第91話

【ダンジョン省・会議室・ダンジョン省長官視点】


 フトシが学校に帰る前日の出来事。


「長官、またクレームです」

「分かっている。クレームの内容はまとめ終わったのか?」


「はい、意見をまとめますと、国は政治家だけを守っている。国民を守る気が無い。ダンジョン省の対応が遅い、もしくは間違っている。冒険者の逐次投入は失敗だった。そして少なくはありますが、ダンジョン省の冒険者試験制度がおかしい、逸材を逃しているとの意見も来ております」


「すでにクレーム対応だけで組織機能は麻痺しかけています!」


 私は1分ほど目をつぶった。


 そして開く。


「今は国民の目を逸らし、その隙に対策を練る」

「目を逸らす、ですか?」

「具体的にどのような方法でしょうか?」


「モンスター省には目立つ人材がいるだろう。自ら責任を取り、やる気のある美人官僚、氷月レイカがな」


「目立ちはしますが、そんな事で国民の目を逸らせるでしょうか?」

「まあ聞け。氷月から貰った報告書と提案がある。要約すると、オオタフトシのスキル検証をしたいそうだ。何かあれば自らの首を持って責任は取る、権限が欲しいとな。与えようではないか」


「で、ですが、もしそれで注目を集められたとしても、失敗したらモンスター省にまたクレームが来ます」

「クレームは来る、だが、責任は氷月だ。何を言われても氷月の配信チャンネルに言うよう伝えろ」


「待ってください。氷月の配信だけで国民の目をそこまで逸らせるとは思えません」

「最後まで聞いてくれ、もう1つ案がある。オオタフトシの冒険者試験、その動画データを見て欲しい」


「国民の目を他に向けさせるのと何の関係があるのか分かりません」

「……まずは見て説明を聞いてから言って欲しい」


 幹部はオオタフトシの試験動画を視聴した。

 その後はオオタフトシが砦のスキルを使う動画を視聴した。



「今特級冒険者のハザマ狩りはうまくいっていない。だが、オオタフトシなら、砦の能力によっては状況は大きく好転する可能性はあるとみている。うまくいくかどうかは分からないが、オオタフトシには初級を遥かに超える力があるように見える」


「た、確かに、強い力を持ちながら召喚系のユニークなスキルを持っている」


「1つ付け加えておく、氷月から見たオオタフトシの力は、キイロレンを超えているとの事だ」


 ざわざわざわざわ!


「うまくいくかどうかは分からないが、やってみる価値はあるだろう。ここから質問だ、他にいい案はあるか? 文句ではなく案を出してくれ! これよりいい案があるなら案のみを出してくれ!」


「「……」」

「決まりだな」


 これにより国民の目を逸らせるかどうかは分からない。

 だが、可能性があるならば、すべてやる。


 氷月の責任でな。

 


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