平凡青年と厄災姫

ワタノリ

プロローグーー少年の夢ーー

『昔々、大地は八つに分かれていた

緑溢れた平和な大地…そこでは様々な種族のもの達が手を取り合い、共存していた。しかし周りには七つの危険な大地が広がっていた。

真っ赤な炎が燃え滾る灼熱の大地、命を紡ぎし水の大地、風の大地、キラキラと舞い落ちる美しい雪の大地、生命力と活気あふれる獣の大地、そしてまだ誰も足を踏み入れたことがない光の大地、闇の大地

美しくも危険なその大地にはそれぞれの大地を支配していた神々がいた。

人々に希望を与え、崇め奉られる神は初めはその対応に喜びや優越感を感じていた。しかし、崇められる一方で、人間達の畏怖する対象でもあった。自身の治めている土地の者はもちろん、神の力に恐れをなしている人間達から挑戦者が出るわけもなく、暇をもて余していた。

そんなある日、ふと闇の大地を支配していた神が全神にある提案をした。

「原初の大地にいる者の誰か一人にわしら全員の呪術をかけてやろう。そやつが子を為せばその子へ、子を為さなければ別の者へ移ろっていく呪いを。平和ボケした者達がどんな反応をするか、楽しみだ。」と。

乗り気のない神もいたが、多くの神々は持て余した暇を解消するために、闇の神の提案に賛同した。目をつけたある一人の赤子に加護ではなく、呪いを一つずつかけていった。


――自由気ままな神々のお遊びは、平和な原初の大地に周りに厄災を振り撒く不吉な存在を生み出した』


ペラっと絵本のページをめくる音が部屋に響く。4人でいるには少し狭いベッドで、3人の子供が身を寄せ合い、絵本の絵に釘付けになりながら母親の話を真剣に聞いている。


母親「…………それが、この土地にいる『厄災姫』の由来よ。

今は私達にその不幸がふりかからないように、王様が厄災姫をお城に閉じ込めているから安心よ。」

三男「へぇ…おっかないなあ…」

長男「なんだよ、こんな話にびびってるのか?」

三男「だって、そのお姫様がお城から出たら、僕たちも危ない目に遭うんでしょ?

怖い思いするの、僕嫌だよ…」

長男「……ふん、ビビりだな!!」


怖がる三男の言葉に長男は強がりながらもブルリと身震いする。


次男「お母さん、その後,お姫様はどうなったの?」


次男がふと口に出した。今絵本で開いているページには厄災姫が周りの人々に災害をもたらし、苦しめられているシーンが描かれている。母親が無言でペラリとページをめくると、次のページは白紙であった。

なぜ次のページが真っ白なのだろうか、次男がそう聞く間もなく母親はパタンと本を閉じる。


母親「今はお城に閉じ込められているから私達に危害はないけれど…念のためお城近くの森に入っちゃだめよ。」

長男、三男「はーい。」次男「…うん」


長男、三男と比べ、次男は煮え切らない返事をした。

夜も更け、二人の寝息が聞こえる中、次男だけは眠ることができず、布団を顔まで覆ってモゾモゾと動いている。

眠れない、気になって仕方がない…もちろんあの真っ白なページも気になるが、それよりも…

そんなことを考えているとベッドの足下の部分がぎぃっと沈むのを感じる。気になって布団をまくり、顔を出すと優しい微笑みを浮かべた母親がいた。


母親「大丈夫?眠れないのかい?」

次男「…!

お母さん…うん…」

母親「しょうがない子だね…ほら、おいで?」


次男の横に寝転んでは次男を抱きしめる。心地のよい暖かさが次男の体を包み込む。安心感に包まれたからか、考えていたことがふと口から出た。


次男「ねぇお母さん…お姫様は助けることが出来る...?

その、呪いをかけた悪い神様達を倒せば、厄災姫なんて呼ばれなくなる ?」


その言葉に次男の頭を撫でる手が止まる。


母親「…………お前は優しいね。

だけどその神様達が周りの大地を治めているから、この原初の大地は安泰なんだよ?

その神様を倒すなんて…」

次男「………ごめんなさい…」


母親に注意され、うつむいて母の言葉を聞く

次男の納得のいかない顔に、母親は眉をハの字にして少し困った顔をする。


母親「………でもそうだねぇ、神様を倒すことができれば、その呪いは無くなるかもしれないね。」

次男「…!!」


その言葉に次男は勢いよく顔をあげる。その表情はとてもキラキラし、年相応の希望に満ちた表情だった。


次男「じゃあ、じゃあ!俺が...い、いつか...

強くなったら...さ...その神を倒して、姫様を助けるよ!きっと出来るよね...ね!!」

母親「…そうね、できるかもしれないわね。」

次男「おっ!俺ね!!将来、お姫様を守るカッコイイ騎士になるんだ!!

厄災姫様を悪い神様達から守ってね、そ、それで…い、いつか…いつかそのお姫様と結婚するんだ!」

母親「…そう…叶うと良いわね。」

次男「うん!!俺頑張るよ!絶対に叶えてみせるよ!」


笑顔のまま語る次男に、思わず微笑みを浮かべる母親。二人の話声は次第に消えていき、寝息へと変わる。母親の腕の中で幸せそうに眠る少年の物語はまだ始まってはいない。

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平凡青年と厄災姫 ワタノリ @04_igaron

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