あらすじ 聖女編
隣に裸のメリアが寝ていた。
瞬間、全てを悟るガク、昨夜の出来事が夢などではなく、まぎれもない現実だったという事を。だがそれでもガクは、あれは全て夢でたまたまメリアが水浴びをした後に服を着忘れて、そしてたまたま部屋を間違えて同じベッドで寝ていたという可能性に賭けた。
「それとなく昨日のことを聞いたら、顔を赤くして『まだ知らない事があんなにあったなんて…』とか『式場はエルフの里でいいかしら』とか言ってくるしで、青二才の俺は震えたね、『四年で魔王を倒してくる、その時にお互い気持ちが変わってなかったら結婚しよう』って婚約した、エルフは俺ら人間と違って長命で、四年なんてあっという間って感じてくれるのが助かったよ」
そろそろタコ料理も飽きてきた頃に、勇者一行の船はサンマリンの港へと到着した。
想像以上に早い帰還にもフィオナ達は驚いていたが、音に聞く賢者メリアが実在していた事の方がよりビッグニュースらしかった。
「メリアは別に隠れてた訳じゃなくて、しばらく孤島で暮らしてたら自分を知ってる人間が殆どおっちんじまってたらしい」
再び客室に案内され、その日はそこで泊まる事にした。
そして深夜、ガクはまたしてもドアがノックされる音で目が覚めた。
「酒はそんなに飲んでなかったのが功を奏したよ、すぐにベッドの下に潜り込んで息を殺した」
返事も聞かずに入り込んできたのはフィオナ、ベッドの隙間からチラッと盗み見ると、キョロキョロと辺りを見回していた。
ガクを探しているようで、さっきまで寝ていたベッドに触れ、その温度を確かめる。
「上から『まだ暖かい…入れ違いになったのかしら』とか一人言が聞こえてきて、心臓バクバクだったよ、しかもそのままどっか行くかと思ったら俺のベッドにもぐりこんでゴソゴソ何かし始めるしで、流石の俺も耐えられなくなって、ベッドの下からポーションの空き瓶の蓋をドアの方に向かって投げた」
鳴った音で我に返ったのか、フィオナは誰もいないのを確認してからいそいそと部屋を出て行った。
その後、若干ガクは自分のベッドに入るのに躊躇するが、眠気が勝ち潜り込んだ。一文字「濡……」と言ってから気にしないようにして眠りについた。
次の日、勇者一行はサンマリノを出て、セーラのいるレイクッドへと出発した。
今度はフィオナは着いてこようとはしなかった、ガクとしては何となくメリアとフィオナが一緒にいると気まずく感じるので少し安心していた。
無事レイクッドに着き、まずセーラにかかった呪いをメリアに解呪してもらう。
「ありゃ今思い出しても凄かったよ、デカガエルが光に包まれたかと思いきや、いきなり美少女の登場だぜ、国民から聖女様聖女様と呼ばれてた理由も分かったよ、でその足で俺たちはセーラに呪いをかけた大臣にカチコミに行った」
城内の中庭にいた大臣を見つけ、人間に戻ったセーラを見せ、今回の事件について問い詰めた所、大臣が突然3m程の悪魔のような姿に変貌した。
同時に何か呪文のようなものを唱えると城の中にいた兵士が、身体から黒い瘴気のような物を出しながらワラワラと押し寄せてきた。
「大臣は魔族だった、国家転覆でも企んでたのか大半の兵士が大臣によって操られているみたいだったな、でメリアがあの兵士たちはセーラと同じように半分魔物になりかけてるから自分が対処するって次々解呪して無力化し始めた、それが俺たちの戦闘開始の合図になったんだ」
セーラは国民から聖女として慕われており、回復魔法に非常に秀でている。
戦力は、シンシア、ルーミア、ガク、セーラの四人。
「あの悪魔大臣はスピードよりパワータイプの敵でな、シンシアの速度に付いてこれてなかった」
しびれを切らした大臣は背中から黒い針状の物を何本も生やし、シンシアに向かって串刺しにせんとばかりに自在に伸ばす。針とは言っても直径5cm程あり刺されればひとたまりもない。
高速で迫るそれを頬をかすめる程度で避け、瞬時に切り裂くシンシア。
「正直、指示出してたとはいえ俺いるかってレベルだったよ、ただな問題はそこからだった」
突然、大臣は標的をシンシアからガクたちに変えた。襲い掛かる刺突、咄嗟にガクは隣にいたルーミアを横に突き飛ばす。しかし、それが届く前にシンシアの剣によって両断された。
しかし、大臣の狙いはガクたちではなかった。
一番初めに気付いたのはガク。
『ッ違う!! シンシア、
同時に地面から飛び出した黒い針がシンシアの腹部を貫いた。瞬時に針を剣で切断する。その隙を突き、大臣のパンチがシンシアに直撃した。
背中から地面の下へと針を伸ばし、ガクらの方へと気を取らせてからの一撃。
セーラが急いで治療に入るも明らかに重症、戦線復帰も時間を要する。
「だから俺が剣を取った」
大臣はそもそも今までガクの存在を認識すらしていなかった、当然鼻で笑われ、ほかの仲間からも無茶だと言われる。
『セーラはシンシアの回復を、ルーミアは無防備な二人を守れ、シンシアは……そこで見ておいてくれ、この意味分かるだろ?』
景気づけに酒をもう一口飲み、勇者の剣を握り、ガクは単身勝負を挑んだ。
「勝算なんかねえよ、カッコつけたかっただけだ」
流石のガクも勇者パーティーの一員として、毎日シンシアから剣の指導は受けていた。
闇雲に剣を振って勝てる敵じゃないのは分かりきっていた。
なればこそガクは、自分の強みを活かした。
「大臣とシンシアの心を同時に読んだ、やったらやったで頭かち割れんじゃねえかって位頭痛が酷かったが、二日酔いで慣れ切ってた俺にはむしろいつも通りだったよ」
大臣が攻撃する位置を把握し、シンシアが攻撃する位置に攻撃する。
相対した大臣は驚愕した、いるかいないかも分からないような人間に攻撃が当たらず、シンシアと同じような動きを見せる事に。
「つっても付け焼刃の技だ、片腕なら切り飛ばせたが次第に押され始めた、当たり前だよな、シンシアとは体力が違うんだ」
いくら思考が読めても相手のスピードに対応できなければ意味がない。針による一撃でついに剣が上に弾かれ、別の針がガクの喉元まで迫った。
ガクの脳内に走馬灯が流れた瞬間、上空から一人の女が呪文を唱えながら落ちてきた。
直後、大臣の身体が地面に沈み込んだ。当然針も薄皮一枚の所で地面に叩きつけられている。
『久しぶりだな我が眷属ガク、忘れたとは言わせないぞ、我が名は漆黒の魔術師マヤだ!! フハハハハ!!!』
マヤとはレイクッドで別れていた、城内での戦闘音に誘われのこのこやってきたという。
そしてマヤが開発した大魔法、『重力魔法』の効果によって大臣は地面に縛り付けられていた。
『一刀のもとに斬り伏せろ、ガク!!』
マヤの声に共鳴するようにガクは走り出す。
弾かれ上空を舞っていた剣を器用にキャッチし、大臣の顔に向かって斬り下ろした。
「ま、そんなわけで俺たちの勝利って訳だ、正直誰が欠けててもあの勝ちは無かった」
メリアによる兵士の解呪も終わり、何事かと集まってきた国王やら他の大臣にセーラが事情を説明する。
「ちなみに、俺はその後すぐに気絶して、次に目が覚めた時は勇者様ありがとうの宴が城内で開かれていた」
国王や、他の大臣によるめんどくさそうな質問は全てシンシアに任せ、ガクはとにかくありったけの飯と高級酒を腹に入れた。
やがて宴はお開きになり、ガク、シンシア、ルーミア、メリア、マヤの五人はそれぞれ広い個室が用意された。
それは服を脱ぎ、こちらも用意された寝巻に着替え、床に就こうとしていた時だった。
事件が起きた。
「酒が入りすぎててかなり記憶が曖昧なんだが……前後の出来事から、まあ間違いなくセーラがノックしてから俺の部屋に入って来たんだ、『戦いの傷を癒しに来ました』とか何とかって……」
取り敢えずベッドに二人で座り、セーラの指示通りに上半身裸になる。
「そこまでは覚えてるんだよ、そこまでは…朝起きたらいつの間にかベッドで寝てて、大臣に全員殺されるみたいな悪夢を見て汗びっしょりだった」
寝汗を拭って横を見ると───
「───隣には裸のセーラが寝てた」
ガクは見なかったことにしてもう一度寝た。
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