第59話

 レンのお見舞いに行くとユイが泣きながらお礼を言った。

 回復カードは役に立ったようだ。

 だが、次の日に色々な人から話を聞き、回復カードが足りなかった事を知った。


 俺はすぐにヒトミに魔石を渡して回復カードを作って貰いユイに渡すと今度は感謝されつつまた泣かれた。


 この事はすぐに噂になって尾びれ背びれがついた。


『フトシは財産を使い切ってユイに回復カードを渡した』

『フトシは借金を負って回復カードをユイに渡した』

『借金返済の為にアマミヤ先生と中級ハザマに毎日通う事になった』

『オオタは借金を負う事で自らを修羅に追い込んでいる』


 んなわけがない。

 借金なんてない。 

 昨日はクラスメートが俺の肩を叩いて『応援してるぜ!お前は本当に凄いと思う』と言われ拍手が巻き起こった。

 違うんだって!


 何日か経過し、放課後になると教室に1人座った。

 スマホで時間を見つめ続ける。

 時間が来ると俺のスキルに変化があった。

 

『マイルームの進化が完了しました』


 遂に来た!

 待ちに待ったぜ!

 うえーい!


『マイルームが砦に進化しました』

「ん?」


『解放する階層を選択してください』

「ん?」


・矢の道

・シャドーの闘技場

・門の部屋

・テスラゴーレムの闘技場

・プライベートルーム

・ハザマの部屋



 ……待て待て待て待て!

 階層を選ぶのか!

 明らかにスキルの質が変わっている。


 アマミヤ先生が教室に入って来た。

 

「オオタ、どうした?」

「スキルが進化しました。一緒にハザマに行くお願いをしていましたが、スキルを選択する部分があって迷っています」

「後悔の無いように悩んで選べ」


 一見クールに聞こえるが、先生はいつまででも待ってくれるだろう。

 優しいな。


「慎重に選びます」


 集中して考える。


 矢の道は良さげだ。

 なんだかんだで今までアローのスキルに助けられてきた。

 矢が出る道……強そうだ。

 でも、シャドーの闘技場も強そうだ。

 闘技場ってなんか強そうに感じる。

 


 門の部屋は防衛施設なのかプライベートルームの1部なのかも不明だし後回しだな。


 テスラゴーレムの闘技場も強そうだ。

 言葉の全部が強く感じる。


 プライベートルームはそのままだとして、ハザマの部屋は……なんだ?

 意味不明だ。


 矢の道か、シャドーの闘技場にしよう。

 2つが強そうな気がする。

 直感で決めるしかないな。


 進化前はシャドーランサーがやられると復活まで1日かかった。

 でも、アローは無尽蔵に使えた。

 スキルが進化しても同じになるとは限らない。

 でも、矢の道は消費が無い気がする。

 俺は矢の道を選択した。


『2つ目の階層を選択してください』


 なん、だと!

 選べるのかよ!

 今までの時間を返して!

 ぷんぷんぷん!

 でも2つ選べるのはお得だ。

 あれか、グレートオーガの魔石をたくさん食べたのが良かったのか?

 次はシャドーの闘技場だ。


『3つ目の階層を選択してください』


 え?ちょちょちょちょ!

 何個選べるの!

 全部選べるとか無いよな?

 次はテスラゴーレムの闘技場だ。


 ……よし、進化完了、選んだのは3つ。

 階層ごとの並び替えも出来るか。


 第一階層は矢の道

 第二階層はシャドーの訓練場

 第三階層はテスラゴーレムの闘技場にしよう。

 よし、終わった。


 気が付くとアマミヤ先生が俺の顔を見てにこにこと笑っていた。

 

「一人で時間を使ってしまってすいません」

「いや、表情がころころと変わって微笑ましい」


 先生の笑顔がとてもきれいで見とれてしまう。


「お待たせしました。スキルを決めました」

「見学出来るか?」

「いいですね!行きましょう!砦!」


 教室内に魔法陣が発生した。

 砦の魔法陣を出した後、先生はハザマで試すつもりだった事に気づいた。


「さあ、行こう」

「はい」


 俺は、先生に気を使われているな。

 先生から見たら俺は新しいおもちゃを買って貰ってすぐに箱から出そうとする子供のように見えるんだろう。


「入り口にワープしてモンスターになったつもりで歩いてみましょう」

「そうだな」


 よく考えたら2人きりか。

 密室で二人だけ。

 な、何も起きないよな?

 2人でワープした。


「ここは第一階層、矢の道です」


 10メートルの横幅、10メートルの高さで直線の道が1キロ続いている。

 1キロは長い気もするが冒険者が本気で走ればあっという間だ。


「矢で攻撃出来るのか?」

「出来ますよ」


 俺は矢を使った。



 ◇



「これは強そうだな」

「ですよね。この1キロの道を進むと次の階層です」


 2人で走ってゴールの魔法陣を目指す。


 ワープ魔法陣の前で止まるとアマミヤ先生とぶつかった。

 奇跡的なタイミングで俺は先生に馬乗りになり手が胸に当たっていた。


「す、すいません。魔法陣の中に入ってから止まれば良かったです」

「いや、私も早く走りすぎた。もっと距離を取っておくべきだった。」

「次からは気をつけます」

「ああ、それよりも」

「あ、すいません」


 俺は手を放して立ち上がった。


「2人で中に入りましょう」


 2人で第二階層にワープした。


「ここはシャドーの闘技場です」

「まるでコロシアムのようだ」

「ゲーム脳の影響かもです」

「ちゃんと客席もあるんだな」

「ですね。早速力を試してみます」



 ◇



「なるほど、シャドーランサーの時と能力が変化しているな」

「ええ、早く戦ってみたいです」


 そう言って2人で第三階層の魔法陣に乗った。


「第三階層はテスラゴーレムの闘技場です。第二階層と景色は似てますね」

「かなり期待できそうだ」

「でも、ここまでで階層は終わりです」

「観客席に座ってもいいか?」


「いいですよ」

 

 2人で闘技場の客席に座った。


「岩の椅子がひんやりしていて気持ちいいな」


 アマミヤ先生が横になって椅子に顔をつける。

 

「パ、パンツが見えます!」

「ああ、すまない」


 無意識に横になる時は大体疲れているか眠い時だ。

 でもパンツが見れるのは良き!


「先生、疲れてますよね?もしあれなら、明日以降付き添いをお願いしますよ?」

「いや、大丈夫だ」

「砦を、解除しますね」


 アマミヤ先生はすっと起き上がって身なりを整えた。


 教室に戻ると先生の顔がキリっとした。

 教師のキャラは大変だな。


「装備を忘れて来てしまった」

「付き添いは明日にしましょう」

「オオタは1人でハザマに行くだろう?スキルが新しくなれば予測できない問題が出てくるかもしれない。一旦家に行こう」


「家って先生の家ですか?」

「ワンルームの狭い部屋だが、コーヒーくらいは出せる」


 いや、そういう事じゃない。

 先生の部屋に俺1人で入る!


 待て待て!落ち着け俺!

 俺が意識し過ぎているだけだろう。

 気にし過ぎだ、俺!

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