異世界チート転生のんびり最強やりなおしスローライフ〜ギルドを追放されたSランクのおっさんはハズレスキルで無双し勇者と魔王と賢者と聖女と奴隷と魔術師と錬金術師と悪役令嬢に婚約破棄される〜

しらべ

あらすじ 錬金術師編




「…という訳だ、まぁかいつまんでいうとこんな感じだな」


「タイトルとあらすじに全部書いてあるからって説明を省こうとするのはやめろ」



 ここは異世界、町の外れにあるスナックに客の男と、一人のママがいた。


 ママといってもその顔立ちは若く、酒すら飲める年齢ではなさそうだった。


 対して男は、30代くらいの、所謂おっさんに突入し始めた年齢の顔、無精髭を生やし疲れた表情をしている。顔だけを見ればイケおじと呼ばれる部類に入るだろう。


 場末のスナックに入ってくるなり、男が開口一番ミルクを頼んできたので何かあったのかと尋ねたところだった。



「どっから話すかなぁ…あ、俺の名前はガク、ママは?」


「私はカレン、はいミルク」


 カウンターに座っているガクに出来上がったミルクを渡す。客は彼一人だった。


「ああどうも、いや実はさ、俺追われてる…んだよね」


 ご丁寧にグラスに注がれたミルクを眺めながら呟くように話すガク。


「へぇ、まあよくあることだね」


「ないよ? …じゃあ俺が初めて自分が能力者だって気付いた時の話をするか、ありゃ確か6年くらい前だったかな…」


「その話長くなる?」


「聞いてた? 何年も前の話だからな、長くもなるけどどうせ客が来るまでの暇つぶしと思って聞いてくれよ」


「まあいいけど」


「…俺はガキの頃から魔法が使えなくてな、魔力が足りねえのか才能がねえのか分からなかったが、農村部出身だったこともあってそこまで困ることも無かったんだ、せっかく魔法が使えるって聞いたのに使えなかったときはさすがにがっかりしたけどな、まあここまで言えば分かると思うが、俺は無自覚な能力者だったんだ、だから魔法が使えなかった」


 この世界では、魔法とは自身の魔力を消費し、超常的な現象を起こすことができる物である。


 対して能力とは、魔力を消費することなく使える特殊な力。


 魔法はどんな者でも修行すれば差はあれど同じ物が使えるが、同じ能力はこの世界に一つとして存在しないものだった。


 そして能力者は、魔法を使うことが出来ない、理由は一切不明である。


「俺が初めて自分の能力を自覚したのは酒を飲んだ時だった、なんつーかな、相手の心が読めるんだよ、酒が入った状態で勝負すると絶対勝てるんだ、気付いた時にゃ震えたね」


「手が?」


「アル中だからそれ、次の日にゃ俺は両親に別れを告げ村を出てた、目指したのは冒険者が集う街、フィルバだった、そこのギルドで冒険者登録っつーのを済ませて貰ったランクはなんとSランクだ」


 ニヤリと笑うガクにカレンが驚く。


「Sランク!? 噓でしょ?」


「残念ながら、本当なんだなこれが」


「──低過ぎない? 私ですら初めて登録した時はEランクからだったよ」


「…ほんっと低かったよ! 普通Sランクって聞いたら一番上のランクだと思うだろ? SABCの順だろ普通!! ホントにアルファベット順なやつがあるか!! 受付で有頂天になったの今思い出しても恥ずかしいわ!! どこのだれが作ったかも分からねえ日本人泣かせのシステムやめてくれ!!」


「日本人?」


「ああいや、忘れてくれ…まあSランクから始まるのも当然だった、俺が住んでたところは魔物もめったに出ないし、出たとしても弱っちい貧弱モンスターだったから俺は武器なんか農具以外持ったことがなかった」


 ちびちびとミルクを飲みながら続ける。


「Sランクの俺が受けられる仕事なんて草むしりか家の掃除くらいだった、いや俺冒険者なんだけどって何度も思ったよ、である時何を思ったかEランク冒険者達が新しいパーティーメンバー募集してたから入ってみたんだ、そいつらが今時珍しい優しい奴らでな、Sランクの俺に合わせてゴブリン討伐みてえな依頼を受けてくれたんだ、俺はもう初クエに舞い上がっちまって、酒片手にパーティーの荷物持ちしていざゴブリンが出てきたら仲間の静止も聞かずに一気した」


 そこまで言うとガクは「こんな風にな」と言い、ミルクを一気飲みした。お代わりを頼むとカレンが再びグラスにミルクを注ぐ。


「でもな、現実はそう上手くはいかなかった、よくよく考えてみたらゴブリンみたいな知能の低い本能だけで生きてる魔物の心なんて読めるわけなかった、とんだハズレスキルだよ、いきなり酒飲み始めてお荷物になった荷物当番を何とか街まで運んでくれたあいつらには感謝しかない、ちなみにその日のうちに俺はパーティーを追放された、理由は俺たちじゃ君を守れないだとよ、悔しさと切なさと糸井重里で俺はもうその場で泣きながら土下座して謝ったね」


 お代わりのミルクをまたちびちびと飲み始める。


「転機はそん時だったな、その日、ギルドで記憶が飛ぶぐらいヤケ酒したんだ、パーティーメンバーからもらった依頼料以上の退職金を使ってな、気が付いた時にゃ俺は女に組み伏せられてた、まあ先に言っちまうと後に勇者って呼ばれる女だ、名前はシンシア、後で聞いた事情によると、巷で噂のゴロツキ連中が羽振りの良い俺に絡んできたらしい、そこで口論になって相手から胸倉掴まれたから泥酔状態の俺が反撃したんだと」


 ガクの能力は、酔うと相手の心が分かるという物。 本能だけで動いている魔物には何の意味もないが、人間相手であれば話は別である。


 向かってくるゴロツキ相手にちぎっては投げ、ちげっては投げの大立ち回り。止めようとした人ですら吹っ飛ばしてた所にシンシアが現れてガクは無力化された。


「で、酔い覚ましの薬を飲まされた俺はそこで正気に戻ったって訳だ、そのあとなんやかんやあって俺はそのシンシアのパーティーに入れてもらえることになった、魔王討伐を掲げたパーティーなんだが、つってもメンバーは俺を含めシンシアとその従者のルーミアの三人だけ、女二人に俺一人で最初は結構気まずかったが旅は楽しかったよ、ちなみにギルドは暴れた日に追放された」


 ルーミアはシンシアが壊滅させた奴隷商人の商品だったが、その時の恩で自らシンシアの奴隷となった。戦闘では後方支援として参加していた、ちなみに亜人で猫耳である。


「長くなったがここまでが前置きだ、細かいところは覚えてないんだがここからが本題、どうして俺が追われているかっていう話だな」


 三人での旅が始まり、戦闘では役立たずのガクは料理係に任命された。シンシアが狩ってきた魔物を調理する、幸い家で最低限の料理の作り方は学んでいたので、ルーミアと一緒に食べられる野草などを採取し、協力しながら飯を作っていた。


「事件は旅をして二つ目の街で起きた、その街にいたベロニカって名前の有名な錬金術師に強力なポーションを注文したんだ、そしたら逆に材料調達の依頼をされてな、確か近くのダンジョンの最下層にいる魔物の角を取ってきてくれみたいな内容だった、ダンジョン行ってる間にポーションは作っておくって言われて俺らはその依頼を受けた、この時まだ知らなかったんだがその魔物、歴戦の冒険者を何人も葬り去ってきたやばい奴でな、俺らもかなり苦戦した」


 装備を整え、多少の傷を負ったものの最下層に辿り着いたガクたちは、一目でその魔物の強さが分かったという。


 結果としてその魔物には辛勝したが、その戦いで最も貢献したのはシンシアでもルーミアでもなくガクだった。


「実はな、俺らが戦った魔物は強すぎた」


 強すぎたが故に、知性があった。


「思考回路があるなら、俺の能力が活きるって訳だ、ここにきて俺のハズレスキルが無双し始めた、強い敵ほど考えて行動するからな、ようやくシンシアが俺をパーティーに入れた理由が分かったよ」


 懐に入れておいた酒でうことで相手の心をむ。敵の思考をシンシアに伝えてすべてを先読みすることで圧倒したのだった。


「三人の連係プレーで無事倒し、ベロニカに角を渡して万々歳で終わる…そう思っていた」


 街で宿を取るときは、大抵シンシアとルーミアで一つ、ガクでもう一つの計二つの部屋を使用していた。


 夜、普段はシンシアから禁止されている酒を飲むためにガクはベッドを抜け出し、夜の街へと駆け出した。


 近くの酒場でたまたまベロニカと再会し、意気投合。 その後金が尽きるまで酒場を何軒も回った。


「三次会で一回ゲボ吐いた所までは覚えてるんだが…気が付いたら俺は宿のベッドで寝てた」


 ガクはそこまで言うと、カウンターに肘をつき手を組んで、そこに頭を乗せて絞り出すように言った。


「───隣には裸のベロニカが寝てた」


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