第46話 現代人は偽名に抵抗がない

ワイバーン運送との商談から数日が経過し、初めてこの世界に来て最初に入った店というか商会のトップから、アリエルのダンジョン狂い宛てに招待状が届いていたので、今日はこの世界に来て初めて立ち寄った街に戻る。


今だとハルが抱えて飛んでくれるから、往復でも1時間かからないね。付添人は擬態が得意なスーとキュー。護衛役がルー。これだけでたぶん軍を相手に出来るというか壊滅させることが出来る戦力という。


ナージャとアルには湖周り周辺の土地の整理と柵作りとトラップ作りをお願いしておいた。あとはいつも通り地下の空間の拡張。長期間離れるかもしれないので、常識人寄りのローとムーをアリエルの街の家でお留守番させている。


そして最初の街に到着したら、ハルは上空で待機。キューとスーはそれぞれ子狐と丸いスライムに擬態するので、人型で傍にいるのはルーだけだね。ぱっと見では重装備の男女コンビがスライムと狐を従えてる感じだ。まあ男より女の方が明らかに重量感ある装備をしているけど、その辺はあまり気にされてないかな。


「ケイトさんお久しぶりです」

「……本当に久しぶりです。よく生きてましたね。

まさか、トーマさんがアリエルのダンジョン狂いだったとは」

「あ、トーマじゃなくてトーヤです。最初の自己紹介の時のは偽名でした」

「でしょうね。こちらの鑑定ではトーヤと出ているのにトーマと名乗られた時は突っ込みたかったですよ」


さて、今日会いたいと言って来たのはサウイマ商会のケイトさん。これ会った直後だと気付かなかったんだけど、恐らく日本名はサイトウケイマさんかな。つまりはまあ、日本人だ。そりゃ日本人であること見抜いて来るし、アイマスクの概念は買い取りますわ。


というか、自分の偽名がバレていたことをバラして来る辺りは互いに互いが日本人であると察したから明かしに来ているのかな。同郷ってだけで仲良くするかは微妙なところなんだけど、向こうは仲良くしていくこと前提みたい。


「自己紹介でパッと偽名が出る人って少ないんですよね。この世界で鑑定を使える人は少ないですし、バレる可能性も低いです。ですから少なからずあなたには何かあると思って投資しましたが、まさか最短でAランク冒険者になるとは思いませんでしたよ」

「……ちなみに今日呼び出した理由って何ですか?」

「アリエルのダンジョン狂いがワイバーン運送の方々と面白い商売すると聞いて一枚噛みたいなと。ダメ元でしたが来てくれる辺り恩を売っておいて良かった……!」

「それ口で言うとダメな奴じゃないですかね?」


サウイマ商会はこの人が立ち上げ、数年であっという間に拡大していったらしいけどケイトさん商売が上手すぎる。いやでも現代人の知識というか知能があったら特産品のブランド化とかだけでもある程度は儲かっていく感じがするな。


ちなみにアイマスクは貴族を中心にこの人が流行らしたようで、何らかの情報操作手段を持ち合わせていることは分かっている。単に口が上手いだけの可能性もあるが、リトネコ王国ではかなりの力を持った商会を作っているのでただの一商人ではない。


真にコミュニケーション能力が高い陽の人間は、相手に合わせて話をすることが出来る。たぶんこの人はそういうタイプの人なんだろうな。自分は今凄く話しやすいし、日本に居た時は営業やってそうな人だ。


「日本に居た時は何をやっていたんです?」

「それは話したくないですし、そちらの方から話して欲しいです」

「私ですか?私は高専から普通のメーカーに入って営業やってましたよ。この世界に来たのは5年前で、当時26歳です」

「おー、予想通り」


会話を進めると予想通り元営業職で現在31歳。ということは13歳年上か。干支が一回り以上違うと完全に世代が違うわけだけど、完全に子供として見られているだろうな。


それはそれでちょっと嫌な気分になるけど個人的には命の恩人です。この人いなかったらもうちょっと立ち上がりというか初動は悪かっただろうし辛い思いをすることが多かったと思う。


「自分は日本に居た時は18歳でした。こちらの街がこの世界に来て初めて立ち寄った街で、そこでアイマスクを売ったところまでが転移初日です」

「……え、18歳?高校生?」

「高校生やってたか大学生やってたか社会人になっていたかはご想像にお任せします」


咄嗟に嘘つくことが得意なので、大学受験で失敗して浪人生活をしていたことは伏せる。実家暮らしで毎日がゲーム三昧だったし半ニートだったよ。バイトはしてたけど、それも物流倉庫の荷物運びや工場内の作業だったし。


ある程度雑談もしたところで、本題に入って行くけどワイバーン運送で輸送した後、素材の売り込み先にサウイマ商会を使用して欲しいって感じだね。ぶっちゃけ手っ取り早く売れるようになるからそれで良い気はするけど、あまりに低価格で買い叩かれて転売されるのも気分的に嫌。


……ダンジョンに潜っていると市場価格の変動とか一々気にしてられないし判断は難しい。にしても5年でリトネコ王国内のあちこちに支店持ってる商会を作った辺り、本当に商売が上手い人なんだろうな。

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