第69話 アオバの選択

 お城の中は外観に負けず豪華な造りをしていた、入ってすぐのロビーには緻密な模様が施された絨毯が広げられ、奥へと続く廊下の壁や天井、石の柱一本一本にも細かい模様が彫り込まれている、壁に飾られた絵画や彫刻は素人のアオバから見ても一級品に見えるほど洗練された雰囲気のある作品だ。


 「この絵と彫刻は昔の有名な芸術家デンス・フロングの作品なんですよ、素敵でしょう?」


 デンス・フロングといえばスプレンのお祭り『デンス祭』を開催した人物だ、恐らくこの国の人なら誰でも知っているような超有名人の作品となると触れるのすら怖くなる値段なのだろう。


 「ここは私のお気に入りの中庭です!季節に合った色々なお花を植えているので何時でもお花を見ることができるんですよ!」

 「圧巻ですね…とても綺麗です!」


 花の色のバランス、レイアウト等が計算されていて何時までも見ていたくなるような景色の中庭だ。

 奥の方にはガラス張りの温室もあり、色とりどりの花が咲いている。


 「気に入ってくれましたか?」

 「はい!とても素敵ですね!」

 「ふふ、それは良かったです!他にも見せたい場所があるんです!付いてきて下さい!」


 それからアオバ達は色々な部屋を見せてもらった、楽器を演奏できる小さなステージのある部屋、図書館のような大量の本が保管されている部屋、色とりどりに染められた布や糸が綺麗に整理されている裁縫用の部屋、それからローレンの自室とドレスルームも見せてもらい、最後に国王との謁見の間に案内された。

 謁見の間はきらびやかなステンドグラスがはめ込まれた大きな窓と赤く高級感のある絨毯、階段三段程高くなっている場所に豪華な金色の王座が二つ並んでいる。


 「アオバさん、お城の中はどうでしたか?」

 「とてもすごかったです!こんなところに住めたら楽しそうですね!」

 「ふふ、そんなに気に入ったのでしたら本当に住んでみますか?」

 「え?」

 「アオバさん、正式に私の専属近衛兵としてここで働きませんか?」

 「そんなの駄目よ!アオバちゃんは―――」


 リリの言葉をエミルが手で遮る。


 「エミル!どういうつもり!?」

 「決めるのはアオバだ、アオバが本当にここで働きたいと言うのなら僕は止めない、アオバの意志を無視してしまったら僕達は対等な仲間とは言えないと思うから…」


 エミルの言葉にリリは押し黙る、二人はどんな答えを出したとしてもアオバの意志を尊重してくれるつもりのようだ。

 ローレンはニコリと笑ってエミルに軽くお辞儀をした。


 「エミルさんありがとうございます、アオバさん、答えを聞かせてもらっても良いですか?」


 アオバはチラリとエミルとリリを見るとローレンの方を向き、迷わず答えた。


 「とても魅力的な提案ありがとうございます、それほど私のことを買ってくれているのは素直に嬉しいです、私がこの国に来た当初であれば迷うことなくこのお城での暮らしを選択していたでしょう、ですが今はハンターとしてお二人と共にこの世界をもっと見て回りたいのです、申し訳ないですがお断りさせてください」


 アオバはローレンに頭を下げる。


 「振られてしまいましたか…とても残念ですが分かりました、もし気が変わったら何時でも来てくださいね、アオバさんなら大歓迎ですから」

 「アオバちゃーん!」


 リリがアオバに抱きつく、それを見ているエミルも嬉しそうに笑っていた。

 その後、護衛任務の報酬を貰ってからローレンにお城の外まで送ってもらい王都を後にする。


 アオバ号に乗ってスプレンへと帰る三人の表情は明るく、確かな強い絆を感じさせた。


                    〜完〜

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