第51話 現代人は観戦するのが好き

リトネコ王国の爺さん伯爵の軍がわりとボロボロだったのを見て、追い出したのは可哀想かなとか思いながら伯爵の軍の装備を売り払っていると、リャン帝国軍とシュヴァリエの軍がアリエルの街のすぐ南で激突しそうとの話を聞く。


この戦いに参戦したくはないし、参戦しないとは言ったけど、ちょっと覗きたくなったので上空から見下ろして観戦することに。あの目隠れ王子と紫皇女の対決は面白そうだしね。お互い指揮官なのに最前線で戦っているタイプとのことなので頭おかしいと思う。


というわけでハルに持ち上げて貰ったアルの花の上に乗り、戦場の空高くを飛ぶ。当然ながら下は豆粒というかもうよく見えないので、キューに照魔鏡を出して貰って地上の光景を拡大する。


……キューが七尾になって、レベルアップしていく内に使えるようになった魔法なんだけど、照魔鏡って九尾の狐が化けた存在を看破するための鏡じゃないのか?機能としては遠方の光景の拡大だけだけど、ダンジョンとかでもかなり先を見通すことが出来るので便利ではある。


これがその内、直線的な拡大だけではなくあらゆる遠方の光景を視れるようになる感じはするな。八尾か九尾になったら機能が追加されるのだろうか。キューは唯一、進化先が分かりやすく一本道だし期待せざるを得ない。


で、数は事前情報通りにリャン帝国軍が2万人近くでシュヴァリエ側は8000人ぐらいかな?既に1度戦っているはずなので互いに離脱者はいるはずだけどシュヴァリエ側はあの目隠れ王子が指揮しているはずだから伏兵でどっかに潜ませているとかありそう。


「シュヴァリエ側はかなり後方に2000人を置いているのじゃ」

「ああ、あっちの後方の森に部隊分けてるのか。

……んー、わざと撤退して誘い出してから十字砲火かな。伏兵の部隊にセリテーヌ王女いるし」


開戦すると、紫皇女が率いる2000人ぐらいの騎馬隊が横陣を敷いている目隠れ王子の軍に突撃するけど王子もかなり前線近くで剣を振るっているのを確認。途中で光線を剣から出しているけど人の身体を貫通していないので威力はしょぼい。


たぶん、普通の人間でも「あっつ!?」ってなるぐらいかな。あー、光線が当たったところは結構火傷になっている人多いな。致命傷ではないだろうけど痛そう。


一方の紫皇女は矛を振るって重装備の歩兵を2、3人纏めて吹き飛ばしているので身体強化系の魔法を使っているのだろう。紫皇女の騎馬隊がかなり強く、シュヴァリエ側はこの騎馬隊での突撃だけで陣形が半分崩壊している。


そこにリャン帝国の歩兵部隊やら弓兵部隊やらが攻撃を始めたので崩壊していくシュヴァリエ軍。目隠れ王子とその周囲の部隊は軍が崩壊を始めると速攻で後方の森を活用して逃げていくが、紫皇女とその周辺の部隊は追いかける。


……で、紫皇女の部隊にセリテーヌ王女の部隊が横撃を決め、目隠れ王子も反転して紫皇女へ攻撃を始める。これ紫皇女の頭がわりと残念だったから決まった作戦だな。流石にあの状況で伏兵ぐらいは警戒しろよと。というかそもそも指揮官が先頭を走って突撃するなよ。


「今回お兄さんがこの戦いを見た理由って何ですか?」

「リャン帝国とシュヴァリエの強い人がどの程度の強さなのか把握するのと、軍としての強さがどのぐらいの強さなのか把握しておくため。ヘンリエッ……タ皇女はそこまで強くないけど、あの目隠れ王子は今なら10階程度は楽に突破しそうだな」

「ライト王子よりかはヘンリエッテ皇女の方が強そうですけどね。2対1でそれぞれの攻撃に対応するのは、見た目以上に難しいです」


目隠れ王子も後方へ撤退を開始する時に馬に乗っているため、紫皇女とは馬上での対決になっている。そこに同じく指揮官として馬に乗っていたセリテーヌ王女が光属性魔法で横から攻撃しているから紫皇女がかなり押されているように見えるけど、ローがヘンリエッテ皇女の方を強いと言うならヘンリエッテ皇女の方が強いのかな。


あっ、この先崖でアリエルの街からリトネコ王国の王都にまで繋がる川がある。そのことに気付かず、どんどん馬の速度を上げて一騎討ちをし続けるライト王子とヘンリエッテ皇女。


これは崖から落ちるとか思ってたら案の定落ちて、ライト王子が気を失ったヘンリエッテ皇女を救助する展開に。おいお前らさっきまで殺し合いしてただろ。何でそんなあっさり助けるヒーロームーブと助けられるヒロインムーブが出来るんだ。


そしてライト王子はしばらく流された後、川から上がり、紫皇女を背負って洞窟に入っていくところまで確認したので心境はすんげえ複雑。これで紫皇女が惚れる展開なんだろうな。濡れた服を乾かすために脱がすイベントとか目を覚ました紫皇女が慌てふためく姿が何故か幻視出来たので洞窟の中までは覗かなくていいや。


戦場の方は、セリテーヌ王女が互いに撤退するよう申し入れをして、自分に貢物を持って来ていてた紫皇女の側近がそれを受け入れていた。……軍としてはリャン帝国軍が圧倒していたけど、将の心を射貫かれたっぽいからシュヴァリエの勝ちになるのかなこれは。

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