第115話 現代人は静観する

エワル国は冒険者を動員し、軍を編成して1万という数で北上を開始した。なお指揮官まで冒険者なので組織的な動きは期待出来ない。スパイとか入りたい放題だろう。大将はディードリッヒさんの腹心っぽい人。


今回の北上で、旧リトネコ王国の王都とシュヴァリエの首都を分断するのが目的らしいけど、単純に現在のシュヴァリエ北部は農作物の収穫量が多く、特にこの旧リトネコ王国の王都とシュヴァリエの首都を結ぶ地域は肥沃な土地であることが大きい。あとシュヴァリエにとってはこの1手で、国家運営が致命的な状況に陥るのも侵攻理由かな。


そしてこの軍はどちらかというと戦闘用の軍ではなかった。如何にエワル国が素晴らしい国かを宣伝し、各村々へシュヴァリエからエワル国への転属を促す軍だった。敵国で徴兵とか前代未聞のことをやってる。しかも成功してる謎。


シュヴァリエ側は財布の底が尽きていたのにも関わらず、常備軍を動かし約6000人という数でエワル国から出て来た軍に相対する。しかしその時には既に、シュヴァリエの北部地域の幾つかで寝返りが起きていた。まあ無税とか言われたら鞍替えするところも出て来るよね。


徴兵に応じた村や街も多く、その数は12000人まで膨れ上がっていた。烏合の衆とはいえ兵力倍で、しかもシュヴァリエ側は疲弊した軍だから突っ込むのは躊躇するレベル。


……特に街を治めていた貴族で悪政があったところほど、その貴族を自分達で追い出してエワル国の傘下に入るというムーブが見られた。あと農村部では検地が実施され、来年以降の年貢が増えることに猛反発しているところは多かったから、寝返りは必然的である。


寝返りというのは、一度起これば連鎖するものだ。自然と、シュヴァリエの北部地域は大半が寝返るような状況となった。つまりはまあ、領土が増えた。その後、きちんとディードリッヒさんは領地の50%というかそれ以上の面積を魔物用として区分する。


侵攻では力を貸さないと自分は言ったし、領内に住む魔物達もそれを守っているけど、切り取った領地で魔物達の区域に一度設定されてしまえば防衛戦争になるため、領内に住む魔物達の中でも好戦的な子は勝手に防衛戦争に参加するようになった。


……というかダンジョン潜ってたら領地がアホほど増えて魔物達が勝手に防衛戦争を開始していたのでもうシュヴァリエの行く末を見守るどころか殺しに行ってる状況。何かちょっと残念な気もしたけど、このままだと破綻していた可能性も高いしマウリス教国に轢き潰される未来の方が可能性としては高かった。


でもそれはそれとして主人公パワーで切り抜ける姿を見たかったのは確かだよ。何というか、自分の手で原作壊すのはちょっと悲しい気持ちになる。原作の詳細知らんけど。そもそも自分が領土持っている時点で崩壊しているというか、サウイマ商会が出来た辺りで既に崩壊はしてる。


侵攻した地域は全部が全部、農地で開拓されているわけではないので魔物達の住む領域というものはきっちり確保出来ている。当然それに地元住民からは反発も出るが、従来の魔物達が駆逐され、田畑を荒らさない魔物に置き換わるだけだと知ったらむしろ歓迎されるという。


結局、軍はほぼ交戦しないままシュヴァリエ北部地域をエワル国は呑み込んだ。というかシュヴァリエ軍が茫然自失としていた。まああれだけ戦争に次ぐ戦争で領土を拡張していったのにも関わらず、取り込めていたと思っていた存在に民衆を全部掻っ攫われたらそうなるわな。


豊かな穀倉地帯をシュヴァリエは喪失した結果、当然ながらシュヴァリエ側で食糧価格高騰の懸念が起き、さらにアリエルの街への移住者は増えることとなる。


ここまで来るとエワル国は正式な独立国家として認めざるを得ない状況となり、ディードリッヒさんは国家の枠組みを作ってトップに立った。そしてどうやらディードリッヒさんは、シュヴァリエを外交で降すそうだけど向こうにもプライドがある以上、簡単には併合されないだろう。


しかし、民衆は別だ。そもそもシュヴァリエ自体が最近建国された国であり、民衆にとって国に対する感情は複雑だった。そんな中、ウェルカムしてくる一見すると良さげな国があれば飛び込む人も多い。


後日、シュヴァリエは国境封鎖に踏み切ったけど完全な悪手。移住したい民衆と移住規制を行う軍の対立は、守るべき民衆と民衆から組織された軍の対立構造になったため、軍にも不和が生じてどうしようもない状態に陥る。


そもそも穀物価格の高騰が起こり始めた状況で、商人の行き来を完全になくす国境閉鎖は焦った判断であり、主人公力が尽きたなという感じ。貴族の中でも判断の早い人間はさっさとエワル国側へ寝返る辺り、流石にこの乱世を生き抜く領主達は判断が早い。


……んー、これ最後に残るのは旧リトネコ王国の王都付近だけかな?農村部はほぼ鞍替えするだろうし、最終的には国として保てなくなるだろうからディードリッヒさんが言う通り外交で降せそうな気はする。この後マウリス教国と対立していくかは、ディードリッヒさん次第かな。

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