10人暮らし
和希
第1話 悪夢の始まり
「じゃ、かんぱーい」
私達は友人の石原夢莉の別荘でパーティをしていた。
地元でもこの時期になると雪が積もる場所もある。
外は吹雪いていた。
一緒に来たのは彼氏の片桐結城と、石原夢莉と酒井俊樹、西松健介と桐谷音葉、渡辺正弥と栗林美玖、中島俊介と木元比瑪。
そして私、多田咲来の総勢10名。
皆が仕事の合間をぬって取った連休だった。
久々に集まるメンバーで盛り上がっている。
「この中で一番最初に結婚するのは誰だ?」
そんな話をしていた。
経済的に余裕がありそうな夢莉と俊樹か健介と音葉だと思っていた。
「無理無理。だって健介何も言ってくれないんだよ~」
音葉はそう言って笑って否定していた。
「じゃあ、言ったら結婚してくれるのか?」
「そういう予防線張るの止めて」
仲もよさそうなのにな。
「じゃあ、夢莉と俊樹は?」
「まあ……そういう話もしてるよ」
俊樹が言うと皆が「おお~」と盛り上がっていた。
「大体咲来だって結城とそういう関係になってもいいんじゃない?」
音葉が逆に返してきた。
「それなんだけどさ……」
え?
結城が耳打ちする。
「帰ったら話があるんだ……」
嘘でしょ?
様子を見ていたみんなが冷やかす。
「やっぱり咲来達が最初みたいだね」
私の返事も決まってるんでしょ?
そんな風に言われて思わず照れてしまう。
「じゃあ、今夜は咲来と結城の前祝だな」
まだプロポーズを受けていないのにそんな風に祝福されていた。
断るつもりはなかったけど、もう断れなくなってしまった。
パーティが終わると女性陣は片づけをして、男性陣は結城にしょうもないことを吹き込んでいる。
片付けが終わると別荘にある温泉に入る。
女性5人くらい余裕で入れる広さだった。
「どんな言葉を言われたのか聞かせてね」
音葉がそう言うと次々と質問が飛んできた。
すぐ子供を作るの?とか子供は何人くらい?とか。
「式場は私が手配してあげるけど、どこか希望する場所あるのか?」
夢莉が聞いてくる。
「まだ、気が早いよ。指輪すら受け取ってないんだよ?」
「そんなもんそこらへんに転がってるナットでもいいだろ」
どうせ、断るつもりはないんだろ?
まあ、その通りだけど。
風呂を出てリビングに行くとすでに温泉を出た男性陣が呑んでいたのでそれに混ざっていた。
するとなぜかかつてないまでの眠気に襲われる。
結城も同じみたいだ。
「悪い、俺達先に部屋で寝るわ」
「あ、俺達も眠いしそろそろお開きにするか」
それからどうやって部屋に戻ったのかも覚えていない。
そして朝になって頭痛と共に目が覚める。
「結城……おはよう」
隣で眠っていたはずの結城がいない。
トイレにでも行ったのだろうか?
とりあえず着替えてからリビングに向かう。
それに気づいた夢莉が私に向かって叫ぶ。
「咲来!まだ来るな!」
だけどそういわれると何があったのか気になるのが人間という物。
そしてそういう時に限って大体後悔する。
まだ悪い夢でも見ているんだと思いたかった。
これは夢だと思いたかった。
その場で膝が崩れるのを俊樹が支えてくれた。
「咲来しっかりしろ!」
嫌だ……
皆のドッキリだと言ってよ。
「何やってるんだ!?早く移動させろよ」
夢莉が言うけど私が夢莉を振りほどいて変わり果てた結城にしがみついた。
「嘘でしょ!目を覚ましてよ!まだちゃんと聞いてないんだよ!……結城!!」
だけど結城の背中には包丁が突き刺さっていて血が流れている。
結城に声をかけても一向に目を覚ます気配がない。
「咲来、落ち着いて!健介に確認してもらった。結城はもう……」
音葉がそう言って私を結城から引きはがす。
「そんなはずない!結城は帰ったら話を聞かせてくれるって!」
「落ち着け咲来!夢莉。とりあえず咲来を部屋に連れて行って」
俊樹が言うと夢莉と音葉に無理矢理部屋に連れていかれた。
「すぐに現実を受け止めろとは言わない。……でも乗り越えなくちゃ」
「ちょっと一人になって落ち着け。その間にこっちも状況を整理しておくから」
そう言って部屋を出る音葉と夢莉。
現実。
もう結城はいないという現実。
そんなのすぐに受け止められるはずがない。
2人とも自分の彼氏じゃないからそんな風に言えるんだ。
しばらく一人で泣いていた。
泣きつかれて寝ていた。
そして日が落ちる頃にお腹が空いて目が覚める。
不思議と頭の中は冷静だった。
リビングに行くと皆が私を見ていた。
「咲来。大丈夫?」
「ありがとう。少し落ち着いた」
結城の遺体は袋に入れられてリビングの隅に置かれていた。
健介から説明を受ける。
死因はやはり包丁の一撃による失血死。
ただ、普段の結城ならそんな状況になる筈がない。
それに誰がやったのか?
誰かが侵入してきた?
それは無いと状況が説明していた。
玄関の扉にいたが打ち付けられていて、開けることが出来ない。
それは外側からされていた。
誰がやったのかは分からない。
窓も全部塞がれている。
一つ窓を破壊して外に出たら車のタイヤが全てバーストしてあり移動も出来ない。
この雪の中歩いて移動できる場所なんてない。
電気が生きているのが奇跡だった。
なぜかスマホの電波が通じない。
もちろんネット回線も繋がらない。
外部と連絡する手段がない。
「……私達どうなるの?」
美玖が言う。
皆不安なんだ。
そう思うと不思議と落ち着いてきた。
「そんなに難しい問題じゃないよ」
私がそう言うと皆が私を見る。
犯人はどういうつもりか分からないけど私達を逃がすつもりはない。
どこに隠れているかも分からない。
だったら探し出して身柄を拘束するしかない。
行動範囲は限られているのはお互い同じ。
相手が何人いるのか分からないけど、私達も単独行動さえしなければいい。
「でも結城を殺すほどだよ?」
そんな芸当は夢莉や俊樹でも無理だという。
皆はまず夢莉や俊樹を疑っていた。
だけど誰もそんなことを口にしない。
疑い出したらキリがないから。
だから私も敢えて口にしなかった。
記憶が飛ぶほど飲んでない。
誰かが飲み物に薬を入れたに決まってる。
この中に犯人がいるとしたらそんな芸当が出来る人間は限られている。
医者である健介だ。
この際動機なんて関係ない。
関係なしにやる気になっているのだから。
「食事が終わったら皆部屋に戻って施錠を必ずして寝て」
「俊樹はどうするの?」
「僕はリビングで寝るよ」
各部屋に行くにはリビングを通る必要がある。
警戒してさえいれば絶対に見逃さない。
俊樹と夢莉はそういう訓練を受けている。
「夢莉は咲来の部屋で寝て」
「分かった」
今の私を一人に出来ない。
「大丈夫。明日になれば連絡がつかない僕達に親が気づくはず」
何かしらの行動をするだろう。
それまでの我慢だ。
また同じことを繰り返さないように今夜はアルコールは控えることにした。
「ごめん、咲来の気持ちが分かるとは思わないけど……でも今は」
「うん、悲しんでる余裕が無いことくらいは理解した」
今は生き残らなきゃ……
でもこれが悪夢の始まりだった。
10人暮らし 和希 @kadupom
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