少女たちのティータイム

昼食後。

両手いっぱいの荷物を抱え、アテンが帰ってきた。


アテンは背の高い女性であった。

見た目は三十代中頃で、やや太っている。

性格は豪放で、声も大きい。



「今帰りましたよー!」



アテンの大きな声が、邸宅内にひびきわたった。

ライラは玄関まで出て行って、アテンの荷物を受け取ろうとする。



「ライラ様には持てませんよ、これは重いですから」


「じゃあ、お菓子の袋を貰います」


「あらやだ。グナイが言ったのね。まあったく、せっかく内緒にしていたのに」


「ほらほら、早くお菓子を頂戴」


「はいはい。これですよっと」



アテンが大きな籠の中から、小さな籠を取りだす。

籠には布がかけられていて、中が見えないようになっていた。

しかし顔を近付けると、甘い香りがライラの鼻をくすぐる。

果実のような香りに、ライラはぱっと表情を明るくさせた。


アテンが買ってきた菓子は、焼いた果物を甘いパイ生地で挟んだものであった。

グナイが淹れた香茶を合わせると、絶妙に合う。

一口二口食べて、ライラはふと、アップルパイを思い出した。

比べれば全然違うかもしれないが、十分に美味しい。



「アテン。これは帰りに幾つ食べたの?」


「三つです、ライラ様。どうしようもなくって」


「他の果物を挟んだものもあったのでしょう? それは食べたの?」


「いいえ、ライラ様。そっちは今度、ふたりで行きませんか?」


「いいですね。行きましょう。グナイとブラムは、もう十分みたいですからね」


「男どもには分からないんです、この美味しさが」



アテンがグナイとブラムを見て笑う。

ふたりは甘いものが嫌いというわけではなかったが、お気に召さなかったらしい。

グナイに至っては、顔をしかめ「もう二度と食べない」と言った表情だ。



「果実は、火を通さないほうがいいと思うんですがねえ」


「火を通したほうが甘くなるのに?」


「甘けりゃいいわけじゃないでしょう。とりあえず、もう勘弁です。晩飯が作れなくなっちまう」



グナイが両手をあげて、頭を振る。

そうして厨房へ入っていった。



「ところでライラ」



菓子を食べ終えたブラムが、眉をしかめてライラを見た。

これまでと違い、真面目そうな雰囲気を纏っている。



「どうしたの?」


「ちっと、話があんだ」


「ということは、お金の話?」


「察しがいいな。まあ、お前に金以外の相談をしても意味ねえからな」


「……聞きませんよ?」


「っと、わりい。それで話ってのはな――」



そう言ったブラムが、思いのほか真面目な話を切り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る