アンコール
維 黎
消し間違った傘は見えない思い出
誰だって二人の女を同時に愛する可能性はあるものさ。
なぜ自分だけを見て欲しいと思うのだろうか。それはある種のエゴだと思わないか?
俺は愛した女が同時に別の男を愛したとしても責めはしない。さすがに三人でってのは勘弁だが、二人で同じ時間を共有するのが愛ってもんだろう? ならその場にいない有象無象の男をどう思っていようが知ったこっちゃないさ。
だが悲しいかな、そういう思いを
だから愛が始まる前、一番初めに言うことにしている。俺はお前以外の女を同じように愛することがある――と。
それでも構わないと言った女が、俺にもう一人別の女がいると気づいた時には特に何を言うこともなかった。
当初、俺は理解してくれているのだろうと思っていたのだが、実際は違っていた。
ジリジリと。ゆっくりと。募る思いを私怨に変えて。紫煙を立ち昇らせるまるで消し忘れたタバコのように。俺はそれに気付かなかった。
理解はしてもらえないことを重々承知の上で、それでもあえて言おう。俺は初めに愛している女も次に愛している女も等しく掛け替えのない愛しい
どちらも捕まえておかなければならない大切な存在なのだと、強く思っていた。
だが『他に女がいるの?』という台詞を訊いた時には、正直うんざりした。今さらそれを言うのかと。
俺から分かれるつもりはサラサラなかったが、その
別れましょう。
案の定というべきなのだろう。女がそう言った。瞼を赤く腫れさせて。
俺は元来、傘は持たない。少なくとも親元を離れて社会に出てからは一度も持ったことがない。そんな俺のではなく、普通に傘を使う彼女の枕は濡れていたのだろう。
出会って別れては
ずっと一緒にいようと口にするのは簡単で。当然その時は簡単な想いで口にしたことではなくても。
遠く同じ
淡く浮かんでは消えていく。
また。
淡く浮かんでは消えていく。
それぞれに繋がりは無くても俺の
そういう意味では走馬灯というのは思い出の始まりと言えなくもない。
そんな他愛もないことをふと思う。
霞む視界に
今の俺にはもうわからない。
暗く。
昏く。
アンコールは――聴こえない。
――了――
アンコール 維 黎 @yuirei
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