8話 シノブの実況配信3
月影シノブは、ミニ丈ピンク着物で砥石や
「プロデューサーさん?
カメラも大事ですが、WABIちゃんの”電脳リンク”のテストもお願いします!
いざ本番で上手く動作しなければ、元も子もないですから!」
”電脳リンク”とは、使用者同士の思考をチャット的に送る機能だ。乱暴に説明するならテレパシーだ。
俺が軍隊にいた頃は、こういうテレパシー的なヤツは”思考会話”と呼ばれていたが、最新鋭の戦闘AIのWABISABIでは”電脳リンク”と呼ばれる機能らしい。
俺は
「へい!WABISABI!
月影シノブと俺の『電脳リンク』を開始してくれ!!」
美人のWABISABIは微笑みながら言う。
「かしこまりました。
ただ今より電脳リンクを開始します。
ちなみにお二方は『規約』はご確認されましたか?」
俺は応える。
「『規約』って言うと……電脳リンクを開始すると、妄想とか個人情報がダダ漏れになる可能性があるけど、メーカーは損害を被らないとか言うアレだろ?
大丈夫だ。問題無い」
「了解しました。それでは電脳リンクを開始いたします」
とWABISABIが美人な声で言ったと同時に、俺の網膜ディスプレイ上に【電脳リンク稼働中】というポップアップが表示される。
【※『』で囲まれたセリフが電脳リンク上での会話です】
俺は電脳リンクで月影シノブに呼び掛ける。
『あーあー。本日は晴天なり…… 月影シノブ?聞こえるか?』
月影シノブの電脳リンクが俺に返ってくる。
『コスプレって初めてですから、ちょっとドキドキしますね?
それにこの衣装、けっこう下半身の露出が多いです。凄くドキドキします……』
『おーい? 聞こえているか?
思考がダダ漏れだぞ?月影シノブ?』
『なんか、プロデューサーさんの声が聞こえますが、口を開けてませんね?幻聴でしょうか?
それにしても、このコスプレのドキドキ感、ちょっと癖になっちゃうかもしれませんね……』
『いや、幻聴じゃ無いんだが?』
『そうですか。幻聴じゃ無いんですね。
実は、私、お姉ちゃんには負けますが、お胸の形にはちょっと自信があります。
Cの胸は男の人に人気らしいですし、色んなコスプレにチャレンジしちゃっても良いかな?
ワンチャン過激なコスプレで、万バズを狙って……』
ここで俺は、個人情報保護の観点から、電脳リンクを強制終了させる。
慌てて大きく手を振り、“肉声”でシノブに呼びかける。
「おい!月影シノブ!!
電脳リンクが始まってるぞ!!」
月影シノブは、「驚天動地ここに極まれり」な表情で叫ぶ。
「はぇぇええええ!?!?
い、いいいつから、はは始めてたんですか!?」
「セリフ噛む」ってレベルじゃないぐらい、噛みまくってる月影シノブに俺は言う。
「残念だが、君が『電脳リンクのテストもお願いします』って言ったすぐ後だ」
「えええ!?
じゃ、じゃあ!!もしかして!?
……私の胸のサイズは?」
俺は、知った情報を、そのまま答える。
「形の良いCカップだろ?
良いじゃないか?俺も好きだぞCカップ。
自信を持て」
と俺が言った瞬間、彼女の顔は「ボンッ」という音が聞こえるぐらい一瞬で耳まで赤くなり、なんなら赤を超えて紫ぐらいになり、しゃがみ込んで動かなくなってしまった。
「ヤバいな。このままじゃ撮影どころじゃ無いな」と思った俺は、彼女の肩に手を乗せ、慰めの言葉を掛けようとする。
しかしその瞬間、彼女は予備動作無しで立ちあがり、空虚な目で俺を見つめて言う。
「フランケン……シュタイナーです」
「え? は!!??」
「フランケンシュタイナーです!!」
月影シノブは俺への殺意で目を燃やし、叫ぶ。
「プロデューサーさんは!
変態さん認定を上方修正のうえ!
フランケンシュタイナーの刑に処する事が決定しました!!」
「え!?ちょ!まっ!落ち着け!!」
俺は後ずさったが、同時にシノブもジワジワと距離を詰めてくるので、俺たちの間合いは正確に水平移動した。
俺は冷や汗を垂らしながら言う。
「ど、どうして君はプロレス技に執着するんだ!?
それにフランケンシュタイナーはマズイ!
その技をかけると、俺の顔が君の脚の間にはさまれて最高……じゃなく!
パンツが
そうなると、パンツァーのせいで例のパラドックスがマジで発生する!!」
—————
しばらく追いかけあった俺達は、疲れはて冷静になり、「コスプレ刃物研ぎ実況」を開始していた。
ミニ丈ピンク着物の月影シノブが、俺の持っているカメラに向かって笑顔で話す。
「今日は、かんたんな苦無の研ぎかたです!
ご自宅の包丁も同じ方法でできますので、
是非みなさん、お試しくださいね?」
どうやら彼女は、得意分野なら緊張せずに話せるようだ。【 刃物研ぎ lv.2 】のスキルを持っているだけある。
ここでさっそく、彼女から電脳リンクで俺に指示が入る。
『今から「
俺は電脳リンクで返す。
『ブツドリって何だ?』
『物撮りとは、使う砥石とか電脳苦無(サイバークナイ)を撮影する事です』
『じゃあ、最初からそう言ってくれよ』
『ブツドリって言った方が、業界人っぽくってカッコ良いじゃないですか?』
俺は「『業界人っぽくてカッコ良い』という発言がすでにカッコ良くないんだが」とは言わず、月影シノブの背後に立ってカメラを回した。
俺が「物撮り」をはじめたところで、月影シノブが視聴者に解説する。
「今日は、砥石を3種類使います。
このパンダさんマークが荒砥石で、
ヒグマさんが中砥石で、
ツキノワグマさんが仕上げ砥石です。
ですから、まず最初にパンダさんから使いますね?え?全部クマで分かりにくい?」
話しながらシノブは、俺に電脳リンクで指示を出す。
『この後に私が研ぎ方の姿勢を実演しますので、「引き」で撮って下さい』
『分かった。
手元だけじゃなく、全身がフレームインすれば良いんだな』
『ええ。そのとおりです。私の全身を撮ってください。
今から私はタスキを掛けますので、その時間を使って、ゆっくりカメラを引いてください。』
そして彼女の、「みなさん少々待ってくださいね?」という視聴者に対するセリフを合図に、俺はカメラを構えながら少しづつ後ろに下がる。
勘が良い奴はきづいたかもしれないが、俺はカメラのズーム機能を知らない。
「マニュアル読めよ(藁)」とか「情弱乙(藁)」とか、思っている奴がいるかもしれないが、それは間違っている。
マイクロドローンでの撮影や、電脳の視覚情報の録画機能がある現代において、カメラの使い方を知っているヤツなんて、極少数派だろう。
だからこの時の俺は、ズーム機能を使わずに撮影をしていた。
俺がそんな事を考えている間に、月影シノブはピンクのミニ丈の着物にタスキを掛けた。
セミロングを後ろに束ねて、小さなポニーテールを作る。
シノブが視聴者のコメントを読み上げる。
「『うなじ助かる』『うなじ最高』『富士とうなじはヒノモト人の魂』……って!
み、みなさんどこ見てるんですか!?
き、今日は!真面目な配信なんですよ!?」
とシノブは顔を真っ赤にして慌てた。
もちろん、俺も視聴者と同じ気持ちになった。
彼女は続ける。
「とにかく!ちゃんと見てくださいね!
刃物研ぎは、姿勢が大事なんです。
なるべく大きくストロークするのが大事なんです。
今からやりますから、ちゃんと見て下さいね!」
と彼女が言って、腰を突き出し、前屈みになり、刃物を研ぎ始めた瞬間……
ピンクの着物の裾が、せり上がり、彼女の小さな尻を包む“それ”が露出した。
“それは”……
【白地にピンクの横ストライプ】だった。
その瞬間、全ての色は消失し、音は無くなり、万物は固定される。
俺の超感覚「パンツァー」が起動し時間が停止した。
カメラを構えたまま俺は呟いた。
「前と同じ柄か……。
悪くない。馴染みがあってホッとする。
しかし……もしかして、その柄……
何枚も持ってるのか?」
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