第6話夢 2日前の事
「はああああああっ、食った。食った。ちゃんとした食事で塩味が効いたものをたべるのなんて何か月ぶりだ?」
思わず指折り数える。
程よく酒が回り、心地よい。
城の中に用意された客室の寝床に倒れると、程よい柔らかさで跳ね返ってくる。
「高級品だな……」
ジャケットと帯、それにズボンを脱ぎ床に入る。気が付くとなんだか眠くなってきた。
まぁいいか寝ちまっても……
俺は意識を手放した。
………
……
…
「起きてください。起きてください……」
誰かに体を揺らされる。
「んっ……」
寝起きが良くない方である。と言う自覚はあるのだが、何時も以上に今日は目が覚めない。
俺は、目覚めの悪い理由に思いを馳せる……
昨日は元々。溜まった書類仕事を片付ける予定だったので、おてんば姫にお茶会に誘われた事で、予想以上に時間を取られてしまい。夜半まで書類仕事に追われていたせいで、睡眠が短いのだと理解する。
「どうぞお水です」
と言って従騎士の青年は、木製のコップに入った水を手渡す。
俺はソレを一口で飲み干し、寝台で目を覚ます。
「アイゼン。いつもすまんな……」
「いえ。騎士に仕えるのが半人前である私達の仕事です。朝食のお時間は過ぎておりますが、食堂に取り置いてもらっていますのでお早めにお召し上がりください」
「助かるよ……」
「では私は訓練に行って参ります」
そういうと従騎士は部屋を後にした。
「やれやれ、疲れがたまっているようだな……」
頭をポリポリとかくと、服を着替える。
洗濯されハンガーに掛けられた白シャツに袖を通し、ボタンを留め上からベストを着て、ループタイを締めズボンを履き替えて食堂に向かう。
古びた木製のテーブルの上に盆を置き木製の匙で、屑野菜と筋肉のスープを掬い硬く酸っぱいパンと口内で合わせて食べる。
「せめて少し塩効かせてほしいな……」
まだ家に金があった幼少期であれば、朝食でも川魚か塩付け肉が食べられたのだが、金のない俺は平民や領地の無い貴族と同じく、この営舎に棲んでおり同僚である領地持ちの騎士や領地持ちになった騎士からは、馬鹿にされている始末である。
俺の愚痴に気が付いたのか料理人の男がギロリと睨み付けてくる。
俺は愛想笑いを浮かべると、急いで不味いメシを掻き込んで皿を重ねて返却する。
料理人の男の背中が見える。
今のうちにサッと返して戻ろう、そうしよう……
と思っていると突然。
料理人が話しかけてきた。
「味が薄いって言うけどね……」
「はい?」
俺は想定外の事に言葉を返す。
しかし、料理人は続ける。
「さっき『せめて少し塩効かせてほしい』と騎士殿は言っているけどね。王都にいる貧民はもっと酷い状況に居るよ」
と聞いてもいないのに世情の事を話し始める。
小さく呟いたハズなのに、聞かれていたのか……
「王国は海にも面しているので塩を作る事は可能なハズです。輸送の船か馬車が滞っているのですか?」
「もちろん。それもあるとは思うけど実際は不当に近い値段の釣り上げを塩屋がやっているらしい……」
「あなたから料理長に伝え、料理長から侍従長など国王陛下に近い方に伝えていけばよいのでは?」
アンタの話を聞く積りはないという。意思表示を込めてコップに入った水を飲む。
「もうやったさ。役職持ちは塩屋からの賄賂で懐柔されてて話を聞いてもらえないんだ。かりにも領地持ちの御貴族様の子弟なんだから何とかならないか?」
「はぁ……」
と俺は短い溜息を吐く。
「料理人であるあなたにも分かり易く説明すると、領主貴族は領内では王のように振る舞う事が出来るが、王都では公侯伯子男の概ね五階級に分けられ、王に直接使える宮廷貴族と同じかそれより一つも二つも下の扱いを受けるんだ。
だから例え王都で悪政が蔓延っていようとも、他所の問題に斬り込めるのは王からの委任を受けた役人か王族ぐらいなんだよ」
「それじゃぁなんだい? 同じ国の国民であろうともお貴族様は助けてくれないって事かい?」
「ああ。今の俺にはどうする事も出来ない」
「薄情モノ!」
「と、言われても領地でもないのに貴族が強権を振るえば国が乱れる……まぁもう乱れているんだがな……」
「じゃぁ何かい? 斬首覚悟で直訴する方がマシって言うのかい?」
「そうは言っていないさ、まぁいい。今度貴人に合う事があれば伝えてみよう……」
数週間以内に姫のせいで移動する事になるだろうからな……
「お願いしますよ騎士殿……」
塩の価格の高騰ねぇ……どうにもきな臭い。軍事物資でもある塩の値上がりと、あのお転婆姫が一介の騎士である俺に接触してくる……もうすぐ戦争がある?
否、大規模な戦争ならば、実践を想定した訓練があってもおかしくないが未だにない。
ならば、資金を作りたい宮廷の一派が塩商人に圧をかけて金を作っている。と考えるのが妥当か……
決めつけるのはまだ早い。アイゼンに探らせてから姫に報告をすればいいか……
と算段を立てながら営舎の廊下を歩いていると……
「探しましたよ」
と言って一人の青年が駆け寄ってくる。
「騎士団長がお呼びですので出頭してください」
「じゃぁ今から行くよ」
「……分かりました」
と妙な間が空いたが団長の部屋に案内してくれるようだ。
はて、何かミスをしただろうか? 書類は提出期限ギリギリまでだしてはいないが呼び出しを受ける程ではないし、全く持って心当たりがない。
「呼びだしの要件は聞いているか?」
「いえ。私は伺っておりません騎士殿には心当たりがあるのでは?」
「それがさっぱり……」
そういうと俺は両手のひらを上に向けて、肩をすくめ『分からい』と言うポーズを取る。
「であれば、騎士団長どのから直接伺ってください」
「分かった。そうするよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます