「お金に困らない力」


村の人は予想以上に親切であった。

とにかく服が欲しいライラに、村の人々は服屋の場所を教えてくれた。

「私のお古をあげましょうか」と言ってくれる人もいたが、一応断った。

ウサギのことを信じるならば、服ひとつ買う程度のお金に困るはずがないのだ。



「やあ、お嬢ちゃん。沼にでも落ちたのかい?」


「……そんなところです」



服屋の店主の皮肉に応え、ライラは着やすそうな服を探した。

同時に、ライラは自らの財布も探した。

しかしやはり持ってはいなかった。

ライラの持ち物は、みすぼらしい葉っぱの服と、村の外で出会った男の上着のみである。



(やっぱりそんな都合の良いことなんてないかあ)



ライラは半ば諦めつつ、店で一番安い服を手に取った。

こうなったら土下座して、数日タダ働きするなりして服を手に入れる他ない。


土下座のタイミングを窺いつつ、ライラは店主のもとへ行く。

すると突然、手元に違和感を覚えた。

何かを握っているような感覚がある。

不思議に思って、ライラは自らの手を見た。



「……え? これって……お金?」



開いた手に、銅貨が八枚乗っていた。

ライラは首を傾げる。

確かに今の今まで持っていなかったものだからだ。



「それを買うのかい?」



訝し気な目で店主がライラを見ていた。

ライラはびくりと肩を揺らす。

同時に、手の内にある銅貨を握りしめた。



「あ、……えっと、はい」


「銅貨八枚だ」


「……え、あ、じゃあ、これで」



ライラは突然現れた銅貨を店主に手渡した。

あまりに戸惑いながらお金を渡したので、店主が疑いの視線を向けてくる。



「もしかして盗んだお金じゃあないだろうな?」



店主の視線がライラに突き刺さった。

ライラはすぐさま否定したが、店主の疑いの目が晴れることはなかった。

これはまずいかもと、ライラは買った服を掴んで店を飛び出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る