第2章:魔剣士学園
2-1|校長
イリスとオーウェンは昼食を食べ終わると、校長に転入手続きをしてもらうため、昨日見て回った魔剣士学園に行くことにした。
「そういえば聞いてなかったけど、イリスって何歳なの?」
「私は15歳よ。オーウェン、あなたは何歳なの?」
「俺は17歳だよ。今は3年生なんだ。」
イリスは、へぇ、という顔をした後、申し訳なさそうな顔でオーウェンに尋ねる。
「あなた、年上だったのね…。あの、もう遅いかもしれないけど、敬語を使ったほうがよろしいでしょうか?」
オーウェンは少し驚いたような顔をして答えた。
「いや、そんなにかしこまらないでよ。」と、オーウェンは苦笑いをする。「敬語じゃなくても良いよ。今まで通り接してほしいな。」
イリスはホッとした表情で胸をなでおろす。
「それなら、今まで通りに接するわ。」
そういえば、とイリスは切り出す。
「そういえば、昨日は建物を見ただけだったけど、魔剣士学園の雰囲気ってどんな感じなの?」
「そうだな…。学校というよりは研究所や訓練場としての側面の方が強いかもしれないね。授業の5分の3くらいは戦闘演習だし、上級生になると剣の腕に見切りをつけて魔法の研究に没頭するような人もいるからね。」
「そうなのね。もし、私が転入するとしたら1年生に転入するのよね?1年生の間はどんな感じなの?」
「俺が1年の時は今まで通ってきた普通の学校と似ていて、椅子に座って先生の講義を聞いて勉強するって感じかな。演習の時間もあるんだけど、理論の勉強の方が多いね。」
「そうなのね。」イリスは、ふむ、とうなずくように返事をする。「理論はどんなことを学ぶの?」
「戦闘や魔法についての科学的な知識だね。一般常識についても学ぶよ。例えば算術とか。」
「そんなことまで習うのね。」
「まあ、この学校の主な生徒が貴族だからっていうのもあるし、就職先も割と高貴な所が多いからね。逆に言うと、こういう一般常識を知らないと、良い職に就けないんだよね。」
「剣術だけじゃダメってことなのね。」
「そうなるね。」
イリスはオーウェンから学園のことをいろいろ聞いた。学園のことを話しながら15分くらい歩くと、学園の門が見えてきた。門の前には守衛が立っている。守衛はイリスを見るといぶかしむようにイリスに声をかけた。
「君、学園の者じゃないね。止まりなさい!学園への入場証は持っているのかね?」
オーウェンが手帳のようなものを出して守衛に見せた。
「彼女は俺の客人です。これから校長室に行こうと思っているんですが、通していただけますか?」
守衛は手帳を受け取ると、ハッ、と驚いた表情をした後、うやうやしく頭を下げた。
「オーウェン殿のお客様だったとは、失礼なことをいたしました。ご無礼をお許しください。」
オーウェンは手をひらひらさせながら応える。
「いや、大丈夫ですよ。事前に通達しなかった俺にも責任があります。」
「ではお通り下さい。」
門衛は門の横に移動して、イリスとオーウェンが通る道を開けた。
オーウェンが門を通りながら、イリスの方を振り向いて言った。
「魔剣士学園へようこそ。それじゃあ、校長室に行こうか。」
* * *
ゴンゴンゴン、とドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します、オーウェンです。昨日お伝えした女性をお連れしました。入ってもよろしいでしょうか?」
一瞬の沈黙があった後、中から芯の通ったはっきりとした女性の声が聞こえてきた。
「入りなさい。」
二人が部屋に入ると、部屋の奥にいる老女が顔の前で手を組んで座っていた。その隣には侍女がいる。
「失礼します。」オーウェンはお辞儀をした後、イリスを手で示す。「彼女が昨日申し上げた、遭難していた女性です。」
オーウェンはイリスに自己紹介をするよう目で促す。
「始めまして、イリス・オルティスです。」
イリスも自己紹介をしながら頭を下げる。目の前の女性が口を開いた。
「初めまして、イリス。私はこの学園の校長をしている、デボラ・ベイリーです。よろしく。」
老人にしてははっきりした音声だ。手足はスラっとしていて、実際の年よりもだいぶ若く見える気がする。黒髪に白髪の混じったグレーの髪を低い位置でお団子にまとめていて、落ち着いた印象を与える。
デボラ校長はオーウェンに向かって、それで?、という目線を送り、話の本題に入るよう促す。
「昨日も報告したように、イリスには盗賊の討伐を手伝っていただきました。ですが、彼女は記憶喪失のため、行く宛も帰る宛もなく途方に暮れています。そこで、この学園に入学して寮に入れば、その問題を解決することができ、かつ記憶喪失の問題を解決する手だてを探せるのではないかと思い、転入という形でこの学園に入学させてもらえないかと考えています。」
デボラ校長は、ふむ、と切れ長の目を少し伏せ、考えるような表情になる。少しした後、顔をあげてオーウェンに問うた。
「彼女――イリスが途方に暮れているというのはわかりました。ですがこの学園では、才能のあるものがその才能を示すことができるように、入学時に試験を設けているのです。ただで転入させるわけにはいきません。何かその才能を示す方法はあるのですか?」
「あります。」
オーウェンは
「応魔石を使って、イリスの魔力量を測ってみてください。魔法の才能はそれである程度測れるでしょう。」
「…わかりました。」そばに控えている侍女の方を向く。「応魔石を持ってきなさい。」
侍女は、失礼します、と部屋を出ていくと、応魔石を持って戻ってきた。
「イリス、こちらに来なさい。」
デボラ校長の言うとおりにイリスは机に寄る。
「イリス、これは応魔石と言って、あなたの魔力と同期するとあなたの魔力量を測ることができる石です。片手を石に添えて、『我が魔力と同調せよ。』
「わかりました。」
イリスは緊張していたので、深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、目をつぶり右手を応魔石に乗せるとデボラ校長の言うとおりに詠唱した。
「『我が魔力と同調せよ。』
応魔石が紫色に輝き始めた。徐々に色が変わっていく。藍色、青色、緑色…。オーウェンは険しい顔を崩さないが、デボラ校長とその侍女は驚きの色を隠せなかった。
応魔石はさらに色を変える。緑色、黄色、橙色、赤色。そして、その輝きが徐々に部屋を真っ赤に染め上げる。デボラ校長は目を見開いて、侍女は手で口を覆って、まさか!という表情をする。
そして、いきなり部屋を真っ赤に染めていた光が一瞬で力を失い、部屋は元のろうそくだけの明るさに戻った。
イリスが目を開けると、右手に添えていたはずの応魔石が無くなっていた。いや、実際には無くなってはいなかった。
応魔石はバラバラに砕けていた。
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