第105話

「いのり、しばらくゆっくりしよう」

「……うん」


 後ろから背中に手と顔を当てた状態のまま2人で固まる。


 いのりの事を考えてみた。

 いのりは、学校の制度や、先生の体質、色々な問題に気づいていた。

 学校の生徒は手伝えばどんどん成長しようとする人だけではない。

 やる気のない生徒だっている。


 いのりはお願いされれば勉強も、訓練も出来るだけ教えてくれる。

 でも、頑張っても頑張っても自分の行動を変えない人間はいる。

 そう、ダイエットを勧められても中々始めない昔の俺のように。


 いのりから効率よく教えてもらって毎日の行動を見直さない人間もいる。

 でも、頑張るユイと一緒にハザマにいる時、いのりは嬉しそうだった。

 いのりは、助ける人を選んだ方が良い、そう思った。

 ユイやヒトミのように教えれば教えただけ成長し、感謝するような人間と相性が良い。


 でもずるい人間と一緒にいるとどんどん疲れていく。

 助けても助けても、他人にやってもらうだけで成長しない人間に、いのりは消耗していくように思った。


「いのりは、ユイや、ヒトミを助ける時は生き生きしていた」

「そんなに、生き生きしていたかしら?」

「うん、分かりやすく」

「そう、でも、2人は確かに、教えがいがあったわ。そうね、FIREして、時間を作るのも、悪くないかも」


 多分、いのりは自分がどうすれば気分が良くなるか、なんとなく道が見えている。

 FIREして時間を作る=自由にみんなを助ける時間が欲しい


 いのりは俺を明らかに贔屓していた。

 俺は召喚系で最初苦労した。

 いのりと同じ召喚系スキル。


 色々と思う事があったのかもしれない。

 いのりは俺を粘り強く助けてくれた。

 本当に感謝している。


 ……いのりに、魔石を食べて欲しい。

 ストックしてある魔石をどうするか決めていなかった。

 アシュラとの戦いを見ていて、魔石を多めに食べようかと考えた。

 でも、もっとシンプルに考えていいのかもしれない。


『プレゼントしたり、お金に換える分だけ使って後は全部自分で食べる』


 無くなったらまた集めればいい。


「いのり、魔石を受け取って欲しい」

「ダメよ。フトシ君が頑張って取った魔石よ。受け取れないわ」

「そっか、ユイもいのりも受け取ってくれない。じゃあ、いのりが食べて、その上でユイを助けて欲しい」


「あげる口実よね?」

「……」


 俺はいのりと向き合って土下座した。


「受け取ってください」

「駄目、気を使わなくていいのよ」


 俺はすっと起き上がった。

 いのりの手を両手で握る。


「受け取ってください」

「だ、ダメよ」


 アイテムボックスから魔石を取り出した。


「受け取ってください」


 魔石を先生の手に握らせた。


「フトシ君、近いわ」

「受け取ってください」

「ダメよ」


 俺は壁にいのりを追い詰めた。


 ドン!


「受け取ってくれますね?」

「……だ、ダメよ」


 行ける気がする。

 俺はいのりの口に魔石を入れるようとする。

 だがいのりは顔を背けて口を閉じた。

 俺は少し強引にいのりの口を開けて魔石を入れる。


「まっへ!まっへ、ひょっと、だめ」


 壁に追い詰めたまま魔石を口に入れていく。


「おひついへ、ふほひくん!」

「はあ、はあ、逃がさないから!」


 横に逃げようとするいのりの逃げ道を塞ぐ。

 ただ魔石を食べさせているだけなのに俺はスイッチが入ったようにいのりの口に魔石を入れていく。


 いのりの体温が上がっていく。


 いのりの唇が柔らかくてプルプルしている。


 興奮してしまう!


 いくつ魔石を口に入れたのか覚えていない、でも、止まらない!


「はあ、はあ、もう、ゆるし、むぐ!おふ!」

「はあ、はあ、ダメです、許しません。素直に受け取らないなら何度でも強引に口に入れます。いのりに助けてもらった恩は意地でも返しますから」


「多い、おおひ、おおい、からふぐ!」

「はあ、はあ、逃がさないから!」


 俺はスイッチが入ったように魔石を食べさせ続けた。



 ◇



 俺は土下座した。


「アマミヤ先生すいません。興奮して無理矢理食べさせてしまいました」

「フトシ君、助けたい気持ちはよく分かるのよ? でも、あれは、良くないわ」

「はい」


「もう、いくら魔石を食べたか覚えていないわ」

「はい」


 俺は土下座をキープした。


「スキルを覚えたのよ」

「良かったです」

「……もう、土下座をやめて」

「はい」


 俺はすっと起き上がった。


「今日は、調子に乗ってしまいました。帰ります!」


 俺はマンションを出た。



【いのり視点】


 私は火照った体を水のシャワーで冷ます。


『はあ、はあ、逃がさないから!』



 壁ドン


 フトシ君のあの顔


 いつもと違う強引なフトシ君


 まるでで抱き合うような密着


 フトシ君の指が、私の口に……


 また、体が熱くなって来た。


 冷たいシャワーで体を冷やす。

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