あらすじ 魔術師編




 隣に裸のベロニカが寝ていた。


 瞬間、ガクの脳内に流れ出す飲み会の記憶、しかしどうやって帰って来たのか、それだけがせき止められたかのように不明瞭だった。


「それとなく昨日のことを聞いてもベロニカは顔を赤くして照れてるだけだし、式場どこで開こうかとか聞いてくるしで…まあ反面、俺の面はどんどん青くなってったんだけどな、ただやっちまったもんはしょうがないから、『五年後までに魔王倒して戻ってくる、その時にお互い気持ちが変わってなかったら結婚しよう』って婚約した、要は問題を先送りにしたわけだ、二日酔いでも心は読めるみたいでな、延ばせる期限の最大がそこまでだった、幸い魔物の角で作ろうとしていたブツがかなりの年月かかる代物だったらしく、しぶしぶ引いてくれた」


 話している最中にシンシアとルーミアに危うく気付かれそうになるが何とか回避するイベントがあったりもしたが、その日のうちにガクは三人で逃げるように街を出た。


「次は…ああそうだ、レイクッドっつう王国で妙な噂を聞いたんだ、丁度その時王女が居なくなって王国内が荒れてる時期だったらしいが、何でも夜になると下町の外れにある湖に恐ろしく醜い魔物がいるらしいっていうな、害はないが、近付くととすぐに湖の中に逃げていなくなっちまうから討伐もできない、で俺達が依頼を受けて夜その場所に向かったんだ」


 当然、その魔物は姿を現さない。何時間か待ったが、今日のところは出ないだろうと宿に戻り一泊。


 ガクはその夜、宿を抜け出し酒を片手に夜の街を練り歩いた。ついでにもう一度湖の様子を見ておこうと向かったところ、今度は魔物の姿が湖の中に見えた。


 顔だけ水面から出して月を見上げている魔物を見つけ、思わずガクは息を殺して逃げようとした。


 その瞬間、ガクの脳内に誰かの心が流れ出した。


 『人間に戻りたい』


 無意識の内にガクが湖に駆け出すのと同時に、魔物は物音に気付き水中に逃げようとする。間に合わないと思ったガクは走りながら大声を上げた。


「俺は心が読める能力者だ!!! 今お前の声を確かに聴いた!!! 俺ならお前を助けられるかもしれない!!!」


 恐る恐るといった感じで水面から顔を出したのは巨大なヒキガエルだった。正確には差異こそあるものの似たようなフォルムをしていた。


『私の声が聞こえるの…?』


「聞こえる、攻撃したりしないから事情を聞かせてくれないか?」


 ガクは自己紹介をした後にカエルから、自分がセーラという名の王女であり、新たに就任した大臣の手によって魔物の姿へと変えられてしまったことを聞いた。


 カエルは静かに鳴きながら、ガクに頼みごとをしてきた。


『恐らくあの大臣は魔族の手の者、このままでは国が危ないです、ガク様…このような姿で申し訳ありませんが、どうか…この国を救っていただけないでしょうか』


 二つ返事で了承したガクは、セーラに必ず救って見せると約束し宿に戻った。


 次の日、シンシアとルーミアの二人に昨日起きた事を説明すると、当然とばかりに協力すると言われ、情報収集を開始した。


 得意の酒場で、ガクが解呪関連の話題を出した時に、王国を出て東に行き、山を登ったところに物好きな魔術師がいるという噂を聞いた。


 シンシアとルーミアも似たような噂を聞いていたので、ひとまず勇者一行はそこへ向かうことに決めた。



「その山の魔物が強いのなんの、洞窟を通って山の内部を進んでいったんだが、そこら中に武器やら装備やらが落ちてたんだ、今思えばありゃ全部やられちまった他の冒険者の物だったんだろうな、中でもとびきり強い魔物がいてベロニカから貰った強力なポーションがなかったら全滅してた」


 洞窟を踏破し、しばらく進むと小屋が見えてきた。 その小屋を訪ね、出てきたのはいかにもといった格好の魔女、マヤと名乗っていた。


「マヤは魔族の魔法に興味があったらしくてな、セーラの話をしたら興味津々って感じで食いついてきて、王国までついてきてくれることになった」


 だが、マヤにはセーラにかけられた呪いを解くことが出来なかった。曰く、完全に専門外とのこと。


 しかし、完全に手詰まりというわけでもなかった。マヤの師匠である賢者メリアならば解呪は出来る、とマヤが言ったのだ。


 旅の準備に備え、再び宿を取り、一晩泊まる。


 夜、ガクはまたしても宿を抜け出して、酒を飲んでセーラの元へと向かい他愛もない話をした。


 宿に帰ろうとしたところ、玄関でばったりとマヤと鉢合わせた。


 マヤはガクが持っていた酒に興味が湧いたのか飲んでみたいと言い出した。


「あの時…セーラと話すために酒を飲んでたのが失敗だった、冷静な判断能力を失っちまってたんだ…」


 事件は再び起きた。


「朝起きたらな、俺はベッドで寝てた、床には開けた覚えのない酒のボトルがダース単位で転がってた」


 二日酔いで頭痛のひどい頭を押さえ横を見ると───



「───隣には裸のマヤが寝てた」



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