第6話 ふかふかのベッド

 リリの部屋は綺麗に片付けられており良い匂いがした。


 「先にシャワー浴びるね、適当にくつろいでて」


 そう言うとリリは部屋に付いているシャワールームへと入って行った。

 シャワーの音を聞きながらソファーに座り息をつく。

 そういえばご飯を食べてない、とはいえお金を持っていないのに自分から言い出すのは流石に気が引ける。

 幸いお腹がへっているわけではないので明日街に出てからで良いだろう。

 しばらくぼ~っとしているとリリがシャワーからあがってきた。


 「アオバちゃん次どうぞ!石鹸なんかは自由に使っていいからね!」


 リリにお礼を言ってシャワールームに入る。

 石鹸とガラスの容器に入ったシャンプー、リンスのようなものが置かれている。

 固定式のシャワーが取り付けてあり、ちゃんとお湯も出るが湯船だけは無かった。

 体を洗いシャワールームから出ると先程脱いだ服をまた着る。

 他の服を持ってないしリリの服もサイズが合わないだろうから仕方ない。


 部屋に戻るとリリは髪の手入れをしていた。

 ドライヤーや化粧水のようなものが机の上に並べられている。

 この星の美容関係はなかなか充実しているようだ。


 「アオバちゃん、髪乾かしてあげる!」


 リリが手に持ったドライヤーにはコンセントのようなものはついていない、電池でも入っているのだろうか。

 リリに髪の手入れをしてもらいながら少し雑談する。


 「気になってたんですけどエミルさんとは恋人なんですか?」

 「ふふ、違うわよ幼なじみの兄妹みたいな感じ、言い寄ってくる男には付き合ってるって嘘付いてるけどね!」

 「じゃあどっちも恋人はいないんですか?」

 「いないわ、なんならアオバちゃんが恋人になってくれても良いのよ!」

 「あはは、考えときます」


 冗談を軽く流して二人でベッドに入る。

 ベッドはとてもふかふかで今まで味わったことのない程気持ちが良い、特別な羽毛なのだろうか体を包み込む柔らかさと程よい反発、肌触りの良いシーツが合わさってまるで重力を感じないかのような気持ち良さだ。

 ベッドの感触を楽しんでいるとリリがアオバを後ろから抱きしめる。

 少し息が荒いリリはアオバの体を撫で回す。

 こっちでは女の子同士でこういうのが普通なのか分からず抵抗できないでいると、リリが耳元で囁く。


 「良いんだよね?」


 そう言うと服の中に手を入れてきた、右手で胸を揉まれ左手が股の間へと伸びる寸前慌ててベッドを抜け出す。


 「リ、リリさん、どういうつもりですか!?」

 「はぁ、はぁ、あんなに触っても嫌がらなかったってことは良いってことでしょ?」


 リリは息を荒らげながらゆっくり近づいて来る。

 身の危険を感じて急いで部屋を出ると隣のエミルの部屋へと走り、勢いよくドアを開け部屋に入る。


 「エミルさん!助けて下さい!リリさん…が…」


 言葉を失った。

 アオバが入ったタイミングでエミルは丁度着替えをしていた。

 それだけなら良かったのだがエミルの胸はほんの少し膨らんでいた。

 小さい、小さいがその胸は男のものでは無かった。

 アオバが知らないだけでこの星の男は胸が膨らんでいるのか?そんな疑問を抱きながらエミルと二人で固まっていると後ろから抱きつかれる。


 「アオバちゃん捕まえたぁ!部屋に戻って続きを…」


 リリが慌てた表情をするとエミルはため息を吐いて胸元を隠す。


 「とりあえず着替えてから話そうか」


 エミルの着替えを待って部屋に入る。

 リリは床に正座させられ、エミルとアオバはソファーに座る。


 「何があったかは大体分かったよ、今夜はアオバはこっちの部屋で寝るといい」

 「そんな〜、アオバちゃん嫌がってなかったのに…」

 「逃げて来てるんだから嫌がってるに決まってるでしょ」


 それ以上何も言えなくなり小さくなったリリを横目にエミルはアオバの方に向き直った。


 「アオバが考えている通り僕は本当は女なんだけど事情があって男のふりをしているんだ、どうかこのことは秘密にして欲しい!」

 「もちろんです、安心してください!色々良くしてもらったエミルさんの秘密を話したりしません!」

 「そうか、ありがとう君はいい子だね」


 男装している理由は気になるが今聞くのはタイミングが悪そうだ。


 「ほら、リリは部屋に戻りな」

 「う、うん、アオバちゃん…」


 泣きそうな目で見てくる、反省はしているみたいだ。


 「えっと、大丈夫ですが今日のところはエミルさんの部屋で寝させてもらいますね」


 トボトボと自分の部屋に戻るリリを見送るとエミルと共にベッドに横になる。


 「リリがごめんね、反省してるみたいだし許してやって」

 「はい、いきなりでびっくりしましたけど大丈夫ですよ」

 「そっか、ありがとう」


 エミルとリリの間にある深い信頼を感じながらアオバは眠りについた。

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