが数機待機しているが取りこぼさなければ安定して殲滅作戦が行えるのだ。


 M.A.Sの利点としては弾薬の消費を無しに部隊員の生存力向上とともにコストの減少だ。機体部品の損耗は確かに存在するが原始的な質量兵器を使用してのキルスコア増加に燃料はガソリンのみ。自衛隊に配備されれば間違いなくどこでも引っ張りだこであろう。現在自衛隊内部では武器弾薬の消耗が激しく補給が全く追いついていない。輸入先でもゾンビ:パンデミックが広がっておりどこでも必要とされているからだ。


『――死ぃねぇえええぇぇぇえぇ!!』


 潰す、潰す、潰す。M.A.Sの装甲はゾンビの肉塊とヘドロの様な血液で彩られる。ビチャリと臓物を歩行する脚部が踏みつぶしながら徐々に後退していく。ゾンビ共は知能が低いのか活動を停止した同胞の屍を超えてやって来る。


 別の地点で作戦行動中のM.A.S部隊も同様の手順で殲滅作戦を遂行していた。橋には工兵部隊はM.A.Sがコンクリートブロックや現地徴発した車両や土塁を積み上げていく。


 作戦開始時刻〇六〇〇


 陣地作成完了〇八〇〇


 陣地内特定危険種殲滅作戦完了一〇三〇

 

 各部隊に戦闘指揮官からの無線が入った。


『――全部隊に告げる。作戦は成功した。繰り返す――作戦成功したッ!! 損害は君たちの奮闘の甲斐があって死傷者ゼロ。作戦行動中の軽傷程度はあったが……問題は無い。本当に。本当にありがとう』


 無線を聞いた部隊員達は歓声を上げ抱き合った。今まで死んでしまった同胞は多い。無事、死傷者無く。犠牲者無しに初めて作戦が成功したのだ。涙を流さずにはいられないのだ。


 防御陣地内のビルの屋上の縁にジンベエが立っていた。作戦の決行に着いて行き様子を窺っていたのだ。製造したM.A.Sのデータ取りの目的もあったが部隊崩壊の際には殿を受け持ってもいいかな? ぐらい考えていたようだ。傍受していた無線の作戦行動完了に伴いゆっくりと息を吐いた。

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