第71話 現代人はバイキングが好き
マウリス教国の北の街の教会を破壊し、聖女から杖をパクった後はマウリス教国の中央にある聖都へ向けて移動を開始する。今回もハルが馬車の荷台部分を運ぶわけだけど、とても目立つので何かが追いかけて来ているのは遠目で見える。
「ちょっと速度上げることは出来る?」
「出来ますよ。少し揺れますが大丈夫ですか?」
「ちょっと揺れる程度なら大丈夫。
……あれ、馬に乗って追いかけて来ている感じか?」
「先ほどの聖女の後ろに居た騎士の1人ですね。
お兄さんの名前を呼んでいますけど止まらないんですか?」
「……面倒だから聖都に着いてから対応するか」
マウリス教国の北部の都市から中央の聖都まではおよそ400㎞の道のり。それを走って追いかけて来たあの馬は相当良い馬だな。赤兎馬並みに走ってる。
まあ聖都に向かっているのは一目瞭然だったし、途中で見失っていた期間もあるから道中で馬を変えて追いかけて来たのかな。そして聖都に辿り着いて宿を確保したら例の騎士も聖都に到着。部屋の中に引き籠り、照魔境で騎士の動きを確認をするとまずは兵の詰め所的なところに行って、次に大きな聖堂にいる教皇へ報告をしていた。
あっ、騎士さんが教皇の近衛兵的存在に取り押さえられて教皇に怒鳴られている。ちょっと音声がないから推測するしかないんだけど、あの聖女の杖を奪ったのが不味かったっぽいか?自分達から見ても高性能ということは国宝級の装備だった可能性は大いにあるし、国宝パクられたら400㎞だろうが1日で駆け抜けるわな。
兵の詰め所に居た将軍っぽい人も現れ、教皇と共に自分がいる宿屋へ接近し始める。何か鍛え上げられている兵もぞろぞろついてきているから街の住民が怯えている様子も分かるな。こんなことで教皇自身が動くのか。
道中、教皇は指示を出していた神父っぽい人から幾つかの指輪を受け取る。持って来ていてた人の手が震えていたし、数が何個か確認していたけど恐らく深層装備が3つはあるかな。指輪の深層装備を好むことを理解し、自分はあの爆乳聖女に『深層装備2つ』と言ったのに3つ用意しているところを見るに、アリエルの街の冒険者ギルドのマスターから報告を受けていたであろうマウリス教国側の雇い主は、あの教皇か。
何というか、力があると周囲の人って凄く丁寧な対応なるね。案の定、教皇は宿屋に直接訪問し、謝罪と共に杖と指輪の深層装備3つの交換を申し出て、それには快く応じる。……一時は魔王扱いしていたのに随分と腰の低い対応だ。いや、魔王候補扱いだったか。それがこの対応は、相当怖がられている。
というか今回の件、国のトップが頭下げに来るような出来事だったか?あの爆乳聖女もまあ『ヤバイと噂の奴が来たから監視付けなきゃ』ぐらいの認識だったから対応ミスっただけっぽいし。一応詫びの品まで貰えたからもう良いやと思えるレベル。
その後は屋根裏や壁と壁の間の隙間を調べたけど、間者の類は居なかったので安心して寝る。……やっていることが統合失調症患者のソレなんよ。そもそも寝る時は毎回結界を張ってるし、そこまで神経質になることもない。
そして今回は朝食をゆっくりと食べることが出来るのでマウリス教国の食事を楽しむことが出来る。爆乳聖女に絡まれた時はすぐに出た方が良さそうだったので朝食抜いて空の旅の途中で携帯食料を食べるだけだったから、マウリス教国に入って3日目でようやくマウリス教国の食に触れることが出来るという。
今回の高級宿で出て来たのは、鶏肉っぽいものが入った卵スープと複数種類のパン。あとは燻製された肉類と新鮮な果物が幾つか用意していて、希望のものをカットしてくれるバイキングっぽいシステム。
「スー、あーん」
「あむ!」
とりあえずスープに入っていた鶏肉っぽい肉をスーに食べさせて、特に問題はなかったから毒はないな。毎回他の魔物を使って毒見させているような気がするけど、毒を入れられたことなんてないので過剰な警戒と言えば過剰な警戒だ。パンの方も毒はないけど日本のパンになれている自分にはあまり美味しいものではない。この世界、高いパンも安いパンもそんなに差がないんだよ。
そして果物の方は結構美味しいものもある。流石に異世界なだけあって、メロン味のミカンとかあるな。リトネコ王国周辺だと見かけない果物も多いのでかなり新鮮。
「もっと多く欲しい!あ、もう私が切る!」
「……すいません、後でフェンリルの肉1頭分渡すので許してやってください」
「別に構いませんよ。この宿にはよく食べる人も多く泊まるので。……それにしてもあのお嬢ちゃんよく食べるわねえ」
魔物達には燻製した肉が人気のようで、ルーがもうシェフのおばちゃんを無視し、自分で切り分け自分で勝手に食べていたのでフェンリルの肉を1頭分丸々納品しておく。
最初はやんわりと断られたけど、ルーの食べっぷりを見て受け取って貰えたのでついでに毛皮のコートとかよく切れるナイフとか詫びで渡しておこう。自分達だけで用意されている肉塊を2個ぐらい消費してるし、食べ放題で代金は払っているとはいえちょっと申し訳なかった。
ああいうベーコンみたいな肉塊って作るのに1週間から2週間ぐらいはかかるはずだし、結構手間がかかるはず。というかやっぱ魔物達はよく食べるな。一番小食気味のキューですらパンやスープはおかわりするレベルだし、食べ放題じゃなかったらかなりの金額になっていたかな。
食事も終わり、改めてスターリンへ向けて移動しようとしたところで声がかかる。……なんか金髪でスレンダーな修道女だけど、あの爆乳聖女と同じ杖を持っている辺りはこいつも聖女なんだろうな。
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