放浪編 アイゼの発明家

アイゼ


空色の葉。

光と風を受け、宝石のようにチラチラと輝いている。



「ようやく出ましたね」



空色の葉を見て、ライラはほっと息をこぼした。

ウォーレンに着いて、八年。

庭に植えたロズの木に、待望の葉が生まれたからだ。



「時間かかりすぎだろ。元なんざ取れねえよ」


「でも空色の葉一枚で、銀貨三枚ですよ?」


「こいつを育てんのに、お前は金貨何十枚使ったんだ? ああ??」



ブラムが空色の葉を睨んで言った。

ライラは「そういえばそう」と苦笑いする。


ウォーレン地方の東部の街、アイゼ。

そこで邸宅を構えたライラが最初に買ったのは、ロズの木であった。

育ったロズの木に生える空色の葉が、宝石のように高く売れると評判であったからだ。

しかし空色の葉が生えるのに、八年かかった。

しかも目の前の一枚だけである。



「まあ綺麗ですし。いいじゃないですか」


「そうだな。だが銀貨三枚でそいつを買ったほうがいいってもんだぜ」


「ロマンが無いですよ」


「お前の口からロマンなんて言葉が出るたあな。ロマンに謝ったほうがいいんじゃねえか」


「うるさいなあ、もう」



ライラは頬を膨らませ、空色の葉を摘まんで取る。

すると葉から澄んだ音が鳴った。

成熟した空色の葉は、心地よい音を奏でるという。

たしかにそうだと、ライラは頬を緩ませた。



「そういや、手紙が来てたぜ。二通」



ブラムがテーブルを指差して言った。

テーブルにはブラムの言う通り、二通の封書が置かれていた。

それらは手に取らなくても、差出人が誰か分かる。



「クナドの商会と、ガラッドから?」


「らしいな」


「少しは進展があったのでしょうか」



クナド商会からの封書を取り、ライラは封を切った。

手紙の内容は非常に事務的なものであった。

主にジェノンへの投資とその結果が記されていた。


トゾの森を抜けてジェノンに投資したのも、八年前。

道の整備はともかく、村の再建がようやく始まったらしい。



「やっとかよ。魔物除けの効果がずいぶん長く残ったようだな」



手紙の内容に、ブラムがため息をこぼした。

ライラは頷き、手紙をテーブルに置く。



「そうみたいですね。ですが、良かったです」


「これでちったあ儲かればいいがよ」


「儲けのためにしたわけではありませんから」


「そうだったな、お前は贅沢しか考えてねえからな」


「……言い方あ」



ライラはがくりと肩を落とす。

ブラムの言う通り、ライラは贅沢にお金を使うことに余念がない。

なのに、商売の才能はまったく無い。

「お金に困らない力」がなければ、とうに破産しているだろう。

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