百年後の日本に帰還した勇者。金も住所も戸籍もないのでダンジョン攻略配信で食っていきます。

超新星 小石

異世界を救った勇者は百年後の日本に帰還する

第1話


 異世界ベルンド。それがこの俺、十七夜月幹也かのう みきやが一年間過ごした世界の名前。


 俺はもともと地球産まれの地球育ちだ。ところが高校の入学式の帰り道で謎の光りに包まれ異世界に転移。女神様から魔王を倒したら元の世界に返します、なんていわれて半ば強制的に戦わされてきた。


 最初はゴブリンを倒すだけでも気持ち悪くなって吐いていた俺だが、一か月もすればそれなりに慣れた。人間の適応力ってすごい。


 女神様からチート武器のエクスカリバーを与えられていたのでさくさくレベルもあがった。強くなるほど魔物に対する恐怖心が薄れていったのも、旅を続けられた理由のひとつだろう。


 そんな俺は一年におよぶ長旅のすえに魔王のもとにたどり着き、いましがた激闘を終えたところだ。


「はぁはぁ……勝った……」


 戦いの余波で城は吹き飛び荒れ地と化した魔王城跡地。目の前には地面に倒れている美女----魔王が横たわっている。


 辛い戦いだった。黒髪ロングに二本の巻き角。動くたびに揺れるたわわなバストにきゅっとくびれた腰つき。


 黒いロングドレスのスリットからちらりと顔を覗かせる生足も手強かった。


 いままで戦ってきた魔族はみんな化物じみた姿だっただけに、まさか最終決戦の相手がこんなに色っぽいお姉さんだとは思わなかったぜ。


 勝因は間違いなく集中力だな。


「終わったぁぁぁ……」


 目的を達成したことで、いっきに疲労感がのしかかってくる。立っていることも辛くなりその場に尻もちをついた。


 うなだれる俺の目の前に淡い緑色の光が現れ、そこから白い衣装を身にまとった女神様が荒れ地におりたった。


「お疲れ様です、勇者様」

「ひさしぶり、女神様。これで俺は帰れるのか?」

「ええ、もちろんです。あなたは無事に使命をまっとうしましたから。ただ、最後にひとつだけ確認しておきたいのですが、本当に帰還でよろしいのですね?」

「ああ。俺は英雄になるより、普通の高校生に戻りたいんだ」


 一年過ごしても異世界の文化にはなれない。


 まず米が食いたいし味噌汁も飲みたい。


 あとなにより、ウォシュレットが恋しい。


「そうですか……わかりました。ですがせめて、あなたがこの世界を救った証として聖剣だけは授けます。さあ、どうぞこちらへ」


 女神さまはにこりと微笑んで手を差し出した。


 剣を持って帰っても日本じゃ使い道ないんだけど。ま、いいか。

 

 差し出された手を握り返すと、目の前が真っ白になった----。








 ----雑踏が聞こえる。


 徐々に目が慣れてきて、世界が色彩を取り戻す。


 灰色のビル群に囲まれたスクランブル交差点。


 その中央に俺は立っていた。


「帰ってきた……のか……?」


 どうやらここは東京みたいだ。


 でも、なんか変だ。


 うまく言葉にできないけど、俺が知ってる東京と微妙に違う気がする。


 まずビルの壁面にかけられているモニタ。どうも空間投影されてるっぽい。


 あれかな、一年も経ってるからプロジェクションマッピング的な技術が発展したのかな。


 あと、みんなの格好。スーツとかブレザーとか、みんな普通に現代的な服装だけど腰に銃とか剣とか携えてる。


 アクセサリーじゃないよなあれ。この一年で日本も銃社会に? だとしてもなんで剣なんか携えてるんだ。


 最後に一番気になるものがひとつ。


「なんだ、あれ?」


 町の中央に白い塔が立っている。


 周囲のビルなんかよりもずっと大きい。スカイツリーとかそんなの比じゃない。頂上は雲の上まで伸びており、視認することもできやしない。


 なんか変だ。絶対に変だ。ここは本当に俺の知っている東京なのか。


 心臓が嫌なリズムを刻み始める。背中にじんわりと汗が滲んできた。


「こんにちは、お昼のニュースです」


 ビルに投影されていた映像に視線を移す。


 そうだニュースを見ればなにかわかるかもしれない。


「さきほど、ダンジョンの第九層が攻略されました。攻略階層の更新は2120年以来、五年ぶりの快挙であり、関係各社は大いに盛り上がりをみせています----」


 いまなんていった?


 2120年の、五年ぶり?


 てことは、いまは2125年? 2025年じゃなくて、2125年!?


 ここはまさか、百年後の日本!?


「嘘だろおおおおおおおお!?」


 俺の絶叫が、スクランブル交差点に響き渡った。


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