第65話

 魔石を食べるとヒトミが回復カードの束を渡して来た。


「受け取ってください」

「いや、それを借金の返済に使ってくれ」

「受け取ってください」


 ヒトミは俺の手を取って回復カードを握らせ、両手で包み込んだ。


「助かるけど……分かった。魔石と交換だ」

「いえ、プレゼントです。負けられません」

「俺も、ヒトミに負けないくらい頑張るぞ」


「……話が噛み合っていないな」

 

 アマミヤ先生が小さな声で言った。

 どういう事かは分からなかったが、やる気が出て来た。


「どんどん倒しますね」


 俺はハザマを発生させてハザマを侵食し消していった。

 ただロビーに座って作業をしているだけで魔石が集まっていく。


 ヒトミを見ると、金棒に魔力を流して剣に変えていた。

 更にアマミヤ先生はヒトミを回復させている。


 2人共魔力を消費して頑張っているけど、俺はほぼ座ってゲームをするようにタイミングを見てグレートオーガのハザマを侵食するだけだ。


「……俺は、ずるいな」

「ずるくはない。私のスキルだって回復スキルを一日に1回使うだけで生活にはに困らず生きていける。アオイだってもっと成長すれば一日に5分働くだけで余裕のある生活を送れるだろう。上に行けば誰だって楽になる。だが多くの人はその努力をする前に諦める。そこまで行く前に諦める。苦しい下積みを乗り越えたから今があるんだ」


「そう、かもしれませんね。地道にコツコツと続けていきます」

「それでいい。今日は休もう。明日は試験だ」

「明日の午前中もここに来たいです」

「分かった。だが、明日は軽く済ませよう。今日はゆっくり休むんだ」

「私もお供します!」


 先生が俺の頭を撫でた。

 俺は、明日の試験にこだわりすぎていたのかもしれない。

 アマミヤ先生と話をして、自分が目先の事だけを見すぎている気になった。

 気持ちが変わって来たのだ。

 今日は帰ろう。

 でも、明日は、明日も多めにモンスターを狩ろう。

 試験は何度もある。


「それでは解散だ。オオタ、アオイ、今日はゆっくり休んでくれ」

「「はい!」」


 2人を送ってその日は解散した。



 ◇



【次の日】


 3人で山に集まり砦に入った。


 光度が低いグレートオーガのハザマを侵食しようとした。

 おかしい、浸食があまりにも遅い。

 ……そうか、俺は先生の色気でたるんでいる。

 ヒトミの胸が頭によぎってしまう。


 色々ありすぎた?

 だから手を抜いても仕方がない?


 違う、違う違う違う!

 本気でやれよ!俺!

 全力で取り組めよ!

 俺は強引に力技でハザマを侵食した。


「え!」


 先生が俺の肩に手を置いた。 

 その手は震えていた。


 浸食したハザマからグレートオーガのキング・クイーン・4騎士がすべて揃って出て来た。

 更に大量のグレートオーガも出て来た。

 第一階層にモンスターが溢れた。

 まずい!


 完全に砦が破壊されたらどうなる?

 砦を消したらどうなる?

 外の世界にモンスターが溢れる!


 逃げられない。

 キングと4騎士が雄たけびを上げると先生とヒトミは小さく声をあげた。

 グレートオーガのキングと4騎士、そしてクイーンが並ぶ姿に恐怖を感じた。


 第二階層・矢の道に4騎士とグレートオーガがなだれ込んできた。

 その少し後ろからキングがグレートオーガを、4騎士を強化しながら進軍して来た!


 最悪だ!

 キングの強化、統率能力を得た4騎士がパーティーを組んだように先行する!

 お互いの強みを生かし合って脅威度が跳ね上がっている。


 更にクイーンは第二階層に入ってこない。

 キングとビショップの力で第二階層はほぼ無傷で突破される!


 俺は魔法陣に乗った。

 汗が噴き出す。


 俺は、ワープしてすぐに2人が入ってくれないように魔法陣を消した。

 2人を危険に晒す訳には行かない。 

 負けは、2人の死に繋がる。

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