あらすじ 賢者編
隣に裸のフィオナが寝ていた。
瞬間、ガクの脳内に流れ出す飲み会の記憶、一度は礼など要らないとフィオナを自室に帰そうとしたが、彼女がどうしてもといい、本心から言っていることが分かったので、渋々部屋に入れた、それ以降の記憶はすべて不明瞭だった。
「それとなく昨日のことを聞いたら、耳だけ赤くして『昨日は負けたけど次は負けないから』とか、『式場は船の上にしましょう』とか言ってくるしで、多分俺海より青い顔してたと思うわ、流石に貴族の令嬢に手を出しておいて責任取らねえ訳にはいかねえから『四年後までに魔王倒して戻ってくる、その時にお互い気持ちが変わってなかったら結婚しよう』って婚約した、ちなみに心を読んだら、どうやら母親から既成事実の作り方を学んだらしい……びっくりだろ、嵌められそうになった令嬢助けたらハメてたんだぜ……」
その後、メイドからドアをノックされ、フィオナの居場所を知らないかとドア越しに聞かれたりもしたが、勇者一行は修復された船に乗って賢者メリアのいる孤島へと航路をとった。
フィオナもついて来ようとしたが、島に着けばすぐに戻ってくる旨と危険な旅に付き合わせる事はできないと諭した。 フィオナの母は、ちゃんと花嫁修業をさせるからとガクに耳打ちしてきた。
止まらない脂汗を拭い、ガクたちの乗る船は帆を張った。
「マヤから貰った地図によると大体三日あれば着く感じだった、船員と食料は全部領主さんが用意してくれてな、酒樽もダース単位で置いてあってホクホクだった、途中何回か海から魔物が襲ってきたが全部シンシアとルーミアが撃退してくれて俺には出番すらなかった、順調な船旅で、遂に島が見えたと思った時だった」
まるで島を守るかの様に巨大なクラーケンが船を襲った。
船体に纏わりつく吸盤のついた触手はシンシアが切っても切っても再生する。
船員の一人が触手に捕らわれた時、ルーミアが炎の魔法を使い触手を吹き飛ばすと、再生が鈍くなった。
「まあ、水属性の弱点は炎なんて、誰でも知ってる事だよな、ん? 俺は何してたのかって? クラーケンの初撃で酒樽全部海に落ちちまったから船員と一緒に逃げ回ってた」
役立たず極まれりかと思いきや、意外にもガクは活躍した。
逃げ回ってるうちに段々とクラーケンの思考が読めるようになってきたのだ。
「『船酔い』だな、あのハゲダコがやたらめったら船を揺らすから酔っちまったんだ、その後はいつも通りシンシアに攻撃される位置と、真の弱点を教えてなんとか討伐成功した」
一人も欠ける事なく島に到着し、三人で島の中央へと向かう。
マヤが島には人を襲う魔物はいないと言っていたので、船員は船の修理に当たらせた。
「割とすぐ開けた空間に出て、ぽつんと置かれた大き目のコテージみたいな物を見つけた、中から二十歳くらいの耳の尖ったお姉さんが出てきた、聞くと種族はエルフで、名前はメリアっていうじゃねえか、俺たちは今までの事情を話して協力してくれるように頼んだ、そしたら、『私が出す問題に答えられたら協力しましょう』って言われてな、仕方ないから問題を聞いたんだが、全く分からない、シンシアとルーミアも分からねえみたいだった、さてここで問題です、酒もない俺は一体どうやって問題に正解したでしょうか」
ガクは少し溜めてから答えを言った。
「答えは『陸酔い』だ、船旅が功を奏した訳だな、メリアは俺が解けた事に随分驚いたみたいで、追加でどんどん問題を出してきた」
次々とその問題に正解していき、無事メリアの協力が得られる運びとなった。 何故かガクはメリアから甚く気に入られた。曰く、自分と同じくらい物知りな人は見たことがないとの事。
「流石に心読んでましたなんて言えなかった、今思えば黙ってたのが悪かったのかもな……」
帰りの船旅は海が荒れていた。 船酔いの酷かったガクは、船員が私物として持ってきていた酒を貰って飲み、身体を温めて自室で早々に眠りについていた。
時刻は夜に入った頃、ドアをノックする音で目の覚めたガクは、千鳥足で進み扉を開ける。
外に立っていたのは、メリアだった。 事件が起きようとしている。
メリアは「酔い覚ましの魔法をかけに来ました」と言ってガクの部屋に入ると、ベッドに座るように指示する。
「何故か俺の横にメリアも座ってきて『実は、賢者と呼ばれる私でもまだ知らない事があります』とか言ってきたんだ、酔ってたとはいえ今までの流れからして流石の俺も気付いたよ、ちょっと夜風にでも当たろうかな~なんて抜け出そうとしたらベッドに押し倒された」
思い出すように自分の手を握りこむガク。
「賢者っつっても力まで強いんだな……ただな、朝起きて恐る恐る横を見たらなんと誰もいなかった! ああ夢だったんだ、ってどんなにホッとしたことか、飯でも食おうとベッドから抜け出そうとして足を動かしたら……どうにも違和感があった」
何の気なしにシーツを横にやると───
「───下には裸のメリアが寝てた」
ガクは顔を覆った。
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