第11話 擬態、スライムマンの【スキルコピー】!!

 謎の施設にある会議室で、黒ローブの集団から人界侵攻計画の経過報告を受けていた豪華なローブの男は、魔素濃度分布に関する一つの報告に顔を顰めた。


『魔素濃度の定期計測が完全停止した魔造樹があるだって?

 ふむ……精霊の反応はなかったのか。

 簡易転移陣は機能しているってことは、根っこの近くは残ってるのかな?

 ということは、切り株? ……あぁ、ニンゲンに伐採されたんだね。

 真っ二つにされたくらいじゃ魔造樹の機能は停止しない筈だから、バラバラに加工されたんだろうなぁ……。

 はぁ〜、下等生物が僕達の邪魔をしやがって!!』


 ドンッ!! メキィッ!


 イラついた豪華なローブの男が腕を振り下ろしただけで、会議室の大きな石のテーブルに放射状のヒビが入った。

 黒ローブの集団が一斉にビクリと身体を強張らせて、会議室を満たす威圧に耐える。


 すぐに我に返った豪華なローブの男は、威圧を止めると、手を振るだけでテーブルを修復してから、何事もなかったように一方的な話しを再開する。


『ゴホンッ。一応、魔造樹はニンゲンの居住地から離れた場所に設置された筈だけど、ヤツらの数が多すぎるのか、こういうことが偶にあるのが面倒くさいよね。

 まぁ、一定以上の魔素を注がれなければ、人界の樹木に擬態したままだし、魔造樹とバレなければ問題ないかな?

 どうせ人界中に設置してあるし、製造コスト削減で、単純な平均魔素濃度の計測機能と魔素散布用の簡易転移陣くらいしか機能はないんだ。たかが魔造樹の一本くらい、失っても全く構わないんだけど……。

 ここって失敗作を捨てた場所だよね?

 むむ、僕の元コレクションをニンゲンに拾われるのは気に入らないぞ……やっぱりサンプルの処分は、モンスターの餌にするべきだったなぁ。

 失敗作を回収しようにも、人界の魔素濃度は、まだLv3の生存がギリギリ……せめてLv10なら最下級の偵察用魔造モンスターを送れるんだけど……。

 今の環境じゃあ、Lv5のゴブリンでも、魔素不足で三日と持たないだろうね。

 魔造ゴブリンに、三日で人界から狙ったモノを奪える機能を付ける……Lv20くらいになりそうだし、意味がないか』


 悩みながらも、特に黒ローブ達へ意見を求める訳でもなく、豪華なローブの男は一人で考えて、一人で結論を出していく。


『あッ!? そういえば、失敗作は大雨で魔素と一緒に流されたみたいなんだよね……。

 死体が魔素を放出してるなら、人界のニンゲンや動物も近づいてない……かも?

 よし、ゴブリン数匹にピュアスライムの追跡機能だけをつけて転移させてみよう。

 失敗作を残らず喰った後は、ニンゲンを襲って、精霊界のヤツらを誘ってくれれば最高だな。

 ……簡易転移陣が壊れるだろうけど、証拠隠滅を兼ねると思えば、問題ないね』


 結論を出した豪華なローブの男が、研究室へと去っていくと、黒ローブの集団が上司のフォローをするために、活発な意見交換を始めるのだった。




「うん? ……アレの消化が終わったのか?

 ……うおッ!? なんだぁ、このモヤモヤした感じは!?

 火事か!? いや、煙じゃない?

 ……コレは薄い魔力を感じてるのか?」

 

 来夢が大木を砕いて吸収し始めてから、丸一日が経過していた。

 大木の幹も枝と同様にほぼ魔力抵抗を受けることなく消化することができたが、例外的に魔力抵抗の強い部位があったことで時間が掛かったのだ。


 それでも全ての残骸を吸収し尽くしたことで、現在の広場にはポツンと切り株だけが残されている。

 禍々しい大木──魔造樹の残骸全てが消化されたのだ。


 魔力のあるモノが切り株だけになったことで、魔力感知に反応するチカラはかなり減った筈だったが、消化を終わらせて目覚めた来夢は、広場の周辺に漂う煙のようなチカラを感じていた。


「絶対これアレを吸収した影響だよな?

 アレって絶対に魔石だろ?

 あの木、絶対に地球産じゃねぇよ!!

 魔力に魔石とくれば、ファンタジーモンスターだぜ。

 やっぱり定番のトレントなのか?」


 魔力感知の性能が変化したことに、来夢は心当たりがあった。


 大木の中にあった極薄い紫色の結晶体。

 直径三センチ程度の歪な球形をしており、大木の残骸を吸収する中で、最も強い魔力抵抗を示した部位である。


 来夢の経験上、確実に魔力枯渇するだろうと、最後に吸収したところ、予測通り二十時間近く眠ってしまったのだ。


「俺が魔石を吸収すると、能力が上がるってことか?

 ……いや、なんとなくだが、魔力感知の性能が上がったというよりも、新しい使い方が分かった感じがするぜ。

 うーん? お、やっぱり昨日までの感覚にも変えられるな。

 てことは、魔石を吸収すると技能をコピーできる可能性が高いか?

 確かに、その方が【トランスフォーム】の能力的にありえるよな。

 よし、この能力を仮に【スキルコピー】と名づけておこう」


 早速、新能力らしきチカラを名づけた来夢は、大木を処理するために止まっていた出発の準備を始めることにした。


「保存食とかは要らねぇよな。

 道路の近くまで行って、不法投棄されたゴミでも探すか?

 コートとかあったら最高だよな。

 ……後は服装を探すまでの間、誰かに見つからないようにしねぇとな。

 …………まぁ、腰巻き着けときゃ、ギリ捕まらねぇだろ! 行くか!!」


 イノシシの腰巻きを着けた半裸の大男が捕まらない要素は皆無だったが、頭が若干ポヨポヨな来夢は、気合を入れて人里近くへと出発した。




 ブロロー!

 と、かなりの高速で車が通り過ぎていく。


 道路から百メートル以上離れた林の中で車を見送った来夢は、再び移動を開始した。


(交通量はかなり少ないが、皆無ってほどでもねぇな。

 油断はできねぇが、注意しとけば見られる心配はあんまりなさそうだぜ。

 ……あ、こういう場所って、監視カメラとかは有るのか?)


 来夢は道路や周辺にカメラなどの機械類があるかを観察するが、見当たらなかった。


(うーん、スピードカメラとか? ないか?

 いや、それこそ不法投棄とかの防止用にセンサーは有るかも?

 ゴミを漁る気の俺が嘆くのもオカシイが、チラチラと結構な量のビニール袋とかペットボトルが落ちてるぜ。

 設備を用意するほどかは分かんねぇけど、こういうのは山の所有者次第だよな……。

 そう考えると、万が一に備えて、隠密能力が必要かぁ……)


 来夢は道路からは見えない木の影に身を潜めながら、監視設備対策として、己に可能な隠密能力を考え始めた。


「え〜と、スライムで隠密と言えば擬態?

 表面に後ろの景色を見せるとか……動物に変身するとか? ……できそうな気がするけど、俺のイメージが弱いか?

 あとは、木とかの植物に擬態するとか……ッ!? 身体が……コレは、表面が樹皮になってるのか?」


 驚愕している来夢の皮膚は、一瞬で枯れた木の色と質感に変わっていた。


「なんでだ? 木といえば、あの禍々しい木くらいしか吸収してねぇのに……うおッ!?

 今度は、あの木の皮に変化した?」


 更に、魔造樹の姿を想像した来夢の皮膚が禍々しい捻れたような樹皮へと変わる。


「どういう……あん? コレは魔力感知の時と同じで、使い方がなんとなく分かるな。

 つまり、元々あの木には、擬態の技能があって、それが【スキルコピー】で、【トランスフォーム】に統合された?

 うーん、なんか当たらずとも遠からず、って感じがするぜ。

 んじゃ取り敢えず、〈スキンペイント〉と名づけるとして、柄しか変えられねぇのかな?

 ちょっと奥で検証してみるか……」


 思わぬ擬態能力の獲得に、驚きながらも、実用性が微妙だと考えた来夢は、一旦、道路から離れて〈スキンペイント〉を色々と検証していった。

 その結果、スライム化と組み合わせれば、かなり高度な擬態ができることを理解したのである。


 

 


 

 

 

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