第16話

【紬剛太視点】


 フトシが夕方だけじゃなく朝も毎日ここに来るようになった。

 夏休みは昼前まで寝ているような性格だと思っていたが何かが変わったのか?


 自転車を使わず走ってくるようになった。

 家からここまで5キロ、2往復と考えれば毎日20キロも走っている事になる。

 ユイから体重が90キロを切ったと聞いたがそこからまた痩せている。

 その上でハザマで戦っている。

 明らかに動き過ぎだ。


 体重が急に減り始めた。

 あの減り方は異常だ。

 ……フトシ、大丈夫か?


 入っていいと言ったゴブリンのハザマに1人で入っていた。

 毎回入れるハザマには全部入っていく。

 どれだけ連戦してるんだ?

 フトシが帰った後、フトシが入ったハザマに入ってみるとモンスターが居なくなっていた。


 少し心配になったが、今の流れを邪魔したくはない。

 なんせフトシは難しいお年頃だ。

 見守るべきか、声をかけるべきか迷う所だったが、俺は黙って見守る事にした。



 2日もすると、ハザマに入ってすぐに出てくるようになり、それを何度も繰り返すようになった。

 フトシの顔が暗い。


 何か悩みがあるのだろう。

 俺はフトシに話しかける事にした。


「よう、フトシ、元気にしてるか?」

「ええ、体が軽いです」

「お前痩せたな」

「いえ、まだまだです」

「……お前、変わったな」


 少し前のフトシなら「過去一番頑張ってますよ」と言いそうだが、今はその逆だ。

 いつもの大げさ発言が無くなった。


「さっきからハザマに入っては出て、暗い顔をしているように見えたが何かあったか?」

「……もう、モンスターが居なくなってきました」


「ちょっと待っていてくれ」


 俺はフトシが入った後のハザマに入った。

 モンスターが居ない!


 次も、その次も、フトシに入っていいと言った15のハザマ全部に1体もモンスターが居なかった。

 俺はハザマから出た。


「フトシ、まだまだ戦えるか?」

「はい、戦いたいです」


「次はもっと光度が高いゴブリンのハザマに行ってみないか?」


 同じゴブリンのハザマでも入り口の輝き方でモンスターの規模が変わって来る。

 光が強いハザマはモンスターの最大出現数が多いのだ。


 今までは多くて25から30体のモンスターしか出てこないハザマにしか許可を出さなかった。

 だが今のフトシなら次に行けるかもしれない。


 そう思えたのはフトシの目だ。

 今までは頼りなく見えたが、今は戦士の目になっている。


「行きます!」

「決まりだな。最初は俺も付き添うぜ」

「よろしくお願いします」


 フトシは速足でハザマの魔法陣に乗った。

 その後ろ姿を見て気づいた。


 背が伸びて、筋肉質になっている。

 間違いない、フトシは変わった。

 変化している。

 いや、今もなお変わろうとしている。


 俺は高揚感を抑えきれず小走りで魔法陣に乗った。


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