贅沢と頼み事


「おう、また買いに来たのかい?」



威勢のいい声が、ライラとブラムを出迎えた。

ふたりは石琴を作る工場を再び訪れていた。

オルゴール用の石琴を作ってもらうためだ。



「出来る限り、手前側が綺麗に揃えられた石琴を作ってほしいのです」


「へえ、そいつはまあ、出来ねえこともねえな」


「それと、出来るだけ石をたくさん並べて、音域を広くして、でもあまり石琴の幅が広くならないようにしてもらえますか?」


「そいつあ面倒なことだな。石もその辺りに転がってる石ころじゃねえからよ。金がかかるぜ」


「お金の心配はいりません」



ライラは微笑んで見せる。

次いで、いくらでも払いますと言い加えた。



「はっは、それなら仕方ねえ。いっちょ任せてもらおうじゃねえか」


「ありがとうございます。あと、他にもお願いが」


「まだあるのかい??」



職人が驚き、目を丸くする。

ライラは職人の傍へ行き、持ってきていた紙を見せた。

紙には職人に頼みたいことが箇条書きで記されていた。

その内容に、職人が首を傾げる。



「……期待に添えるかは分からねえぜ?」


「気長に待ちます」


「なら仕方ねえな。……だが、最後のそれは俺には分からねえ。街の中央で尋ねたほうがいいと思うがね」


「それはそうかも。そうしてみます」



ライラは頷き、職人に深々と頭を下げる。

その様子を見ていたブラムが、不思議そうにしてライラの顔を覗き込んだ。



「何を頼んでたんだ?」


「んー……この先の話です」


「この先だあ? また無駄遣いしようってんじゃねえだろうな」



ブラムが顔をしかめた。

いくらでもお金が出せると分かっていても、ブラムはやはり真面目だ。

贅沢は許しても、お金を捨てるようなことは許してくれない。

面倒だなと心の隅で思ったが、ライラは我慢した。

こうした常識を時々押し付けてくれるおかげで、ライラのタガが外れずに済んでいるのだ。



「無駄遣いにならないようにしますから、安心してください」


「それならいいがよ」


「上手くいけば、私たちの生活がちょっと良くなるかも?」


「やっぱり贅沢品じゃねえか」


「ええー……違うのにい」



ブラムの呆れ顔に、ライラは口を尖らせる。

するとブラムが苦笑いし、ライラの背をとんと叩いた。

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