食無き世界のゆる探求

ヒトデさん

第1話 突然の死

 「ん〜?ここは?」


 目を覚ますとそこは一面真っ暗な闇の中だった。

 壁も天井も地面すら見当たらない一面の闇の中で自分の体だけははっきりと認識出来る。

 

 (夢か、真っ暗でちょっと怖いけどなんか体がふわふわして気持ちいいな)

 「夢じゃないよ」

 「ほぇ?」


 振り返ると光る珠のようなものがあった。

 声の主はおそらくこの光る珠だろう。

 色々飲み込めないがこの光る珠が何か事情を知っている事は分かった。


 「ここは君の魂が消滅しないように保管しておく箱のようなもだ、君は死んでしまったからね」

 

 光る珠の話によると寝ている間に隣の部屋で起きた火事により、煙を吸い、一酸化炭素中毒により意識が無いまま焼かれて死んでしまったらしい。


 「なるほど…そうですか…」


 両親が知ったらきっと悲しむだろう。

 まだ何も恩返しできていない。


 「生き返る事は出来ないですか?」

 「もう体も無いし簡単に生き返す事はできないね」

 「不可能ではないと?」

 「あぁ、だけど色々矛盾も生じるし禁止されている事だから諦めてくれ」

 「神様にも禁止されている事があるんですね」

 「僕は神様では無いよ、まぁ君達から見たら似たようなものだけどね」


 そう言うと色々と説明してくれた。

 光る珠は神様では無く宇宙の管理者らしい。

 宇宙の外側からこの宇宙の中を観察し記録している存在なのだとか。

 そしてこの空間は魂が消滅しないように保管する装置でそこに意思伝達用の装置として光る珠があるのだとか。

 ちなみに魂が消滅したあとどうなるのかは分からないらしい。

 地獄や天国は観測できていないので管理者側の見解では存在しないとのことだ。


 「それで管理者さんはどうして私の魂をここに入れたんですか?」

 「そうそう、それが本題だ」


 管理者が言うにはこの宇宙にある別の知的生命体が生きている星『レタルジア』で新たな人生を生きてもらってそれを観察するのが目的らしい。

 肉体は地球での体のDNAを元にその星の環境に合わせて新たに作ってくれるそうだ。


 「それに『レタルジア』には地球で言う魔法のようなものがあるんだよ」

 「魔法ってあの魔法ですか?」 

 「そうそう、まぁ君たちの星のファンタジー作品みたいに何でもできるわけではないけどね」


 管理者の説明によると『レタルジア』にはいわゆる魔素と呼ばれる元素が存在しており、それが大気やあらゆる生命の中に含まれているらしい。

 その魔素を使って魔法という現象に変換しており、人だけでなく魔獣と呼ばれる動物にも魔法を使う種類がいるようだ。

 魔法の種類は、火、水、風、雷、土、聖、闇の7種類で、大抵の人は2種類の魔法適性があり、3種類扱える人は極稀らしい。

 

 「さて、一通り説明したけどどうだい?何か質問とかあるかい?」

 「えっと、転生したら何かしないといけないんですか?魔王を倒すとか」

 「いや、ノルマは無いよ、君は君の思うように自由に生きてくれればそれで良いんだ」


 正直ホッとした、転生してまで面倒くさいことはしたくない。

 ましてや命をかけた過酷な旅なんかごめんだ。


 「転生特典的な特別な力をもらえたりするんですかね?」

 「そういうのも無いよ、僕が観察したいのは特別な個体では無く、『地球の常識を持った普通の個体がレタルジアでどんな行動をするのか』だからね」

 「それを観察してどんな意味があるんです?」

 「簡単に言うと地球の人間という種を研究して絶滅したときに備えているのさ」

 

 この宇宙に生まれた知的生命体が絶滅したときにサンプルとして少数を飼育するため、色々な環境の星に一般的な個体を送りデータを集めているのだとか。


 「まぁそういうことだからさ、協力してくれるかな?もちろん強制はしないよ、君の意志で決めてほしい」

 「わかりました協力します」


 そもそも協力を拒めばこのまま消滅するだけというなら、転生しない選択はない。


 「よかった、それじゃあ第二の人生を自由に楽しんでくれ」


 その言葉を最後に光る珠は消えた。

 そして突然意識が途切れた。

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