そうするつもりの、水袋
再び魔法道具を構える。
青白い光が生まれ、炸裂した。
先ほどよりも多くの風の塊が、光の中から弾きだされた。
「使い切るまで撃ちますよ」
「おう、やれ!」
ブラムの了解を得て、ライラは魔法道具から風を乱発させた。
瞬間。
光と轟音が、森を抉るように駆け抜けた。
一匹のクアンロウが、風に吹き飛ばされていくのが見える。
しかし見えたのはそれだけだった。
「うわああああ!!」
ライラは思わず声をあげた。
魔法の反動が大きすぎて、凄まじい速度でブラムが吹き飛ばされたからだ。
「うるせえ! 黙ってろ!!」
「無理ですううう!!」
ブラムに怒鳴られても、ライラは叫びつづけた。
あまりに恐ろしくて、目も瞑れない。
瞑れば、音や衝撃に敏感になりすぎて、気が変になりそうな気がした。
狂ったように叫ぶライラに、ブラムが顔をしかめる。
仕方なしと、ブラムはいくつかの木々を蹴り飛ばし、強引に身体の向きを変えた。
そうやってようやく、正面を向いて吹き飛ばされつづけた。
ところが、それがかえってライラの恐怖を煽った。
強引に向きを変えたことによる振動で、乗り物酔いのような感覚がライラを襲った。
「……き、気持ち悪……」
「お、おい、吐くなよ!?」
青ざめるライラに、ブラムが慌てだす。
しばらくして、ブラムとライラはなんとか地面に着地した。
長く息を吐くブラム。滝のような汗を流している。
ライラは震える手で治療用の魔法道具をかざした。
「悪いな」
「……この道具が、乗り物酔いにも効けばいいのに」
「はは。そんなもんより、もっと効くやつがあるぜ」
ブラムがにやりと笑い、自らの腰に下げた獣の水袋を開けた。
それを飲むのかと思いきや、ブラムは頭から水を被った。
当然その水は、ブラムに背負われていたライラにもかかった。
「ちょ、っと!!」
「はは! どうだ、酔いも醒めただろ!?」
「びしょびしょですよ、もう」
ライラは頬を膨らませつつも、治療用の魔法道具をかざしつづける。
温かな光が、水を被ったブラムをじわりと照らした。
ライラは一度、後方をふり返った。
追いかけてきているはずのクアンロウの姿は、まだ見えない。
ほっと息を吐き、ライラは自らの腰に下げてある水袋を取った。
栓を開けて、ブラムの口元に当てる。
「飲んでおいてください」
「そいつはお前のだろ」
「私は疲れてないから平気。それに今飲んだら、私、吐いちゃうので」
「っは。そりゃあ飲ませられねえな。俺が貰っておいてやらあ」
ブラムが笑って、ライラの水袋を受け取る。
今度は頭から被ったりはせず、ゆっくりと、すべて飲み干した。
空になった水袋は、ライラに返さず、自らの腰に下げた。
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