第48話
昼食を食べ終わったら洗い物だ。
使い終わった食器をシンクに置いていくと、雫が布巾で水気をとってくれた。
「ありがとう雫」
頭を撫でてやると雫は上目づかいで見上げてきた。
「んーん。わたし、いっしょにやりたいだけなの……」
「そっか。でも助かるよ」
「うん……えへへ……」
雫は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
どうも彼女は共同作業をしたいみたいだ。人の役に立ちたいって気持ちもあるのだろうけど、それ以上に誰かと一緒に行動することで安心感を覚えるのかもしれない。
「あー!」
洗い物が終わって手を拭いていると、雫の叫び声が部屋に響いた。
振り返ると、ベランダの柵によじ登る陽詩とそれを眺めるアゲハが見えた。
「かっかっか! みとれよアゲハ! わらわはすごいんじゃぞ!」
「……あぶないよ」
「ちょっとなにしてるのよあなた! あぶないでしょー!」
「うるさいわばーか! おぬしらはそこでみとれ!」
雫の忠告を無視してベランダによじ登る陽詩。ベランダの柵にたって仁王立ちすると、部屋を見ながらにっこりと笑った。
「どーじゃー! わらわがいちばんたかいところにおるぞ! うらやましいじゃろ!」
「おい陽詩」
「なんじゃー! わらわをみおろすなアホー!」
俺は両手を振り上げて抗議してくる陽詩の頭に拳骨を叩き落とし、彼女を部屋につれもどした。
「危ないから二度とするな」
「うぐっ……ごえんなさぁい……」
涙目で頭を押さえながら、陽詩はそういった。
「あはは! みよアゲハ! わらわはやいじゃろー!」
「……うん」
「ねぇねぇ、アゲハちゃん。おままごとしましょー」
「……うん」
部屋の壁に寄りかかりながら座ってみていると、三人の性格の違いがよくわかる。
陽詩は走り回ったりタンスを覗いたりととにかく落ち着きがない。
雫はだれかといっしょになにかをしたいようで、とにかく話しかけてばかりいる。
アゲハに関してはなにを考えているのかわからないほど大人しい。陽詩と雫にかまわれてばかりだ。
時刻は午後三時過ぎ。昼寝でもさせれば静かになるだろうと思ったが、視聴者たちによると昼寝をすると夜に眠れなくなる可能性が高いそうだ。
夜中に騒がれては困るのでひとまず自由に遊ばせている。
「はぁ……はやく明日にならねーかな……」
なんかもう疲れ切っている。
目を離すわけにはいかないし、かといっていうことを聞かせられるわけでもない。
子育てって大変なんだな。
”ジャージ戦士が疲れているところなんて初めてみた”
”天敵は子供だったのか”
”ついにジャージ戦士の敗北シーンを見ることができたな”
”つまり、幼女最強”
なぜか視聴者たちの一部には俺の敗北シーンを見たがっている層がいるのだが、彼ら的にはいまの状況でも満足しているようだ。
「おい、みきやー」
ちょっとコメントを見ていると、いつのまにか三人が俺の前に立っていた。
「どうした?」
「あのなー、わらわたちなー、プールいきたい!」
「みんなでみずあそびしたらたのしいとおもうの」
「……あついから……」
プールって、そんなの無理に決まってる。
部屋の中でさえ面倒を見切れないのに人ごみにつれていったらそれこそどうなるかわからない。
「駄目だ」
俺がはっきりそういうと、陽詩は頬を膨らませて雫はしゅんとうなだれて、アゲハは無言で俺を見つめてきた。
「いーやーじゃー! プールいくー!」
床に寝転がり全身を使って抗議する陽詩。
「わがままいっちゃだめだよー!」
「じゃーおぬしはいきたくないんじゃな!」
「それは……いきたいけどぉ……」
雫は目にじわりと涙を溜めた。
子供の頃の雫ってけっこう泣き虫だったんだな。
しかしどうしたもんかな。このまま拒否しても陽詩のやつがさらに暴れ出すかもしれない。
むしろ運動させて体力を消耗させた方がいいんじゃないだろうか。
あ、そうだ。いいことを思いついたぞ。
「あーもー、わかったよ。ほらみんな行くぞ」
「プールつれてってくれるのか!?」
「ああ」
「うわーい! プールじゃプールじゃー!」
「やったぁー!」
「……やった」
市民プールは無理だけどな。
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