ふたり


用水路の水位が下がったのか。

コウランの家の水車が、ほとんど回らず、奇妙な音がひびかせていた。


馬車をコウランの家の前につける。

気付いたコウランが、水車の裏から顔を覗かせた。



「や、やあ。い、いらっしゃい」



額に汗しているコウラン。

どうやら水車を修理しているらしい。

近寄って見ると、水車の手前で水が堰き止められていた。



「調子が悪いのですか?」


「そ、そうなんだ。なんだか妙な音が鳴っていてね。でも大丈夫。もう直るよ」



そう言ったコウランが、水車を木槌で叩く。

何をどう直しているのか。ライラにはまったく分からなかった。

しかしブラムには分かったらしい。

コウランの傍へ駆け寄り、修理を手伝いはじめた。


ライラはしばらく、ふたりの様子を眺めていた。

なにひとつ手伝えることがないからである。



「こういう時って、ライラの無能さを実感するよねえ」



ペノが良い機会とばかりに揶揄いはじめた。

ライラは返す言葉がない。

むしろ揶揄われなくとも、自らの無能を強く自覚している。



「ブラムの行動力が羨ましいです」


「まあね。分からなくても、出来なくても、とりあえず行くところがあるよね」


「それで空回りもしますけどね」


「たしかにとんでもない目に遭ったことはあるねえ」



ペノがライラを見て、両耳を揺らす。

ライラは昔を思い出し、小さく笑った。


しばらくして、ブラムとコウランがライラのところへ来た。

水車の修理が終わったらしい。

いつの間にか用水路に水が流れていた。

水車も静かに回っている。



「うちの邸宅にも水車を取り付けてみたいですね」



ライラは水車を眺めて言った。

水の流れる音と、木の軋む音。

なんとも言えない、癒し効果がある。



「何のために使うんだよ」


「見た目とか、気分とか」


「そんなことのために水路まで引く気かよ。絶対やらせねえからな」


「ケチだなあ」


「うるせえ、馬鹿」


「馬鹿って言わないで」


「……はは、ふたりは仲が良いね」


「良くないです」「良いわけねえだろ」



言葉を挟んだコウランを、ライラとブラムが睨みつける。

その勢いにコウランが半歩退いた。

苦笑いし、「やっぱり仲が良さそうだ」と言い加える。

苛立ったブラムが、コウランの額を指で弾いた。

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