第65話 最終日の夜

 アオバ達三人がシトハムについたのはすでに日が落ちた直後であった、ズードであった出来事をミラに報告するためミラの家に向かう。

 ミラの家の窓から光が漏れているのが見える、まだ起きているようだ。

 ドアを開けるとミラは自室ではなくリビングの机でペンを片手に本を読んでいた。


 「おやおかえり、思ったより遅かったね」

 「ミラ先生、待っててくれたんですか?」

 「ああ、ズードであった魔物の脱走事件の話を聞いてね心配したよ、三人共無事で何よりだ」


 ミラにズードであったことを話す、ミラは終始楽しそうに話を聞いてくれた。


 「すごいなエミルくん!シュロカといえば陸上最速の魔物と言われる程有名な魔物じゃないか!」

 「実際に目で追えない速度でしたからね…」

 「シュロカは最近の研究で風の魔法を使っていることが分かったんだ、あの速度で動くことによる空気の抵抗を風魔法によってほとんど消しているらしくてね、だからこそあの大きさでありながらあれ程の速度で動けるんだ、それと腹の後ろの方から圧縮した風を噴射することで一瞬での加速と推進力を得ているらしいよ」


 足を落とされたシュロカが最後に突進してきたのはその風魔法によるものだったのだろう、改めてこの世界の魔物の生態に驚かされる。


 「それにしても教え子の活躍を聞くと僕も嬉しくなるね、君は本当にすごい子だよエミルくん」

 「いえ、そんな、あの場にいた皆が包囲してくれていたおかげでシュロカが逃げるという選択肢を取れなかったからこそ勝てた様なものですから」

 「照れなくて良い、本来であればシュロカは罠にはめて動けない状態でないと討伐不可能と言われている魔物、それを一対一で倒したんだ誇っていいよ」

 「ミラ先生…ありがとうございます!ミラ先生のアドバイスによって習得した魔法のおかげです!」

 「ふふ、出発前に二人と対等ではないと悩んでいたのが嘘のようだ、この件で君の実力はこの国中に知れ渡るかもね」

 「それはちょっと困ります…」


 エミルの自信がついたところでエミルの疲労と明日の予定を考慮してもう寝ることとなった。

 リリが当然のようにアオバの部屋に入ってきたが、追い出したところでどうせ朝にはベッドの中にいるだろうと諦めて一緒に眠った、リリも疲労が残っていたようで何もされることなくすぐに眠りについた。


 翌朝、目を覚ましたアオバは眠っているリリを起こさないようにベッドを抜け出し、リビングへと向かうとミラが一人で新聞の様な紙を読んでいた。


 「おはようアオバくん、今朝届いたこれに昨日のことが書かれているよ」


 見出しには『シュロカを単身で討伐!凄腕の王女護衛ハンター』と書かれている、この記事によるとあのシュロカは施設への搬入の際、麻酔が効いていると油断した新人職員が檻の扉を開けた一瞬の隙に脱走したらしい、建物への被害は大きいが幸い死者は無く、新人職員が重傷の怪我を負ったが一般の人にはほとんど被害が及ばなかったらしい。


 「エミルくんの名声が国中に知れ渡ってしまったね、こうなるとこの国のお偉いさんも君達をスカウトしてくるかもね」

 「うーん、まぁ二人がこの国に戻りたいと言うのであれば私は一緒についていくだけですね」

 「本当に移住するのであればこの家を自由に使っても良いよ、部屋も余っていることだしね、君達の拠点として使ってくれ」

 「良いんですか?」

 「もちろん、それにアオバくんとも地球の話をもっとしたいからね、移住しないとしてもこの国に来たときはここを使ってくれると嬉しい」

 「そういうことなら喜んで!」


 その後、二人が起きてきて早めにローレンの元へと向かうことになった、他国の王女が国に帰るというイベントのおかげでミラも今日は研究が休みになっているらしく見送りに来てくれるようだ。

 大使館に向かうまでの道中、ミラがエミルに先程の新聞を渡すとエミルは恥ずかしそうに頭を抱えた。

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