第9話 強化、スライムマンの【レベルアップ】!!
「夜まで保管しようかと思ってたが、魔力が移ると吸収できねぇか?
……腐らせるのも嫌だし、一気に食っちまう方が良さそうだな。
よし、そんじゃスライム化の限界を試してみるか……【トランスフォーム】〈スライムストマック〉、手はそのままで、スライム腹に全部を突っ込む!!」
気合いを入れた来夢は、山盛りのナマイノシシを次々と手掴みして、肉も、骨も、内臓も関係なくスライム化した腹部へと放り込んでいく。
「ほっ、よっ、とっ、イノシシって小型でも凄え量だよな。
……血を抜いても、五十キロくらいか?
うおッ!? 腹が伸びてきやがったぞ……これ以上は、絶対入りきらねぇよ……。
だが、まだ半分以上はあるんだよなぁ。
やっぱり腹だけじゃ足りねぇか……仕方ねぇな」
腹部だけが以上に伸びて妊婦のようになった来夢は、腹部に放り込むのを止めると、切り株の上にゆっくりと登った。
「……よっこいしょっと、最初から上がっとくべきだったか?
まぁ、いいか。そんじゃあ〈スライムヒップ〉、〈スライムレッグ〉……あぁ、これ以上はヤバそうだな。
んじゃ、一気にいくぜ!! 〈グラトニープレス〉!!」
【トランスフォーム】によって、下半身をほとんどスライム化させた来夢は、切り株の凹みを半透明の膜に変化した身体で包みこむと、一気に残りのイノシシを吸収した。
そして、身体の下半分を風船のように膨らませた状態で、少しずつ内容物の消化を進めるのだった。
(あ〜、やりすぎたか?
半分近くスライム化すると、かなり影響が大きいな。
ずっと、ここでプルプル、ポヨポヨしてたいぜ……。
まぁ、取り敢えず消化し終わるまでは、ジッとしていようかな……あぁ、それがいいよな……)
ボンヤリとした意識の中で、来夢はのんびりと食後の微睡みを味わうのだった。
一時間経過しても、消化はほとんど進んでいなかった。
来夢が最後に使用した〈グラトニープレス〉が、イノシシだけでなく、凹み周辺の荒れた表面部分だけではあったが、切り株の一部を吸収していたのだ。
魔力を含むモノを吸収した結果、消化速度が著しく低下していた。
三時間経過しても、魔力を含むモノは半分程度しか消化されておらず、継続する魔力枯渇によって、来夢の人間的な意識は睡眠状態になっていた。
それでも、スライム化した身体は、本能によって吸収したモノを消化し続けていく。
六時間経過すると、魔力を含むモノは全て消化されたが、大量に吸収されたイノシシが残っているため、魔力消費による枯渇状態は終わらなかった。
十時間経過すると、魔力消費により強化された消化能力によって、吸収したイノシシの全てが消化された。
夜の訪れと共に魔力枯渇は回復したが、睡眠中の来夢が目覚めることはなかった。
二十時間経過した頃、日の出によって辺りを照らす光が、来夢の意識を覚醒させた。
「ふああ〜。よく寝たなぁ。
え〜と、会社、じゃなくて、またゴブリンとやり合うのか? いや、木を食べるんだったか? ……はッ!?
違う、違う!! 俺はサバイバル中なんだよ!! ヤバい完全に寝ちまった!?」
寝ぼけていた来夢は、状況を思い出すと、己の状態を確認して驚愕した。
「なんじゃコリャ!? スライムのクッションに埋もれてるのか?
……道理で気持ちいい筈だぜ。
野外なのに自宅より快適に寝られるのは、ちょっとした敗北感すらあるが……頻繁に使いそうだし、この状態を〈スライムクッション〉と名づけとこう。
それで、え〜と、イノシシの消化は終わってるみてぇだから、まずは【トランスフォーム】解除だ!!」
スライム化が解かれると、クッションが消えて、来夢は切り株の凹みに座った状態となっていた。
「それで増加したスライムの細胞は……うおッ!?
……増えすぎて、下半身のスライム化が全然解けてるように見えねぇな。
というか、腹もブヨブヨ、プルプルになってやがるぜ。
……量的には食べたナマイノシシの三分の一くらい増えたか?
うーん、毎回こんなに増えるのかは分からねぇけど、取り敢えず、次は【トランスフォーム】〈須藤来夢〉っと」
人間化した来夢は、凹みから立ち上がると、切り株の上から降りた。
太陽の光を浴びながら、身体を軽く動かして、異常がないかを確認していく。
(大分、人間状態とのギャップにも慣れてきたけど、イノシシ一気に吸収したのはヤバかったな……。
てか、今、朝だろう?
感覚的に翌日で間違いねぇと思うが、食事で半日以上も意識を失ってたとか、リスク高すぎねぇ?
……どうにもスライムが混ざった俺は、全体的に大雑把で力押しの傾向があるな。
人間化すると、意外とスライムの主張が強いって分かるけど、独り言が多くなってるのも、精神が混ざってる影響か?
確かに、何となくできることを答えてくれてる感じがするし……その内、話したりできるのかもしれねぇな)
半年以上スライム状態だった来夢は、ゆっくりと眠ったことで、人間化状態の思考が整理されていた。
「まぁ、人間の俺は無力だから、スライムのチカラを借りるしかねぇワケだ。
いつか別れる日が来るのかは分からねぇけど、できれば仲良くいきたいぜ。
よし、【トランスフォーム】解除!!」
そう来夢が告げた瞬間、
ムキ、ムキムキ!
と、来夢の肉体が、音を立てて盛り上がっていく。
「ッ!? な、何だ!?
身体が……筋肉が盛り上がってるのか?」
あっという間に、細身だった来夢の肉体が細マッチョに変化してしまった。
「お、おぉ!? 凄い……中年太りが細身に戻っただけでも、地味に嬉しかったのが、憧れの縦割れ腹筋だと?
そうか……俺はスライムさんの偉大さを欠片も分かってなかったんだな。
いいぜ、この腹筋には困難を打破するチカラがある!!
俺はこのサバイバル生活で絶対に諦めないことを、スライムさんと腹筋に誓うぜ!!」
イカれたテンションで盛り上がっている来夢は、重要な事実を知らなかった。
本来、ピュアスライムと呼ばれる原始的なモンスターに能力的な成長はあり得ない。
魔素を放出しながら物質を吸収して己の体積を増加させるだけである。
極めて万能性が高い模倣能力は、他の生物に捕食されることを前提としており、対象の魔素機関に完全同化することで擬似的な不死を実現するため、ピュアスライムに死という概念はない。同化した対象が死亡すれば、目に見えないほどの大きさから、少しずつ復活していくのだ。
故に、ピュアスライムを捕食した存在が魔物となり、成長・進化をしていくことは在っても、ピュアスライム自体が成長することはあり得なかった。
しかし、スライムマンTYPE-pureとして、魔素機関を持たないニンゲンと同化ではなく融合した結果、来夢がピュアスライムというモンスターの能力を手に入れたように、ピュアスライムも来夢というニンゲンの能力を手に入れることになった。
つまり、来夢と融合した最弱にして万能のLV0モンスター──ピュアスライムは、【レベルアップ】とでも呼ぶべき成長能力を入手したことで、究極モンスターの道を歩み始めたのである。
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