第69話

 俺は走った。

 攻撃を受けて血が足りない。


 でも、そんな事はどうでもいい。

 俺の通る信号機が青に変わっていく。

 今何時だ!?

 街にある時計を確認した。

 12時57分!

 試験は13時から、後3分か!


 疲れているのに不思議と足が前に進む。


 高校に入る前なら考えられないスピードで走る。

 街を歩く全員が俺を見た。

 迷惑だよな?

 でもそれでも試験に向かう!

 全力で走る!



 会場が遠い。


 街にある時計が目についた。


 12時59分!


 もう間に合わないのか!


 諦めない!

 

 あきらめるな!


 全力で走れ!


 街を抜けると一本道が長くなり走りやすくなった。

 山の上にあるグラウンドが試験会場だ。

 坂を走って登る。

 不安に駆られてスマホを取り出した。

 13時丁度!


 もう間に合わない!


 くそ!もう駄目なのか!


 ……いや、違う!


 まだまだあきらめるな! 

 

 間に合わないなら頭を下げる!

 土下座をするだけだ!

 必死で動けよ!

 出来る事を全部やれよ!


 まだあきらめない!

 まだ打てる手はある!

 諦めるなら最後までやってから諦めろよ!


 今は全力で走る!


 会場のグラウンドに時計があった。

 13時03分、完全に遅刻だ!


 初級の試験の為にグラウンドに人が並んでいる。


 ドドドドドドドドドドドドド!

 

 俺の走る音で全員が振り返った。 

 俺はフェンスをジャンプして飛び越え、グラウンドに着地した。


 ドウン!ズザアアアアアアアアアアアア!


「はあ、はあ、初級試験を受けに来ました!遅れましたが試験を受けさせてください!」




【ユイ視点】


 フトシと一緒に試験を受ける連絡を取ってあった。

 でも、先生と訓練をしてから会場に行くと連絡が帰って来た。

 フトシが来ない。


 グラウンドに並ぶと、物凄い勢いでフトシが走って来た。

 3メートルのフェンスを乗り越え、ありえない速さで走り、轟音を鳴らしながら着地してグラウンドに数メートルもの跡をつけて止まった。

 土埃が舞って煙が私達にかかった。


 服を見ると血で赤く染まっていて、頭からは血が流れて乾いた後のように見える。


 受験者がひそひそと話を始めた。


「はあ、はあ、初級試験を受けに来ました!遅れましたが試験を受けさせてください!お願いします!お願いします!」


 私は思わず前に出た。


「フトシ!その血は大丈夫なの!」

「俺は元気だ!元気に試験を受けて合格しなきゃいけないんだ!」


 意味が分からなかった。

 でもすごく真剣なのは伝わって来た。


 試験管の男がフトシに向かって小走りで近寄る。


「少し遅れたのいい。それよりもその血は何だ?命の危険があるのに試験を受けさせるわけには」

「俺は元気です!元気ですから!」

「わ、分かった分かった。だが、軽く脈と」

「俺元気ですから!!!」


「……い、いやいや」

「俺元気です!大丈夫です!超元気です!」

「わ、分かった。係に人に血を拭いてもらえ。試験の順番は最後に回す」


 血を拭いてもらいつつ健康状態を見る気なんだ。

 今日のフトシはいつもと違う。


 フトシは試験を後回しにしてもらって建物の中に入って行った。

 周りにいたみんながひそひそと話をする。


 みんなや、私の試験は順調に終わった。



 ◇



 少しすると、フトシが建物から出て来た。

 試験を受けに来た全員が残って見学する。


「今日のフトシはなんかおかしいよな?」

「ああ、切羽詰まっているあの感じは何なんだ?」

「フトシ君、なんか、疲れてるよね」

「凄く眠そう」


「見て、アマミヤ先生とヒトミが来たわ」

「でも、何か様子がおかしくない?」


 フトシがアマミヤ先生の方を向いた。


「俺元気ですから!俺元気で初級レベル5に合格しますから!」


 その瞬間にアマミヤ先生とヒトミは涙を流した。


 何?


 何があったの?

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