第62話

「どんなスキルですか?」

「きゅう、回復!」


 きゅうが俺に乗った。

 俺ときゅうの体が輝いて心地よい気分に包まれた。


「回復スキルだ。多分、傷が回復する」

「レアじゃないですか」


 傷を回復できるスキルはレアだ。

 持っていれば生活に困らない。


「ああ、オオタ、ありがとう」


 先生が俺にぎゅっと抱き着いた。

 凄く柔らかい。

 いい匂いがするし先生が暖かい。

 

 少し悪いことをしている気分になった。

 でも、ここは密室。

 誰かにばれる事は無い。

 俺は先生の抱擁を受け入れ続けた。



「すまないな。感動してしまった」


 アマミヤ先生は大変だったんだろうな。

 モンスターを倒せるスキルを持たず、手に入れた能力は治癒力アップだけ。

 何度も傷を受けて、何度も戦って、治癒力が高い以外何も頼れずに努力してきたんだろう。

 傷の治りが早いから、人より多く戦えたんだろう。

 でも、他の人より結果は中々伸びていかない。


 才能のある他の冒険者に比べて魔石を中々集められず、地道にコツコツやってやっと中級になったんだろうな。

 中級に昇格するまで頑張ってもスキルが伸びない。

 不利な状態でそこまで努力し続けるのはどんなに大変だろう?

 先生が言った『感動してしまった』の意味はかなり重い。


 それに比べて俺は最初からシャドーランサーが使えた。

 俺は、恵まれていたんだな。


 俺は先生の頭を撫でた。


「はう!」

「あ、すいません」

「い、いや、いい、私を励ましたかったんだろう?」

「無意識でした」


「……」

「……」


「……さて、次は私の出番だ。ボスを倒してハザマを消そう」

「それなんですが、俺にやらせてください」


 そう言って砦を消し、走りながら金棒を取り出した。

 モンスターの拠点にある木の門を叩いた。


 ベキバキバッキャ!

 門を壊して中に進み、1本角のオーガを1撃で倒した。

 先生は俺を追うように追いかけて来た。


「は、早い!それに、そうか、オーガの魔石をたくさん食べて力をアップさせたか」

「はい、もっとオーガを狩りたいです」

「だが、オーガのハザマを消しすぎると、恐らくオーガのハザマが各地で消える」


「い、いやいや。俺如きが消した程度で消えないですよ」

「確かに検証は困難だ。だが、オオタがゴブリンのハザマとオーガのハザマを出せるようになってからハザマが消えだした。違うか?」

「そ、そうですけど」


「いや、責める気も上に報告する気も無い。……次はグレートオーガのハザマに行ってみないか?」

「先生と2人なら心強いです」

「いや、私はそこまで役に立たないだろう。オオタの方が私より強い。私は中級レベル3だ」

「強いじゃないですか。俺は初級レベル1ですよ」


「試験を受ければすぐに私を追い越す。オオタなら大丈夫だろう」

「い、いやいやいやいや」

「大丈夫だ、自信を持ってくれ」

「俺初級レベル1ですよ!?」


「試しにグレートオーガのハザマを出してみて欲しい。自信を持ってほしいんだ」

「ダメだったら逃げる、ですね?」

「そうだ」


「分かりました。行きましょう」


 2人でグレートオーガのハザマに入り砦を発動させた。


「見ろ、グレートオーガ4体が矢の道に入ってきて倒れていく」

「……ですね。思ったより砦が強い」

「1本角のグレートオーガも砦スキル無しで倒せるはずだ」

「やってみます」


 グレートオーガの拠点に乗り込むと1本角を余裕で倒す事が出来た。

 ハザマが消えていく。

 思ったより弱い。

 ゴブリン、オーガ、グレートオーガと段々難易度が下がっている気がする。


 山に戻ると先生が俺を見つめた。


「オオタ、ハザマ施設での戦いは後に回してここで毎日訓練をしないか?」

「毎日というのは、休みの日もですか?」

「そうだ」

「やります!!」


 アマミヤ先生と休日の個別指導だと!

 思春期の妄想が止まらない!

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