醜い妖精と風の精霊

八神レイジ

episode1  捻くれ者と優しい子

昔々のお話しです。

これは、穢れた醜い妖精と美しく心優しき精霊の物語。

さぁ読んであげる。寝る前の特別な絵本を…


咆哮をあげる黒龍、抗う騎士、祈る姫。

そんな綺麗な物語はなく、あるのは、みっともなく歩くそんな一人の妖精の話。




「まだまだぁぁ」

ガンガァンと鳴り響く剣同士の音。

それを楽しそうに眺める母と娘、激しく戦い続ける父と息子。

父と息子は騎士であった、だからかどちらも母と娘にカッコいいところを見せたいと互いに譲らない戦いになる。


しかし…そんな幸せは長くは続かなかった。

突然現れた怪物。咆哮をあげる龍。人々の悲鳴。

騎士である父は人々を助ける義務があった…


泣き叫ぶ母、呼び止める娘。しかし父は…騎士は止まらなかった。


そうして、母は死に、娘は…妹は、消えてしまった。

そこから、間違いだと分かっていても俺は、父さんを恨まずにはいられなかった…


「ゴメンねぇ、こんな子見たことないわぁ。」

「そう、ですか…」

そこはかつて、永遠の繁栄を、と謳われていた王国キャメロットの跡地にある小さな村だった。

「あんた、なんのためにこんな所まで来たんだい?」


ふと、小さな音が聞こえた。

それはどんどん大きくなっていった。村の外から女性が逃げ込んできた。


「きゃあぁぁ、りゅ、龍よっ。な、なんでっ…」

「悪いな、ご婦人。あれは俺のせいだろう…」


あぁ、あれは俺のせいだ…この、身体は…


「ま、待って…ごめんなさい。さっきの話聞いてしまったの、多分だけど貴方妖精落ちしたんでしょう?」


最悪だ…あの話を聞かれるなんて…それに…


「だったらどうした?お前に関係はあるのか?」

「なら、私とチームを組んでっ!わ、私もちょっとした理由でチームが組めなくて…」


なら、あれを、龍を倒してからだ。そう言うと、

女は少し、ホッとしたように笑い、気を締めて龍のいる場所へと走っていった。


龍は、空を飛んでいたときよりも大きかった、翼は鉄よりも固く、普通の冒険者や、騎士には手に余る事だったろう。


「女、お前は何ができる?」

冒険者として必要なことは大体できる。そう言われ少し意外だった。

「なら、俺が前衛をする。お前は後衛としてカバーをしろ」

走り出す。一切の躊躇はいらない、急所である目を、翼を傷つける。避けきれないときは、女に任せて、また攻撃する。戦いの最中、大嫌いな紋章が出てきた。女は気づいていない、ならいいかと戦いを続けた。そんなことを続けていたらいつの間にか終わっていた。


女はそんなこと、気にしないとでも言うようにこちらへ近づいてきた。


「ねぇ、貴方聞きそびれていたけれど名前はなんて言うの?」


少し間を置いてしまう。

「イーゼル・デミッドそれが俺の名だ。次は、お前だ。」

「私?私の名前はユリア・ティーベル。よろしくねイーゼル!」

話をしている中でこいつは良いやつなのかもしれないと思うようになっていたことに気づき少し恥ずかしくなった…


これが物語の始まり。捻くれ者のイーゼルと心優しいユリアの話。

これから、彼らの旅は始まっていく。

今日のところはこれでおしまい。


さぁ寝ましょう?

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