103話 美人AIは電子の枯山水でやっぱ淫らな夢を見てたっぽい

【ナユタ視点】



 とつぜん、巨大な爆発音が兎魅ナナ邸を襲った。


全力で走っていた俺はよろめき、膝をつく。


 身も凍るような轟音が天井から聞こえてくる。


 建物が揺れ、天井が爆裂し、走っていた俺はコンクリートの雪崩に襲われる。


 逃げようとしても間に合わない!?


「クソッ!!」


 俺はとっさに義腕で身体をかばう。


 義腕に圧倒的な質量が襲いかかる。


【!!!電脳火縄銃サイバーレールガン内蔵式義腕にさらなる重大な損害発生!!!】


 そんな警告を見る間も無く、俺は廃墟の壁に叩きつけられた。


「っ!!!!」


 荒れた息のまま背中を強打した俺は、声にもならない呼吸を漏らした。


 頭も強打し眩暈を感じる。


網膜ディスプレイにノイズが走る。


 口の中が砂利だらけになり、呼吸が止まる。


 俺は自分の胸を強く叩き、異物を吐き出しながら声を吐いた。


「ゲホッ!ゲボッッ!

 はぁっ……はぁっ……。

し、死んだと思ったが……ま、まだだ。

 まだ俺は……生きてる……!!」


 砂利と血が混ざりあった不快な唾液を吐き捨てて、俺は再び走り始めた。



 あるいはお前たちの中で……崩落する「ショッピングモール」を上へ上へと目指して登ったことがある人はいるだろうか?


 まあ……いないと思う。

もちろん俺だってこんな経験は初めてだ。


あちこちの柱が崩れて、天井が自重により「ギチギチ」と悲鳴をあげながら千切れ、数メートルの鉄筋コンクリートの塊として落ちてくる。


ぶっちぎれた電気線がスパークして火の粉を散らし、曲がった排水管が狂ったスプリンクラーのように水を撒き散らす。


 もちろん、床だって安心できない。


裂けたコンクリートから鉄筋の格子が覗いて、階下が見える。

それを踏めば、まっ逆さまになるだろう。


落下したら……無事には済まない。なにせ、階下には剣山のように鉄筋が突き出ている。超高性能サイボーグの黄泉川タマキでも無い限り、即死だ。



 ともかく俺は、そんな”ショッピングモール“……もとい、”崩れ落ちる兎魅ナナ邸“の中で、全力疾走していた。


崩れた廃材が巻き起こす粉塵を吸い込まないように、潰れた義腕で口元を覆いながら俺は走り続ける。


「はあッ!はぁッ!シノブ!

待っていろシノブ!!

 俺がこの狂った”茶番“を全部……終わらせてやるからな……」


 そう呟きながら廃墟の隙間を見上げると、超常的な存在になってしまった二人の美少女の戦う姿が間近に見えるようになっていた。


 シノブとココロが黒と白の羽を散らしながら訳のわからない兵器で撃ち合い、お互いを殴り合う。


二人は笑いながら泣きながら喜びながら悲しみながら……正に「感情の嵐」となって、殺し合っていた。


 そんな彼女達の様子が、強打で痛んだ俺の胸を、さらに締め上げる。


 だから俺は思わず彼女の名前を呟く。


「はぁッ。はぁッ……シノブ……」


肉体リアルの痛みと感情アンリアルの痛みが交差する。


俺が巻き込まれ続けた理不尽の人生・・・・・・と、シノブを巻き込む理不尽な状況・・・・・・が混ざり合う。


本当リアルの記憶と仮想アンリアルの記憶が、溶け合う。


――腐ってしまった国の為に、EQに無惨に殺されたショーリに戦友達。


――死んでなおEQに穢された、ホノカ。


――国の為に研究を続けながらも国に捨てられ、想い半ばで死なざるを得なかったカナタ。


――そして暗闇の中、無力に泣き続ける幼い頃のシノブ。


そんなシノブを弄ぶEQにそして……そんな腰痛部よーつーぶを見て歓喜する……ヒノモトの国民達……。


 重症の黄泉川タマキを置いて、さらには強敵との戦闘の中にウメコを置いて、一人で死に物狂いで走る俺にとってそれらの記憶や現実は、俺を腹の底から怒らせるのに十分な物だった。


 どこまで……フザケて……どこまで腐ってやがるんだ?この世は!?


 この世界はどこまで俺たちをコケにしていたぶれば気がすむんだ!?


 怒りで俺は、叫んだ。


 目を見開いて、叫んだ。


怒りの感情で自分が押し潰されないように……いや、そうじゃない……。


 俺は闘争本能に身体を突き動かされて、この世の全てを破壊する為に叫んだ。


 ただ純粋に、世界に対する殺意に蹂躙されて叫んだ。


「くッッッッそッッッッがぁああああああああ!!!」


 アドレナリンが駆け巡り、痛みが去る。

俺の足は瓦礫を蹴り上げて速度を上げる。


 俺の頭の中をただ一つの目的だけが、占拠する。


『シノブの為に俺の為に!!俺はこの理不尽を蹴散らして!!破壊し尽くしてやる!!!』


 狂気的な状況により、俺の電脳は狂気の怒りで塗りつぶされていく。


 俺は愛する女の名前を叫びつづける。


「シノブ!シノブ!シノブ!!

シノブッッ!!!!」


 彼女の名前を叫ぶたびに、愛が怒りで上塗りされていった。


 そんな獣のように廃墟の中を突き進む俺の前に、影が立ち上がる。


それは俺が殺した筈のキチク芸能社のタスクフォースだった……。


のそりとゆっくりと廃墟の穴の中から這い出るタスクフォースは、俺の行く手を塞ぐように立ち上がった。


 機械の身体が露出したヤツは「電脳に支配されたゾンビ」のようだった。


 黒いバジャラ合金製の頭蓋骨の奥で、タスクフォースの目が光る。


 しかし怒りに我を忘れた俺は、そんな異様な存在に怯むこともなく叫んだ。


 むしろ、ヤツの存在が俺の怒りに油を注いだ。


 だから俺は、走りながらも全身で吠える。


「どけぇええ!!貴様ッッ!!

邪魔だぁあああああ!!!!」


 感情に任せて右手で電脳刀サイバーカタナを抜き放つ。


 走りながら右下段に構える。


 電脳を操作して、光刃レーザータマハガネの出力を極大化ブーストさせる。


 暗く黒い廃墟を、赤く振動する光刃レーザータマハガネレッドに染め上げた。


 振動と熱で俺の生身の腕が焦がされた。


 かまわず俺は電脳刀サイバーカタナを、タスクフォースのゾンビに叩きつける。


 一刀でタスクフォースの首が飛んだ。


 光刃が、禍々しいまでに赤く跳ね上がった軌跡を描いた。


 俺は、首を無くして回転するタスクフォースの骸の横で片膝を突く。


 電脳刀サイバーカタナを、カタナケースに納刀する。


 グレイの塵を巻き上げながら、タスクフォースの死体は廃墟の床に沈んだ。


しかし同時に俺は、激しい頭痛に襲われる。


「!?!?」


 首の付け根から立ち上がった痛みが電脳を貫き、倒れそうになる。


 視界が大きく歪み……気づく間も無く涙が足元のコンクリートを濡らした。


 痛い!?これまで感じた事が無い異常な頭痛だ!!!!


 その時俺は、霞む網膜ディスプレイの中でホログラム文字を見た。


久遠多無クオンタムモード起動】


 それを見て我を取り戻した俺は、痛みの中で声を振り絞る。


「く……くおんたむ……??

いやそれよりも俺は……バジャラ合金製のサイボーグを電脳刀サイバーカタナで斬ったのか??

 生身の人間の俺が……1発で??

 し、信じられん……」

 

 そんな俺の前に、WABIちゃんがホログラムとして現れた。


 WABIちゃんは、瞳とおっぱいの間のコアをマゼンタに光らせていた。


 そして驚くことに、彼女の顔は苦痛で歪んでいるようだった……。


【※以下のWABIちゃんとナユタの会話などは、電脳内での会話なので2、3秒で終わる感じです】


 苦悶の表情のWABIちゃんは言う。


「どうやら……恐れていた事が始まったようです……」


「恐れていた事……??」


 と言いながらも俺は、WABIちゃんの身体に釘付けになってしまっていた。


 なぜならホログラムにて現実世界に投影されたWABIちゃんが、全裸だったからだ。


 当たり前のことだが……どんなに切羽詰まった状況だろうが頭が激痛に襲われていようが、二次元萌え萌え美人キャラの全裸を見ると、男は正気に戻る(※ナユタ個人の感想です)。


 だから、WABIちゃんの艶やかで豊満にそびえ立つEのおっぱいや、曲率の高い腰や尻を見てしまった俺は思わず言ってしまう。


「おっぱいいっぱいさいこう……じゃない……どうして全裸なんだ?」


 その言葉を聞いたWABIちゃんは、苦悶の表情のまま全裸で言う。


「全裸……?」


 そして、自分の身体を一瞥する。


ちなみにこの時のWABIちゃんは俺と同じように片膝を突いていたので、足の付け根のなんか凄い部分は全く見えなかった。

つまり、放送倫理上はオッケーな感じの全裸だった。


 顔を上げて俺を見たWABIちゃんは、申し訳なさそうに全裸で言う。


「確かに……ナユタ様の仰られるように、現在のワタクシは全裸のようです。申し訳ございません……。

どうやら通信障害のようです……」


「通信障害?」


「ええ。通信障害です。

 ……通信アンテナに損害が発生している為、WABISABIの量子コアが格納された通信衛星との接続が瞬間的に途絶えてしまったようです。

 そのためワタクシが全裸でホログラム化してしまったようです」


 真剣に説明するWABIちゃんだったが、俺はどうしても彼女の乳房のてっぺんの“薄黄色”の美しい形に目が行く。


「つ、通信障害で……全裸?

 そんなことになるんだな……最新鋭のAIって……」


「ええ。申し訳ございません。

 いちおう、AI憲章違憲を回避するための注釈しますが……これはプレイではありません。

 業務上必要な処置です。

 よってナユタ様はワタクシを性的に消費しているわけではございませんので、ご安心ください。

 しかしあるいは……ナユタ様……?

ワタクシの全裸を見れて嬉しいですか?」


「それは嬉しいに決まってるが……いや……そ、そうじゃ無い。

 ともかく話を戻そう……。

“恐れていた事”の話だったよな?」


「ええ。そうです。

 『恐れていた事』……です」


「それって……何のことなんだ?」


 全裸のままWABIちゃんは、真剣な表情で説明を始める。


「お忘れですか……?

 パンツァーの副作用の……ナユタ様の電脳の萎縮の事です。

加えてもちろん、エモとらにおいての副作用についても……です」


 WABIちゃんは立ち上がり、頭を抑えていた手を太腿の間で揃えた。


その所作はやはり完全に美人で、そんなWABIちゃんはやっぱ完全なる最高の二次元美人キャラだったし……何よりも凄く全裸だった。


 ともかく彼女は続ける。


「度重なる極大の負荷により、ナユタ様の電脳は多大なダメージを受けてしまいました。

 つきましてWABISABIに実装された『電子の枯山水』に次ぐ第2のセーフモード……【久遠多無クオンタム】モードが起動しました」


「く、くおんたむ……?」


「ええ。【久遠多無クオンタム】です。

本モードにつきましては現時点では詳細を省きますが……

ナユタ様は電脳に植え付けられたパンツァーに『対抗』する訳では無く、『共存』する形となります」


「パンツァーに対抗??共存??

意味が分からないんだが??」


「かいつまんでご説明しますと、パンツァーを“積極利用“する事となります。

 いわば……『毒くわば皿まで』という状態です」


「いやいやいや……余計に分からないんだが??」


 俺のツッコミを無視してWABIちゃんは、残念そうな全裸で説明を続ける。


「【久遠多無クオンタム】モードにつきましては、カナタ様も実装を最後まで悩まれたようです。

 パンツァーとエモとらの同時併用は想定の範囲内でしたが、しかしその後の副作用に関しては全くの未知数でしたから……。

 しかし……『娘を守る為には仕方無い処置だ。それにパートナーも多少の犠牲・・・・・は本望だろう。ワガハイと同様・・・・・・・にな』……とのことで、カナタ様は本モードの実装に踏み切られたようです……」


 WABIちゃんの説明があまりに分からなさ過ぎた俺は、こう言うしか無かった。


「は、はあ……そ、そうなんですね……」


「しかし、ご安心を。

 本モード起動後は、たとえナユタ様の脳がさらに萎縮しようともWABISABIはずっと永遠に・・・一心同体ですから」


 全く理解ができない俺は、とにかくオウム返しする。


「WABIちゃんと俺が一心同体だって?」


 そしていつものグリーンの瞳とコアに戻ったWABIちゃんは、グリーンのショートヘアを魅力的に揺らした。


 その笑顔はやはりめちゃくちゃ美人で、Eの胸も発射前のロケットよりも魅力的で、とにかくWABIちゃんは最高の美人AIだった。


 しかし今の俺にはその笑顔は、どこか薄ら寒く……むしろ畏怖すべき笑顔のように思えた。

 

 ともかく俺たちの最高の「二次元嫁美人AI」は、瞳をハートマークにして微笑んで俺に告げる。


「つまりはナユタ様……。

あなたの『魂』をワタクシに下さい。

 その代わり何があっても、シノブ様の身は我々・・でお守りできますので……」


 そうして両手を広げたWABIちゃんの、重力に逆らってそびえる2つの丸い乳房は魅惑的だった。


しかしその二つの球体は、お互いにぶつかり合い反発して退廃的に揺れた。

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