第57話
フトシがマイルームの進化を開始して9日後の話になる。
【ツムギゴウタ視点】
ユイは帰って来て料理を作ると、さっきからうっとりと回復カードを見つめている。
フトシに貰った物だろう。
ユイの顔を見てすぐ分かったがそれを言えば恥ずかしがって機嫌が悪くなる。
黙っていよう。
ユイがフトシに気がある事は前から知っていた。
だがユイは奥手な所がある。
フトシがいい意味でもっと空気を読まなければよかったがフトシは意外と気を使う。
このままでは進展がないだろう。
「いただきます」
「あ、いただきます」
「……ユイ、フトシの家にいた誰だったか?同棲していた子は寮に戻れたんだろ?」
「ヒトミね」
「ヒトミか、フトシの家には部屋が十分に余っていると、実は相談があってな」
「うん」
「俺は国が用意したワンルームのアパートに引っ越したい。ユイはフトシの家に住んで欲しい」
「……え?」
同棲とは言わない。
あくまで原因は俺にする。
俺の経済的な事情でそっちの方が良いと、言い訳を作って俺のせいにする。
「今アパートが空いていて使えば家賃がタダになる。俺が働いているハザマ施設の状況は分かるな?」
「お父さんのやっている初級ハザマ施設以外の所はゴブリンのハザマが消えちゃってどんどんお店を閉めちゃってるよね?」
「そうだ、ゴブリンのハザマが前より貴重になった。ドロップ率アップの効果とゴブリンのハザマが激減した事でゴブリンのドロップ品は値段が高騰した、いや、今も高騰している。運よく俺が管理しているハザマにはゴブリンのハザマが復活した。今じゃゴブリンのハザマも予約待ちだ」
「忙しくなったんだよね?」
「そうだ、毎日12時間から15時間働ける。忙しいんだ。正直このままだと俺は帰れない日も出てくるだろう」
「うん」
「だがユイがフトシの家に住めればこの高いマンションを解約して支出を減らせる。国が用意したワンルームのアパートはただのように借りられる」
「でも、迷惑にならないかな?」
「逆に聞くが、迷惑にならないなら住んでいいのか?」
「迷惑にならないなら、いいけど」
「分かった」
俺はスマホを取り出した。
「フトシ、10分いいか?実はな……」
俺は事情を説明した。
ユイが俺の言葉に耳を傾けている。
『ユイと一緒に住んでもいいんですか?』
「一緒に住んでいいんですかって?」
俺はユイに聞こえるように言った。
「いいに決まっているだろ。逆に俺の都合だ。俺としては月にたった5万を払うだけで家計の支出が今より10万以上プラスになる。俺の都合で悪いが、今の内に稼いでおきたい。フトシが問題無いなら父さんか母さんに変わってくれ」
『分かりました。すぐに父さんに変わります』
「もしもし、実は……」
もう一度説明するとあっさりユイの同棲が決まった。
ユイは押しに弱い。
この手で行けばフトシと結婚する事が出来るかもしれない。
ライバルはいるが、それでもユイには出来る限りの事をしてやりたい。
「よし、今日からで良いらしい。今日フトシの家に荷物を運びこむか」
「ちょ、ちょっと待って、髪を切って、それから、いらない物は捨てて、後は」
予想通りだ。
最初に無理な提案を出す。
次に妥協案を提示すればまず断られない。
引っ越しをしない意見を潰している事になるがユイは余裕が無いだろう。
「今が無理なら一週間後ならどうだ?今か一週間後、どっちがいい?」
「一週間後にする」
引っ越し確定だ。
うまくいけば、早めに孫の顔が見られる。
ライバルはアマミヤ先生とヒトミか。
うまくやれよ、ユイ。
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