第60話

 一緒に先生の住むマンションに歩いた。

 数年前に出来た新築のワンルームマンションか。

 いつも通るたびに部屋が気になっていた。


「ここって、俺の家と距離が近いですね」

「そうだな、汚い部屋だがゆっくりしていってくれ」


 先生の部屋が汚いイメージはない。

 でも、意外と汚いとかあるのか? 

 酒瓶が転がってたりとか?


「入ってくれ」

「お邪魔します」


 中に入ると部屋がすっきりしていてきれいだ。

 無駄なものが無く、ほこりも無いからそう見えるのか。

 でも、下着が干しっぱなしになっていた。

 下着に目が行ってしまう。


「すまないな。だらしない生活でどうも下着を畳むのが面倒でな」


 先生は下着を回収してクローゼットに入れるが、クローゼットもすっきりしており余白がある。

 面倒というより、合理的な感じがする。

 干したらそのままにして下着を取って着替える感じなのだろう。

 先生の顔が赤くて可愛い。


 先生が電気ケトルのスイッチを入れ、ハンドドリップのコーヒーとクッキーを出してくれた。


「少し暑いな。シャワーを浴びてもいいか?」

「い、いいですよ」

「少しだけ時間を取らせる。すまないな」


 先生がシャワールームに入って行った。


 服を脱ぐときの布の擦れる音と、シャワーの音が聞こえる。

 コーヒーを飲む手が震えた。



 シャワーが終わるとアマミヤ先生はハンドタオルだけで体を隠して出て来た。


「す、すまない。下着をクローゼットに入れてしまった。向こうを向いて欲しい」

「は、はい!」


 すっと窓の方に向きを変えて正座した。

 窓に反射して先生の姿がうっすらと見える。

 更に下着を着用する音が聞こえ心臓の高鳴りで汗がダラダラと流れた。


「いいぞ」


 振り返ると先生は戦闘用の刀装備に着替えていた。

 ダイバースーツのような体のラインが見える装備に妄想が膨らむ。


「迷惑をかけました」

「いや、いつものだらしなさが表に出ただけだ。謝らないでくれ」

「あの、提案ですが、今日は山でハザマを出して砦のスキルを検証しませんか?」


 俺は山の方を指差しながら言った。


「そうだな。学校前の施設より山の方が近い」

「今回だけはオーガのハザマを出しますね」

「今回だけは、仕方ないか」

「カップを洗ってから行きますね」


「私が洗う。そのままでいい」

「そうはいきません。先生の大事なカップをすぐに洗わねば!」


「大丈夫だ」

「いいですって」


 ぐるん!


 俺があまりにも強くカップを引っ張った為、先生の体が俺に引き寄せられた。

 先生が俺に乗り、お互いの唇が偶然重なる。


「……ん」

「……ふぁ!」


「すいません」


 俺は先生の体を持って退けるが、丁度先生のお尻の部分を持ってしまう。


「ふ!」

「あ、すいません」

「いや、事故だった」

「そう、事故、何もありませんでした」

「そう、だな、何も無かった」


「や、山に行きましょう」

「……行こうか」


 俺と先生は何も無かった事にして山に向かった。

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