異世界テイマー

第116話 現代人は祈る

「賑やかになったってレベルじゃねえなこれ……」

「旧リトネコ王国の王都より人でごった返してますね……」

「屋台がいっぱいだー！」

なんか地上でシュヴァリエのライトさんとエワル国のディードリッヒさんがこの大陸の北部地域を賭けてあれこれ外交戦をやっているのを眺めるのも面倒になったので、ダンジョンをひたすら潜っていたらアリエルの街が凄い事になっていた。

付き添いのローも驚くレベルで人は多く、ルーはあちこちの屋台で買い食いを始める。露店が増えたからか、食べ歩く人も多いし、商売繁盛してそうだな。まあこれだけの人が居て商売で赤字になることはまずないだろう。ものがあればあるだけ売れるレベルの人の数だ。

……いや1ヵ月地上から離れただけなのに、いざという時に頼れそうな自分がいないのに、こうなるのか。一応法も定まり、低ランクの冒険者が見回り活動を始めるなど治安向上のための活動も開始した。無秩序で混沌としているはずなのに規律がある不思議状態。

「おうそこの兄ちゃん、良い女連れてるじゃねーか。どうだ、一晩10万円で貸さねーか？」「おい馬鹿やめろ！」「そいつに手を出すんじゃねえ！」

時々よそ者に絡まれる気がするけど、こちらから何か反応をするよりも前に、元々の住民達に必死に止められる。……綺麗所が一晩寝る時の相場はこのやり取りで大体分かったけど、日本円にして10万円ぐらいの価格の金を貰えると考えて良いかな。

結構な額ではあるけど大金じゃないって感じ。あと娼館も覗いてみたけど日本とそう変わらなさそうかな？いや自分は行ったことないけど一晩3万円から5万円がアベレージなら日本とそう変わらない……のかなぁ？

小麦やパンの価格は一時期高騰していたはずだけど、今見たら下落気味だし、これだけ人が集まっていて物不足なのに領内でインフレが起きてないのはちょっと面白くない。……この1ヵ月でほとんどの農村部はシュヴァリエから離反してエワル国所属になったし、その影響が大きいそうだな。

ルーとローという美人2人を連れて歩き回ったが、よそ者に絡まれる以外にイベントは特に起きず。無事に冒険者ギルドに辿り着いてしまったのでワイバーン商会に渡す肉やら素材の大量売却を行う。

「肉は高値で買い取ろう。人が増えて供給が不足していてな」

「お、マジか。

じゃあ532階に大量に居て稼ぎやすかったレジェンドドラゴンの肉を卸すわ」

「……見たことも聞いたことのないドラゴンの肉なんだか」

「しっかり焼いてしまうと硬いから薄い肉を炙って食うぐらいがちょうど良かったぞ」

「何㎏だ？」

「300体分で大体420トン」

空間を弄ることの出来るキューやらルーやらローのお蔭で、アイテムバッグの容量は大きく拡張され、もう無限に入ると言っても良い。今までもほぼ無制限だったけど、このお蔭で巨体のドラゴンを丸ごと何百体も持ち帰れるようになっていた。

というかもう一々取り出すのが面倒なレベルで肉は回収出来ている。まあ育てている魔物達にも肉が必要というかそっちの方が主目的で、冒険者ギルドで売るのはついでだな。お金稼ぎは型落ちになった深層装備を売るので十分だし。

「あとディードリッヒから伝言を預かっているのだが、エワル国は当分の間、ディードリッヒが国家代表代理で俺が副代表ということになった。……何か異存はあるか？」

「あれ結局自分が国家代表ってことになるの？」

「どう見てもお前の国だし元々この近辺の領主だろうが。あくまでディードリッヒは代表代理だ」

「じゃあディードリッヒさんに全権委任するからあとはよろしく」

エワル国は国家代表が自分で、ディードリッヒさんが国家代表代理、冒険者ギルドのマスターが副代表ということになった。主席とか元首とかそういう言葉じゃなくて『代表』って言葉を使う辺り、政治形態はこのままの無政府を貫く感じかな。

南のマウリス教国は宗教国家だし、スターリンは一応民主主義だし、フェルミン共和国も共和国の名の通り独裁者のいない民主寄りの政治。そんな中、シュヴァリエという名の貴族制の国家が挑んでいたのが個人的には好みだった。

……だけどここから無政府国家が北部地域で天下取る流れはあまり考えてなかったし、マウリス教国を食う勢いで増大しているのは如何にこの世界でも民衆が力を付けたのかよく分かる光景である。これ、勢いが止まる要素はないし拡大し続けるんじゃないかな。

一応、無政府状態だと地方の統治が難しくなる欠点はある。でも枠組みをディードリッヒさんと冒険者ギルドのマスターが作ってしまった以上、それぞれの街で機能をする可能性は高い。それぞれの街が独立国家みたいになって、相互に支援する形になれば最良の形か。

個人的には、遠くの地域の魔物達が暴走しないか心配ではある。魔物の中でもスライム達は凄まじい勢いで繁殖してるし、進化すれば天敵が少ないからその内地上を覆いつくす可能性すらある。

……まあスライム達は餌が減ったら共食いを始めるし、増え過ぎたら繁殖しなくなるし、人間を勝手に襲わないような教育を徹底していれば大丈夫でしょ。大丈夫だと思う。大丈夫だと思いたい。大丈夫であってくれ。